小売業こそDXに取り組むべき理由は?成功事例も紹介

小売業こそDXに取り組むべき理由は?成功事例も紹介

DXに取り組んでいる業界として、製造業や物流業は多くの成功事例があり、日本では比較的先進的なイメージがあります。では、小売業におけるDXはどのような状況にあるのでしょうか。小売業の現状と、小売業こそDXを進めるべき理由、小売業で進められているDXの事例などを紹介します。

小売業を取り巻く現状とDX

コロナ禍の影響もあり、実店舗を主体とする小売業の現状は、けっして楽観的な状況にあるとはいえません。小売業を取り巻く現状とDXについて考えてみましょう。

小売業とは

他社(他者)から仕入れた商品を、その商品が持つ形状や性質、性能を変えずに販売する流通経路のなかで、最終消費者に対して販売する事業を小売業といいます。

実際には、商品を販売する店舗や、商品の流通を扱う企業または個人などを指します。

小売業が置かれている厳しい現状とはどういったものでしょうか。

小売業を取り巻く現状と小売業こそDXを進める必要がある理由

小売業は、時代の変化や社会情勢の影響を受けた課題を多く抱えているといえます。

2000年代以降、インターネットの急速な普及とともに訪れたECの普及と利用拡大は、店舗での販売機会減少につながりました。また、2020年初頭以降、世界経済に大きな影響をもたらしたコロナ禍の状況によって、インターネット通販はさらに増大しました。

決済方法が多様化したことの影響も小さくありません。現金払いのみの店舗では利便性が悪く、消費者の足が遠のく理由となりえます。時代の変化に合わせた迅速な対応が必要とされます。

時代とともに変わる小売の新しいかたちや決済方法の多様化などに合わせて、ECの導入や電子マネー決済といったデジタル化が求められているのです。

小売業は、最終消費者に近い位置にあることから、特に社会情勢や社会環境の変化からの影響を受けやすい業種です。デジタル化を進めて、変化に迅速・的確に対応し、小売業自ら課題を解決していく方法として、DXの推進が有効なのです。

DXは、デジタルテクノロジーの活用によって新たなビジネスの手法に変革を起こすことです。小売業だからこそ、苦境ともいえる状況のなかで最新のデジタルテクノロジーと結びつき、DXを進めることで、新たなビジネスのかたちを作り出すイノベーションが起こる可能性が高いとももいえるのではないでしょうか。

DXについて詳しくは「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」をご覧ださい。

さまざまな業種で進むDX

小売業だけでなく、日本のあらゆる業種においてDXは必要とされています。人手不足が深刻な課題とされている物流業や製造業では、特にDXによる業務効率化や自動化への期待が大きいと考えられます。

2021年に株式会社情報通信総合研究所がまとめた「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負報告書」では、製造業は他の業種と比較してDXが進んでいると報告されています。

また、富士通株式会社が公表した「グローバルデジタルトランス―フォ―ション調査レポート2019」では、金融業のほかに運輸業がDXを牽引しているという調査結果が報告されています。

製造業や物流業におけるDXについては、「物流業界の課題―業界を取り巻く社会の変化と課題解決に向けたDXの実現」と「製造業におけるDXの必要性―求められるアクションと推進事例を紹介 」をご覧ください。

小売業のDXはどのような手法が有効か

小売業においては、どのようなDXの進め方が成功しているのでしょうか。事例をいくつか紹介します。

EC部門の業務をRPAで自動化

アパレルの小売業を営む企業では、ECモールも運営していましたが、毎日行う受注データや在庫データの管理に手作業が発生していました。

RPAを導入することで作業を自動化し、従来は不可能だった土曜・日曜の作業もRPAによって自動で行えるようになりました。

ECにおいてもっとも商品の動きが大きいのは週末です。 RPA 導入後は、月曜に出社すると前日までの一連の作業が終わっているため、月曜朝のミーティングで週末のデータを確認できます。また、RPAで収集した受注データや在庫データは在庫分析システムに連携をし、在庫の適正化や販売企画立案に役立てています。

多くの小売業がECショップまたはEC注文受付を行っていて、いまやEC対応は小売業にとって標準的な販売形態となりつつあります。市場規模が今後さらに拡大することが予測されるEC部門の業務について、早い段階で効率化してDXを進めることは、将来的により大きな効果につながると考えられます。

AIによる需要予測で店舗の商品販売を最適化

全国にコンビニエンスストアを展開する企業では、食品廃棄ロス削減の一環として、サプライチェーンの最適化に取り組んでいます。

販売期限が近い商品は、これまで店舗の経験値に依存した値引き設定を行っていました。ここに活用されたのがAI技術です。蓄積したデータから、在庫状況に適した商品の数量や値引き額、値引きを行う時間をAIが計算し、商品を効率的に売りきる仕組みを導入しました。

店舗の値引きだけに限らず、配送や工場の製造までを視野に入れて、サプライチェーン全体の最適化に広げていくとしています。

アプリ導入で顧客に新しい価値を提供

ホームセンターの大手企業では、アプリを利用して店内の商品検索や在庫確認ができる仕組みを整えたことにより、スタッフの業務の効率化にも成功しています。

顧客、スタッフの双方にメリットがある仕組みによって業務効率化と価値提供が両立できている一例といえます。

ショッピングカートがそのままスマートレジに

ショッピングセンターを運営する企業では、ショッピングカートにキャッシュレス決済も可能なタブレット端末を装着する試みを始めました。

買い物をしながら簡単に会計ができ、レジに並ぶ待ち時間も削減できることから、顧客の利便性にもつながっています。また、タブレット画面にクーポンの表示や限定商品の情報などを表示することも可能です。

新たな買い物のかたちを実現したDXの成功事例のひとつです。

小売業のDXで必要なポイントとは

小売業において、小売業がDXを進めて、新しい付加価値やビジネスモデルを築き上げるために重要なポイントは、次の2点です。

DXに対する理解を深める

これまで紙ベースで行っていた業務をデジタル化する、デジタルツールを導入して作業時間の短縮に成功するというだけではDXとはいえません。

デジタル技術を活用して、業務の進め方を常に変えていける体制づくりこそがDXの真のゴールと言えます。そういった体制へと生まれ変わることで、新しいビジネスモデルの創出やより高いレベルでの業務効率化が可能になります。

表面に見える部分のデジタル化だけでなく、企業の考え方や業務遂行の方法から変革していけるような取り組みこそが重要です。

DXを進めていく人材の育成

自社でDXを進めていける人材の育成も必要です。DXの推進を急ぐあまり、自社に足りないスキルを外部ベンダーやインテグレーターで補うことがありますが、丸投げはお勧めできません。自社にスキルやノウハウがたまらないばかりか、スピード感をもった変革やPDCAが回せないからです。

DX推進のための人材とはデジタル技術に詳しいだけの人ではありません。自社のビジネスを理解したうえで、そこに課題と可能性を見出し、デジタル技術を活用した改革を推進することができる人材のことです。

DX人材の概要とその育成については、「DXを推進するために必要な人材と自社でDX人材を確保するためのポイント」で、より詳しく解説しています。

DXによって顧客ニーズの変化に対応し付加価値の向上を

実店舗を主体とする小売業は、ECの台頭、コロナ禍の影響などのさまざまな社会的要因によって、大きく売上を伸ばすことが難しい状況にあります。こういった状況のなかで生き残るには、新たな販売形態へのシフトや業務効率化、販売方法の最適化などが求められます。