DXの推進は、業種や企業規模を問わず急務とされています。また、働き方改革の実現も以前から国を挙げて促されています。どちらも同時に実現するのは負担だと思われるかもしれません。
しかし、DXと働き方改革には共通する部分も多く、DXを推進していけば働き方改革も実現できるケースや、逆に働き方改革を実現するなかでDXが推進されるといったケースがみられます。
いま企業に求められているDXと働き方改革の関係性を確認し、ともに推進するためのヒントを探っていきます。
社内DX推進は、働き方改革の実現にもつながります。
以下のダウンロード資料では、社内DXの推進により労働時間の短縮化の実現や、コア業務の生産性向上事例も掲載されています。ぜひご参照ください。
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DXと働き方改革とは
DXは、よく働き方改革とあわせて語られます。それはなぜでしょうか。
DXとは
経済産業省では、DXを次のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
引用元:デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0|経済産業省
デジタル技術やデータを活用し、業務効率化を進めるだけでなく、企業活動を変革して新しい価値を生み出し、企業の競争優位性を高めることがDXといえます。
DXについて詳しくは、【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例までをご覧ください。
働き方改革とは
働き方改革とは、「働き方改革関連法案」にもとづき、従来とは異なる働き方を実践するための国策です。労働力不足や働き方へのニーズに対応するため、それぞれの事情に応じた多様な働き方が選択できる社会の実現を目指します。
厚生労働省では、「働き方改革」の目指すものと題して、次のように記しています。
「我が国は、『少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少』『育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化』などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。
『働き方改革』は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています」
主に次の3つの柱を実現することが目標とされています。
- 長時間労働の是正
- 多様で柔軟な働き方の実現
- 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
引用元:働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~(PDF)|厚生労働省
DXと働き方改革の関係
「働き方改革」における「多様な働き方」の例としては、テレワーク(リモートワーク)やフレックスタイム制、時短勤務などが挙げられます。
テレワークの実現には、リモートアクセスや仮想デスクトップなど、ICT(情報通信技術)をはじめとしたITの活用が不可欠です。また、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現のためには、多くの場合、デジタル化や業務効率化を行わなくてはなりません。
さらに、多様な働き方を管理するためには、コミュニケーションツールや新しい勤怠管理システムなどが必要です。
働き方改革は社員の働き方を改革すること、一方のDXは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや企業文化を変革することで、まったく目的は異なっています。しかし、どちらを推進する場合も、業務のデジタル化は必要です。
働き方改革のためにデジタル化を進めることは、DXの推進にもつながります。同じように、DXを推進するために取り組むデジタル化は、働き方改革にもつながるのです。
DXを推進するための技術、デジタルテクノロジーは、働き方改革の推進にも効果的です。DXに使われるデジタルテクノロジーについては、下記の記事でご確認ください。
DXツールとは?意味や種類・導入によるビジネスの変化などを解説
なお、情報通信総合研究所がまとめた報告書でも、DXと働き方改革に強い相関関係があるという結果が示されています。
DXの目的に関する質問に対して企業の回答割合は、「業務効率化・コスト削減」がもっとも多く、「既存製品・サービスの高付加価値化」、「企業文化、働き方の変革」と続きます。なかでも「企業文化、働き方の変革」は、前年(2019年度)の21.6%から8.8ポイントも増えています。
参照:デジタル・トランスフォーメーションによる 経済へのインパクトに関する調査研究の請負報告書|株式会社 情報通信総合研究所
DXと働き方改革をどちらも実現するための流れ
DXと働き方改革をともに実現する方法の一例として、DX推進のなかで働き方改革も実現する流れを紹介します。
次のような流れで進めます。
- 自社の現状を整理
自社の現状と課題を確認し、DXの目的(どの課題をどのように解決するか)を整理します。
これはDXの準備段階です。 - DXを推進する体制づくり
DX推進のプロジェクトチームを発足し、具体的な計画を立てます。
同時に、DXを推進するための予算やIT人材の確保をします。 - デジタル化の推進
・ワークフローを可視化して見直し・整理、さらにデジタル化
・コミュニケーションツールや情報共有ツールの選定、導入
・テレワークの環境整備、導入(リモートデスクトップ、仮想デスクトップなど)
これらの過程は一度行ったら終了ではありません。継続して運用しながら改善や修正が必要です。
このステップは、この後説明するデジタイゼーションやデジタライゼーションであり、DX推進と働き方改革実現の第一歩になります。 - DXと働き方改革の実現
