物流業界の課題―業界を取り巻く社会の変化と課題解決に向けたDXの実現

物流業界の課題―業界を取り巻く社会の変化と課題解決に向けたDXの実現

近年、物流業界はさまざまな課題を抱えています。長く問題視されている人手不足など、すでに慢性化しつつある課題もあります。これらの課題を解決に導くために必要とされているのは、業界全体でのサプライチェーンの見直しです。物流業界が抱える課題と業界を取り巻く環境、課題解決の糸口となるプロセスについて紹介します。

参考E-book≫物流現場の課題のひとつとして挙げられる、出荷業務における課題や解決策については、以下のお役立ち資料で事例を交えながら解説しています。
業務過多の物流現場を効率化するには?e-bookダウンロード

物流はなぜ重要視されるのか

JIS (日本産業規格)では、物流を次のように定義しています。

「物資を供給者から需要者へ,時間的及び空間的に移動する過程の活動。一般的には,包装,輸送,保管,荷役,流通加工及びそれらに関連する情報の諸機能を総合的に管理する活動」

このとき、なぜ移動の必要性が生じるのでしょうか。物資の移動が必要となるのは、その物資に需要があるためです。需要があるということは、その物資に価値があることを意味し、物流とは「価値の移動」と言い換えることもできます。

もし物流が正常に機能せず、望んだ時間や場所に物資が届かなければ、その物資の価値は大きく損なわれてしまいます。

例えば、生鮮食品を移動する場合、迅速に輸送されなければ食品としての価値が失われます。企業が必要とする資材の移動では、納期に間に合わなければ不要な物資となる可能性もあるでしょう。 このように、物流はモノの価値を守る活動であると同時に、人の生活や企業が経営活動を行ううえでのインフラとしても重要な機能を持ちます。

3PLが重要視される理由

近年の物流では、3PL(サードパーティロジスティクス)と呼ばれる業務形態が増えています。

3PLは、JISにおいて次のように定義されています。

「荷主企業でも物流事業者でもない第三者が荷主のロジスティクスを代行するサービス。倉庫、車両などの施設・設備がなくても事業化できる運営ノウハウをもとに、情報システムおよび業務改革の提案を中心に長期的な管理目標を定め,達成した改善利益の配分を受けるものであるが,物流事業者が荷主企業のアウトソーシングニーズに広範に対応して一括受注するケースも含まれる」

こういった内容から考えると、3PLはいわば物流に関するデータ活用の専門家です。データ活用を得意とする事業者が多いことから、物流コストの圧縮や見える化が推進され、次の最適化へとつなげていくことも可能です。

また、3PLに自社の物流業務を委託することで、物流コストの最適化や物流改善が期待できるうえ、自社のコア事業に社内リソースをあてることができます。

以上のようなメリットから3PLの重要性が高まっており、今後さらに3PLによる物流が増加していくと予想されます。

物流業界の抱える課題と解決の鍵

紹介したように、物流業界では新たな業務形態による改善が進んでいるものの、まだまだ課題が多く存在します。物流業界の抱える課題と、課題解決のカギとなる施策を見ていきましょう。

グローバル化と物流の国際化

物流のグローバル化により、国境を越えた商品の流れが増加しました。国際的なネットワークを拡大し、さまざまな国と地域で効率的な配送システムを構築する必要があります。世界中の市場へのアクセスが容易になった結果、輸入・輸出が増加し、物流業界はより複雑で高度な配送管理を求められるようになりました。

ECの急速な成長とその影響

ECの爆発的な成長は、消費者の購買行動に大きな変化をもたらし、即日または翌日配送など、より迅速な配送オプションへの需要を高めました。物流業界は在庫管理、配送センターの配置、最終顧客への直接配送など、サプライチェーンの各側面を再評価し、最適化する必要に迫られています。

人手不足

物流業界において常態化しているのが人手不足です。一時期は配送の大幅な遅延が発生するほど大きな問題となり、解消に向けた取り組みも進められましたが、完全な解消には至っていません。

