DXの必要性が認識され、多くの企業が取り組む姿勢を見せています。しかし、スムーズにDXを進めることができる企業ばかりではありません。DXが進まない理由のひとつには、DXを理解して推進できるスキルを持った人材が不足していることがあげられます。DXを進めるためには、ITに関する知見とビジネスに関する知見の両方を持った人材や、DXに必要な技術に詳しい人材が不可欠なのです。しかし、そのような人材は常に不足しています。
ここでは、DX人材とは何か、どのようなスキルが必要か、どうすれば確保できるのかなどを説明します。
DX人材とは
DX人材とは、DXを進めるために必要な人材のことです。経済産業省の「DXレポート2」では以下のように記載しています。
『自社のビジネスを深く理解した上で、データとデジタル技術を活用してそれをどう改革していくかについての構想力を持ち、実現に向けた明確なビジョンを描くことができる人材を指す。さらに、DX人材には、社内外のステークホルダーを自ら陣頭に立ってけん引し、DXを実行することが求められる。』
引用元:DXレポート2|経済産業省
また、IPA(情報処理推進機構)では、次のような職種がDX推進を担う役割の人材とされています。
- プロデューサー
DXやデジタルビジネスの推進を主導するリーダー - ビジネスデザイナー
DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進を担う人 - アーキテクト
DXやデジタルビジネスのシステムを設計する人 - データサイエンティスト/AIエンジニア
DXの推進に必要なデジタル技術やデータ解析を行う人 - UXデザイナー
システムのインターフェイス、ユーザーと関わる部分を設計する人 - エンジニア/プログラマー
システムの実装やインフラ構築を行う人
参考:デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査|IPA 情報処理推進機構
以上の職種・役割について詳しくは、「DXを支える技術とは?技術を生かしてDXを推進するのに必要な人材も紹介」で解説しています。
また、DXについて詳しくは、「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」をご覧ください。
DX人材に必要な能力
DX人材には、ビジネスに関する知識や経験、デジタル技術の知見やスキル、さらにDX人材に向いたマインドセットが必要です。具体的には、次のようなものが求められます。
デジタルに関するスキル(ハードスキル)
- 基礎的なITに関する知識、デジタルリテラシー
IT機器やネットワークを使いこなすレベルから、エンジニアとしてシステムを構築するレベルまで、職種に応じたスキルが必要です。 - AIなどの先端技術、デジタルトレンドに関する素養
現在主流になっているものばかりではなく、これから主流になると思われる先端技術についての知見や、最新情報を積極的に集めようとする姿勢も重要です。 - データ蓄積、分析能力、データサイエンスに関する知識
大量のデータを収集して分析し、ビジネスに活用すること、つまりデータサイエンスは、DXに欠かせない要素です。 - UX・UI志向
DXでは先進技術を使うだけではなく、ユーザーにわかりやすく使いやすいものを提供しなくてはなりません。そのため、ユーザーの視線で考える意識も重要です。
そのほか、それぞれの職種や役割に合わせたスキルが必要です。
ビジネスに関する知見(ソフトスキル)
- 自社の業務に関する知識
日々の業務や研修で身につけるような、自社業務に関する基本的な知識です。業務に関連した周辺知識も含まれます。 - コミュニケーション能力
異なる役割や職種、スキルレベルの相手とコミュニケーションをとり、相互理解する能力が必要です。 - 問題を発見し、解決する能力
課題を自主的に発見し、あるべき姿へ導く能力も重要です。
DX人材に向いたマインドセット
マインドセットとは、経験、教育、先入観などから形成される、固定された考え方や物事の見方という意味です。DXに適した人材には、マインドセットも重要な要素とされています。
IPA 独立行政法人 情報処理推進機構がまとめたレポート「これからの人材のスキル変革を考える ~DX時代を迎えて~」によると、DXに向いている人材は「言われたことを実施するのではなく、自らポジティブに色々なことに取り組むマインドセット」を持っています。
また、同レポートでは、DXに向いていない人材については「新卒からSIだけではDXの遂行は難しい。言われたものを作っている人材は向いていない」と触れています。SIとは“System Integration:システムインテグレーション”の略称で、顧客のシステム構築を請け負うサービスです。
参考:これからの人材のスキル変革を考える ~DX時代を迎えて~|IPA 情報処理推進機構
ほかにも、課題設定力、主体性・好奇心などが重要視されています。主体的に課題を見つけ、積極的に取り組んでいく人材が求められているといえそうです。
DX人材に求められる資格
DX人材に必ず求められる資格というものはありませんが、職種によって、例えば次のような資格が評価されます。
- AWS認定
AWS(Amazon Web Service)に関する技術やクラウドに関する専門知識の資格 - AI実装検定
AIに関する知識を問う民間の検定試験 - ITストラテジスト試験
経営戦略やIT戦略、コンサルティング能力など経営企画に関する知識を問う資格 - Python 3 エンジニア認定試験
プログラミング言語「Python」やデータ分析に関する知識を問う認定試験 - ITコーディネータ試験
ITを取り入れた経営戦略を行うコーディネータを認定する民間資格 - 基本情報技術者試験
IPAが行い、経済産業省が認定する国家試験である情報処理技術者試験の1つ。ITエンジニアとしての基礎的な知識を問うもの - データベーススペシャリスト試験
情報処理技術者試験の1つで、データベースに関する技術や知識を問うもの - プロジェクトマネージャ試験
情報処理技術者試験の1つで、プロジェクトの計画策定、運営管理に関する技術や知識を問うもの
不足するDX人材を確保するためには
DX人材は大きく不足しているといわれますが、本当に不足しているのでしょうか? また、どのように人材を確保していけば良いのでしょうか?
