マーケティングDXの効果や事例、成功した企業の特徴とは?

多くの企業がDXの必要性を感じ、推進しようとしているなかで、「マーケティングDX」という言葉が注目されています。マーケティングDXは企業全体のDXに内包される一分野のDXと考える人もいますが、マーケティングDXこそ、企業全体のDX推進への足がかりとなるものです。

ここでは、マーケティングDXとはどのようなもので、どういった変革をもたらすものなのか、企業の事例や成功企業の特徴などを合わせて紹介します。

マーケティングDXとは

マーケティングDXがもたらす意味と、デジタルマーケティングとの違いについて見ていきましょう。

マーケティングのデジタルによる変革

経済産業省が策定したDX推進指標において、DXは次のように定義されています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

参照: DX 推進指標とそのガイダンス(PDF)|経済産業省

DXとは、単に業務に使用するツールや業務プロセスをデジタル化することではなく、デジタル技術とデータを活用してビジネスの革新や組織の変革を目指すものです。

DXの具体的な内容については「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」を、DXで重要なデータ活用については、「DXを推進するうえでなぜデータ活用が重要?その関係と効果とは」をご覧ください。

では、マーケティングDXとはどういった意味を持つのでしょうか。

マーケティングDXは、マーケティング分野においてデータとデジタル技術を活用し、マーケティングのプロセスに変革を起こすことを指します。

マーケティングプロセスには、市場の細分化や分析、ニーズの調査、提供価値の決定、商品の差別化、流通販売方法の選定、広告宣伝などが含まれます。これらは、企業が利益を確保するために「モノを売る」という行動が成功するかどうかを左右する重要な要素です。

マーケティングにおけるDXであることから、マーケティングDXの目的はマーケティングという一分野に変革を起こして、部門単位で効率化を実現することだと考えるかもしれません。しかし、マーケティングのプロセスは、企業全体の重要な目的である利益確保に直結しているのです。

「モノを売る」ことの手法に変革を起こすことは、モノの売り方や、売るモノ自体を別のモノに変えていく可能性も含み、新たなビジネスモデルの創出へとつながるからです。

このように、企業の利益確保の方法にも変革をもたらす可能性を持つマーケティングDXは、企業文化や風土の変革までを含む、企業全体でDXを推進するための施策のひとつともいえます。

マーケティングDXを推進することにより、マーケティングだけでなく、企業全体の変革、CX(コーポレートトランスフォーメーション)へとつなげていくことも可能なのです。

CXについては「CX(コーポレートトランスフォーメーション)の必要性とDXとの関係」をご覧ください。

マーケティングDXとデジタルマーケティングの違い

マーケティングDXと似た言葉に「デジタルマーケティング」があります。マーケティングDXとどう違うのでしょうか。

デジタルマーケティングとは、その名のとおり、デジタル技術を活用したマーケティングのことです。

かつては新聞広告やチラシ、ダイレクトメール(DM)、野立て看板やビラ配りなどの宣伝手法が主流でしたが、現在ではSNSでの告知やインターネット広告へとシフトしています。

また、MA(マーケティングオートメーション)によって顧客ニーズや顧客行動をデータとして収集し、ニーズ予測や行動予測などに活用して次の施策へ生かすといった手法もあります。

このように、デジタル技術を導入したマーケティングが、デジタルマーケティングです。

一方マーケティングDXは、マーケティングプロセスにデジタル技術を活用して、マーケティングそのものを変革し、ビジネスモデルや企業の考え方の変革へとつなげていくことを目指します。

したがって、デジタルマーケティングは、マーケティングDXを推進するうえで必要なステップと言えます。

マーケティングDXで起こりうる変革

では、マーケティングDXによってどのような変革がもたらされるのでしょうか。

マーケティングDXを推進することによって次のような変革を起こすことができるのが理想です。

マーケティング業務の効率化と高度化

マーケティング業務では大量のデータを取り扱います。業務をデジタルツールによって効率化することで、データの高度な運用が可能になります。データ運用の幅を広げ、精度を上げることでデータの価値そのものも高まります。

データドリブンマーケティング戦略を実現

高度なデータ運用が可能になれば、データの信用度が上がると同時に、具体的な施策も立てやすくなります。データにもとづいた定量的な意思決定や業務遂行ができるようになることも、デジタル技術とデータの活用による効果です。

データドリブンの経営手法については「データドリブンとは?活用するメリットや実行方法、事例などを紹介」で詳しく解説しています。

市場の変化に対する柔軟で迅速な反応が可能に

データとデジタル技術の活用により、マーケティングプロセス実行の高速化と精度向上が実現します。信用度の高いデータ運用によって選択の幅や対応力が向上し、市場変化に対し柔軟で迅速な対応が可能になります。市場変化に対応できるため、顧客ニーズや市場の潮流をつかみやすくなり、新たなビジネスモデルの創出や新サービスの開発にもつながるでしょう。

顧客体験の向上

こういった効果が重なり合い、顧客体験の向上につながります。企業に対する顧客ロイヤルティが向上し、企業側もそれに応えるために、さらに新たなサービスを創出する可能性が生まれます。