人手不足は今後より深刻化すると予想されています。労働力人口自体が減少しており、早急に人材を補給することは非常に困難です。そのため、人材の補給という切り口ではなく、DXの推進といった別の角度からの革新が、現実的な課題解決策といえます。

物流の業務効率化に関して詳しくは、「物流業務の効率化ー業界を取り巻く環境変化を乗り越えていくには?」ご覧ください。

CO2排出量の問題

国内の貨物輸送量を輸送機関別で見ると、トラックでの輸送が9割を占めています。ここで問題視されるのが、トラックの排気ガスに含まれるCO2です。

CO2の排出量に関する問題は世界規模の課題ですが、CO2排出量削減への視線は物流業界にも向けられています。貨物輸送の大部分をトラックに頼る日本の物流は、CO2排出量削減の対象としても目立つ位置にあります。

そういった背景から、CO2排出量削減の施策として、政府では3PL導入とモーダルシフト(自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶などの利用へと転換すること)を推進しています。

3PLは自社の輸送手段を持たないため、輸送路の選択に幅があります。そのためトラック輸送にこだわる理由がなく、電車や船での輸送にシフトすることが比較的容易です。つまり、3PL導入を推進してモーダルシフトを推し進め、CO2排出量を削減する狙いがあるのです。

DXやSDGsなど社会の変化

業界を取り巻く社会の変化によって生じた、新たな課題もあります。

そのひとつがDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。日本のあらゆる産業においてDXが必要とされているなか、物流業界ではDX推進の格差が課題となっています。

物流業界は比較的DXが進んでいるといわれていますが、3PLや大手企業でDX導入が進んでいる一方で、中小企業は取り残されているのが現状です。

また、SDGs(持続可能な開発目標)が提唱され、全世界での取り組みとして浸透しています。そのなかにはCO2の問題、食品ロス、働き方などの、物流業界が深く関与する項目もあります。

こういった社会の変化への対応が課題となるなか、いち早く解決の糸口を示して取り組めば、世界の先駆者となることが可能です。課題が浮き彫りになっているからこそ、物流業界はDX・SDGsどちらについても進んでいる業界となれる可能性も高いといえます。

物流とDXの関係については、「物流におけるDX―業界の課題と推進のポイント、取り組み事例などを紹介!」で詳しく紹介しています。ぜひ、ご参照ください。

DXに関する全体像ついては、以下もご参照ください。
【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで

コロナ禍が物流業界に与えた影響とは

新型コロナウイルスによる感染症とその予防のための措置は、世界各国の経済に深刻な影を落としました。

コロナ禍のような世界規模の変化によって受けた影響は、物流業界においても少なくありません。顕著な影響として現れたのは次のふたつです。

貨物量は減少する一方で小口配送は増加

世界的なパンデミックと予防措置により、消費や生産が落ち込んだことで、国内の貨物輸送の荷動きは鈍化しました。これにより一時的に人手不足が解消しましたが、運賃は下落したため労働環境の改善につなげることは難しく、根本的な解決に至ったとはいえません。

一方、自粛期間中に自宅でオンラインショッピングや通信販売を利用する人が増えた影響で、宅配便の取扱個数は大幅に増加しました。 これにより、輸送の小口化と多頻度化が進み、事業者の負担は増加しています。

世界の物流が寸断されリスクが顕在化

世界規模のパンデミックにより、グローバルサプライチェーンが寸断され、必要な物資の供給が途絶えた業種も少なくありません。

多くの物資を輸入に頼る日本の産業においても、供給途絶によるリスクが顕在化しました。物資の供給が途絶えたことで大手企業の生産が停止し、その影響で関連部品を納入する中小企業にも大きな影響が出ています。このように、グローバルサプライチェーンの寸断は海外取引のある企業だけの問題ではありません。