IPAの調査では、DX人材はどの職種についても、「大いに不足」しているとの回答がもっとも多くなっています。特に次の4職種については、半数前後の企業が「大いに不足」しているとしています。
- プロデューサー
- データサイエンティスト/AIエンジニア
- ビジネスデザイナー
- アーキテクト
参考:デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査|IPA 情報処理推進機構
DX人材を確保する3つの方法
DX人材を社内に確保する方法には、次の3通りの方法があります。
- 外部に委託する
仕事そのものを外注(アウトソーシング)する方法です。システム構築など専門的な業務でよく使われます。ただし、社内にも内容がわかる人材を確保していないと、作業がブラックボックス化してしまうので注意が必要です。 - 社外からDX人材を獲得する
社外で仕事をしている人材を中途採用する方法です。DX人材は需要が高く、労働条件が良ければ転職する人も少なくありません。人材紹介サービスを利用して探すのもひとつの方法です。 - 社内でDX人材を育成する
社内から適性やスキルのある人材を選び、DX人材として育成する方法です。時間がかかりますが、自社の需要に合った人材を確保できます。
DXを推進するには、ITに関する知見だけでなく、自社の業務に関する知識や経験も必要になります。そのため、DX人材の社内育成は、最も重要な人材確保の方法と言えます。
社内でDX人材を育成する方法
DX人材には机上の論理よりも実践的な能力が必要であり、座学以上に実習が重要です。
- OJT
業務を行いながらスキルを獲得する教育方法で、座学よりも実践的な実力が身につきます。
例えば実際に業務のデジタル化やDX推進の取り組みに関わり、他部門の業務やデジタル技術についての知識を身につけるといった方法です。
ただし企業によっては、社内にデジタル技術やDX推進についてのインストラクターとなる社員がいない場合もあります。また、OJTの機会がなかなか得られない企業もあるでしょう。最近ではDX人材の育成支援サービスもありますので、必要に応じて活用するのも一つの選択肢です。 - ベンダーからのスキルトランスファーを目指す
ベンダーでの開発作業に参加し、スキルを獲得する方法です。ベンダーでのOJTともいえます。ただし、応じてくれるベンダーを探さなくてはなりません。
DX人材育成のポイント
社内でDX人材を育成するには、次のようなポイントがあります。
- DXに適性のある人材を見極める
DX人材には、技術的知識だけでなく、コミュニケーション能力やマインドセットも重要です。スキルよりマインドセットを重視して適性のある人材を見極めるほうが、効率的な場合があります。 - 十分な学習支援を行い、実践の機会を設ける
研修の実施や、資格試験受験の学習支援など、必要なスキルを習得できるような体制を整えます。また、より実践的な力をつけてもらうため、OJTを積極的に行います。 - 社員全員のデジタルリテラシーを向上させる
業務にデジタル技術を使用するのは、DX人材だけではありません。DXによって業務の多くがデジタル化されるので、全社的にデジタルリテラシーを向上させることも重要です。
また、デジタルリテラシーの向上を通じてDXに関する理解を深めることは、DXの推進にも効果的です。
社内でDX人材を育成した実例
実際にDX人材を社内で育成した実例を2つ紹介します。
- ヤマト運輸「Yamato Digital Academy」
ヤマトグループでは、2021年に、社内でDX人材を育成するための機関を設立しました。
DX人材候補向け、経営層向け、全社員向けなど、要求されるレベルごとにカリキュラムを用意し、DX人材の育成とデジタルリテラシー向上に取り組んでいます。 - ダイキン「ダイキン情報技術大学(DICT)」
ダイキン工業株式会社では、大阪大学と提携し、社内講座でAI/IoTを活用できる人材を育成しています。
大学の講師から知識を学ぶだけでなく、業務上の課題を取り上げて教材にすることで、実践的な知識やスキルを身につけることができます。
DXを進めるためには育成による人材確保が不可欠
DXを推進するためには、DX人材が不可欠ですが、DXにはITの知見だけでなく、自社の業務に関する知見や経験が必要になります。そのため、アウトソーシングやスカウトだけではなく、社内での人材育成が必要です。
しかし、人材育成にはある程度の時間がかかります。人材を育成してDXを推進し、「2025年の崖」を回避するには、今すぐにでも取りかかる必要があるでしょう。
2025年の崖については、「2025年の崖とは?意味と企業へのかのうなか影響、克服するためにすべきことを紹介 」をご覧ください。