このようにして、顧客ニーズや消費者行動に対応しながら変化していく力を身につけることで、企業全体としてのDXが推進されていきます。

マーケティングDXの成功事例

マーケティングDXの成功事例を2件紹介します。

スーパーの既成概念を打破した取り組み

小売業でDXに積極的に取り組んでいるのが、多くのグループ店舗を展開するユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社(U.S.M.H)です。

従来マーケティングにおいては、ターゲットに「オンライン」で情報収集させ、「オフライン」での購買行動につなげる、O2O(Online to Offline)といった一方通行的な流れが一般的でした。しかしU.S.M.Hでは、オンラインとオフラインを自由に行き交う新たな買い物体験の創造を目指していました。

そのため、オンラインとオフライン両方のタッチポイントをカバーするサービスを必要とし、DXを積極的に推進しています。

例えば、オフラインのタッチポイントとして「Scan&Go」を提供しました。Scan&Goは店内の商品をスマートフォンでスキャンして購入し、キャッシュレス決済が可能になる買い物アプリです。Scan&Go内にはオフラインのタッチポイントとして、ネットスーパーサービス「Online Delivery」を搭載しています。

U.S.M.Hでは今後も新しいサービス機能を開発・実装し、オンラインとオフラインを融合させ、さらなる顧客体験向上を目指すとしています。

以上の取り組みは、これまでは別々の存在だったオフラインとオンラインのマーケティングを結びつけることで、新たなビジネスモデルをつくり出した事例といえます。

インバウンド向けの観光サポートアプリ

株式会社JTBは、ナビタイムジャパン、日本マイクロソフトと共同で、インバウンド向けのアプリを開発しました。

このアプリには、AIチャットボットにより外国人観光客に対して英語で観光情報を提供したり、外国人観光客からの問い合わせに対応したり、さらには個別にオリジナルの観光プランを作成したりする基本機能があります。

ユーザーの利便性向上を目指して機能拡充を続けており、現在では、ツアーやアクティビティなどの予約機能の強化、47 都道府県を網羅する情報の拡充、自治体などとの連携によるその地域ならではの情報の発信なども実現しています。

このアプリを通じて蓄積した外国人観光客の行動データや嗜好データの活用により、より顧客のニーズに即したサービスの提供、魅力的な観光プランの提案などにつなげることが可能です。JTBではさらに、インバウンドの誘致に苦戦する自治体やインバウンドビジネスに課題を持つ企業などへのサポートにも、データを活かそうとしています。

顧客への新しい価値創出と同時に市場ニーズの分析につながるこのアプリの提供は、マーケティングプロセスにDXを活かした好事例の一つと言えるでしょう。

マーケティングDXが成功している組織の特徴

マーケティングDXに成功したといえる企業にはいくつか共通点があります。

実験的なスタートから拡大していく

マーケティングDXに成功した企業の多くは、スモールスタートから段階的に取り組んでいく方法をとっています。

DXを最小限のコストで実験的に開始し、導入したツールに関する課題や成果を分析します。そこから得られた結果が自社に合うようであれば、コストと適用範囲を拡張していくという方法です。

例えば近年のMAツールは、機能としては、広告連携機能やコーポレートサイト管理機能、データ収集分析機能など、さまざまな機能がついています。

このなかから最初に使用する機能を絞り込みます。コストは使った機能に対してのみ発生するものもあり、使用継続や拡張といった選択がしやすく、スモールスタートにも適しています。

実験的な運用でスモールスタートする場合は、必要な機能や求めるデータと運用方法に関して、しっかりとした検証と分析が重要です。

目先の効率化にとらわれない

デジタルツール活用による目先の効率化だけにとらわれないことが重要です。

新たなビジネスモデルやサービスの創出へとつなげていくことが、マーケティングDXの目的です。目指すゴールへと続く実現シナリオとロードマップ、それぞれの段階における具体的な施策を明確にして進めましょう。

DXの意味を理解しデータにもとづいた意思決定を行う

もっとも重要といえるのが、マーケティングDXの意味を経営者が理解していることです。

経営者がマーケティングDXの意味を理解していなければ、企業としてのマーケティングDX推進ビジョンが明確になりません。データとデジタル技術を活用することでマーケティングプロセスを変革し、ビジネスモデルや企業風土の変革へとつなげていくというビジョンの明確化が必要です。

また、直感や経験にもとづいた意思決定に頼ることなく、データにもとづいた意思決定によってビジネスの精度を高めていくことの意義を理解していることも重要です。

マーケティングDXによって顧客と企業を育てていく

マーケティングDXは、デジタルツールによってマーケティングプロセスの作業を効率化することだけが目的ではありません。その先にある、新たなマーケティングのあり方、新しいビジネスモデルやサービスの創出から、企業の変革にまでつなげていくことが目的です。また、顧客のニーズや行動分析によって顧客体験を向上させ、顧客ロイヤルティを高めていくこともマーケティングDXの重要な目的です。

マーケティングDXとは、顧客と企業を同時に育てていくことにつながるものと考えられます。自社に合うDXの推進を考えているなら、マーケティングDXから着手することを検討してはいかがでしょうか。