サプライチェーン全体の効率化と、国を超えた物流ネットワークの構築、社会インフラとしての機能向上が新たな課題となっています。

物流業界におけるDXの役割とは

DXは物流業界において競争力を維持し、進化する市場の要求に応えるための鍵となります。テクノロジーを活用して課題を克服し、業界を革新することで、より効率的で顧客中心のサービスを提供することが可能になります。

DXの定義、物流業界への適用

DXは、デジタル技術を活用してビジネスプロセス、企業文化、顧客体験を根本的に変革することです。物流業界におけるDXは、迅速な配送、コスト削減、顧客満足度の向上に直接寄与します。
サプライチェーン全体のデジタル化、自動化、データドリブンな意思決定の導入を意味します。注文処理、在庫管理、配送追跡などのプロセスをデジタル化し、最適化することが含まれます。

物流業界におけるAI、IoT、ブロックチェーンなどの活用

他の業界と同様、物流業界でも進化したテクノロジーの活用がDXを推進させます。
AIと機械学習:AIは予測分析、需要予測、ルート最適化などに使用され、効率性を高め、コストを削減し、顧客満足度を向上させます。機械学習は、過去のデータから学び、将来の動向やパターンを予測するのに役立ちます。

IoT(インターネット オブ シングス):リアルタイムでの貨物追跡、温度監視、車両の状態監視などを可能にし、透明性と運用効率を高めます。

ブロックチェーン技術: ブロックチェーンは、サプライチェーン内の取引の不変性と透明性を提供し、偽造防止、安全な情報共有、スマートコントラクトによる自動化された合意形成を実現します。

DXによる課題解決の事例

実際にDXを導入し、その結果、配送時間の短縮、コスト削減、顧客サービスの向上など、具体的な成果を達成した企業の事例を紹介します。

DHLのスマートウェアハウス

  • 概要: DHLは、人工知能(AI)とロボット工学を組み合わせたスマートウェアハウス技術を導入しました。これにより、ピッキングプロセスが自動化され、効率が大幅に向上しました。
  • 成果: 作業時間の短縮、誤りの減少、全体的なサプライチェーンの透明性の向上が報告されています。

FedExのセンサーベースのロジスティクス

  • 概要: FedExは、IoT技術を活用してパッケージのリアルタイム追跡を提供し、温度や湿度などの条件を監視できるセンサーを導入しました。
  • 成果: 顧客への透明性が向上し、特に医薬品や食品のような敏感な商品の配送における信頼性と安全性が高まりました。

ヤマト運輸のデジタル化推進

  • 概要: ヤマト運輸は、デジタル技術を活用して、荷物の追跡システムを強化し、配送プロセスを最適化しています。また、AIを用いた需要予測や最適なルート算出などにも注力しています。
  • 成果: 配送効率の向上、顧客サービスの改善、運輸コストの削減などが実現されています。

佐川急便のスマート物流

  • 概要: 佐川急便はスマート物流の構築を目指し、AIやIoT、ロボティクスなどの技術を利用した配送最適化、効率的な倉庫管理、配送員の作業支援などに取り組んでいます。
  • 成果: 作業の迅速化、配送エラーの減少、効率的な配送ルートの確立などが報告されています。

物流業界の成長にはDXの実現が必須

コロナ禍の影響により厳しい状況の続く物流業界には、大きな変革が必要とされています。そのカギとなるのが、デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルや業務プロセスの変化を生み出すこと、すなわちDXです。物流業界におけるDXには、例えばこちらで紹介しているように、AIを活用しての輸送・配送ルートの最適化や入出荷検品の自動化、AGV(自動搬送ロボット)の活用、トラックの自動運転技術などが考えられます。

ただし、いずれも大きなコストと時間を要するため、簡単には進められない企業もあるでしょう。まずは本稿や他の記事を参考に、物流業界の課題やDXについて理解を深めていくところから初めてはいかがでしょうか。

「物流DX」の記事一覧

「DXとは」の記事一覧