デジタル化を推進し、業務効率化を進めていくなかで、働き方改革が実現します。
また、企業文化の変革や、新しい価値の創造などにつなげていけば、DXも実現します。
上記のように、DXを実現するためのデジタイゼーション(アナログからのデジタル化)やデジタライゼーション(業務プロセスのデジタル化)により、ワークフローの見直しや業務のデジタル化、ITツールの導入などが行われます。それが働き方改革の実現につながっていくイメージです。
なお、デジタイゼーションやデジタライゼーションは、DXを3段階に分けた場合の1段階目と2段階目になります。詳しくは、以下をご覧ください。
【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで
デジタイゼーションとは?デジタライゼーション・DXとの違いや具体例を解説
デジタライゼーションとは?効果や業種別の具体例と推進のステップ
働き方改革の実現につながるDXのデジタルテクノロジー
DXを推進するには、前述のとおりデジタルテクノロジーが必要です。ここでは、働き方改革の実現にもつながる、DXのデジタルテクノロジーの例を紹介します。
- DXツール
DXツールとは、DXを推進するために使われるさまざまなツールのことです。例えば、社内や社外とのコミュニケーションを効率化するツール、オンライン会議システムやコミュニケーションツールなどがあります。これらは、テレワークの推進にも有効です。
DXツールについての詳細は、「DXツールとは?意味や種類・導入によるビジネスの変化などを解説」をご参照ください。
- RPA
ワークフローの見直しやRPAの導入などは、業務効率化や生産性向上につながります。それにより、時間外労働の削減が可能となり、働き方改革の実現にも有効です。
RPAについて詳しくは、「DX推進に大きく貢献するRPA―導入メリットや注意点・事例まで」をご参照ください。
ユーザックシステムが提供するRPA「Autoジョブ名人」の導入により業務プロセスを自動化して業務効率化を実現し、DXの推進につなげているユーザー事例が数多くあります。下記をご参照ください。
きっかけはRPA 旭シンクロテックの事例に見る、DX推進の秘訣
- 5G
テレワークを実現するには、オフィス以外の場所でも、オフィスと同じように業務を遂行できる環境を整えなければなりません。そのためには、5Gのような安定した高速通信が必要です。
5Gについて詳しくは、「5Gとは?定義やできること・課題などをわかりやすく紹介」をご参照ください。
- AI
AIがあれば、問い合わせ対応や検品など、これまで人間の判断が必要であった部分を自動化することが可能です。それによって労働時間を大きく削減できます。 - IoT
IoTを利用してセキュリティや在庫管理などの業務の多くを自動化し、労働時間を減らすことができます。また労働環境のモニタリングや、オフィス/テレワーク両方での勤怠管理を行うことも可能です。
AIやIoTは組み合わせて活用することも多くあります。また5Gの普及により、AIやIoTの活用シーンがより広がると期待されています。
詳しくは、「AIとIoTを組み合わせると何ができる?活用方法とその注意点」をご覧ください。
そのほか、DXに使われるデジタルテクノロジーについての詳細は、以下もご参考ください。
DX実現に必要なテクノロジーとは?種類や活用事例を紹介
DXと働き方改革の成功事例
DXと働き方改革の両方を成功させた事例を紹介します。
株式会社ユーシステムは、システム開発やWeb制作を行うIT企業です。社員の半数が女性であることから、女性が働きやすい環境整備に気を配ってきました。大企業とは異なり中途採用に頼る部分が大きいため、できる限り離職を減らしたいというねらいもありました。
同社はICTを活用し、女性が働きやすい環境を目指した業務改革を行いました。
業務の見える化
クラウド上でのプロジェクト管理、社内SNSなどのICTツールを活用して、社内でのコミュニケーションを活性化し、情報共有を進めました。
社内制度改革
フレックスタイム、半日休暇、傷病積立休暇といった就業制度を整備しました。もともと在宅勤務が可能な環境は整っていたので、かなり柔軟な勤務ができるようになりました。
組織改善
日本生産性本部のマネジメント強化プログラムの紹介を受け、「実効力ある経営」の評価制度を導入しました。アクションプランごとにリーダーを任命し、社内の課題解決に取り組みました。
結果
これらの改革により、女性にとって働きやすい環境を整えることに成功しました。残業時間が削減できただけでなく、結婚や出産を理由とした退職を大幅に減らすことができました。また、求人応募者数が増え、採用活動にも良い影響を与えています。
さらに、ITやICT技術によって社内の課題を解決し働き方改革の実現につなげたノウハウを、サービスとして提供。新しい事業展開にもつながっています。
この事例は、働き方改革の実現が自然とDX推進につながった好事例といえるでしょう。
働き方改革とDXは同じ方向性でともに進めることが可能
DXは主に、企業の生き残りのために行われる改革です。一方、働き方改革は、労働力不足の解決や長時間労働の是正、柔軟な働き方の実現といった、働き手側の労働環境改善を主な目的としています。
DX必須の工程であるデジタイゼーション、デジタライゼーションにより業務効率化・生産性向上を進めていくことで、働き方改革の実現は可能です。また、紹介した事例のように、働き方改革を進めた結果、DXが推進されることもあります。
DX推進には社員のモチベーションが不可欠です。働き方改革を進めて社員の働く環境を改善し、社員満足度を高めることは、DXを推進するうえでもより良い影響があります。
働き方改革とDXは異なる観点から生まれた取り組みですが、両者は同じ方向性で実現することが可能です。ふたつの推進を負担に感じている場合は、両者をともに推進する方法を模索してみてはいかがでしょうか。