多くの業種・業界でDXの推進が求められています。しかし卸売業では、DXの推進が遅れている企業も多いようです。卸売業はメーカーと小売業をつなぐ役割を担っており、ほかの業種に比べて他社とかかわることが多いため、自社の意向だけでデジタル化しにくいといった事情もあるからかもしれません。
インターネットの普及が進む一方で、市場の縮小や労働力不足が社会的な問題となり、持続可能な経営への変革が求められる現在、卸売業は多くの課題を抱えています。その課題を解決するには、DXの推進が有効です。
ここでは、卸売業の役割と現状、課題および課題を解決するための戦略、DX推進の方法などについて説明します。
卸売業の役割と現状
卸売業の役割と現状を説明します。
卸売業の役割
卸売業は、メーカーと小売業の間に入って両者を仲介する役割を担います。卸売業が間に入ることで、さまざまな地域からの多種多様な商品を、広い範囲に円滑に流通させることが可能です。
具体的には、卸売業は次のような機能を果たします。
- 需給調整
複数の小売業の注文をとりまとめ、大量受注を希望するメーカーとの間に立って、需要と供給を調整します。
- 効率的な物流
卸売業者が注文をとりまとめ、まとめて配送することで物流を効率化します。
- 商品の多様化
卸売業者が複数のメーカーをまとめて取り扱うことで、小売業者が効率的に多様な商品を扱うことができます。
- 大がかりな販促
卸売業者は小売業者よりも規模が大きなマーケティング戦略が可能です。例えば、複数のメーカーが参加するキャンペーンの開催ができます。
- 円滑な代金の回収
メーカーは商品を卸売業者に届けた時点で売上となるため、最終的に消費者に品物が届くのを待たずに代金を回収できます。
卸売業の現状
株式会社銀行研修社の「融資取引推進ガイド」によると、卸売業全体の2022年4月の販売額は35兆4,100億円です。これは前年同月比で6.7%の増加ですが、季節調整済前月比ではマイナス1.3%の低下となります。
コロナ禍の影響は収まりつつあるものの、ロシア・ウクライナ情勢や長期の円安・原油高などに起因する供給減や物価高の影響に注意していく必要があります。
卸売業の課題
現在、卸売業には次のような課題があります。
メーカー直販の増加
インターネットの普及により、メーカーが、自社サイトやインターネット上のショッピングモールなどのECサイトを利用して、消費者に直接販売することが増えました。卸売業の機能をメーカーが内製化している状態です。
市場縮小と寡占化
インターネットの普及によりメーカー直販が増え、卸売業の役割が低下して市場規模が縮小しています。また慢性的な物価高により、消費の縮小、消費者の節約傾向も継続中です。中小規模の卸売業者が統合されるなどして、大手数社による寡占化が進んでいます。
デジタル対応の遅れ
社会全体でデジタル化が進む一方で、卸売業の業務にはデジタル化されていない部分がまだ多く残っています。それは、取引先の中小企業も同じです。
労働力不足の常態化
多くの現場と同じように、卸売業でも人手不足が深刻化、慢性化しています。
為替変動などのリスクへの備え
卸売業では海外との取引も多いため、次のようなリスクがあります。
- 為替変動
- 自国のみならず他国のインフレーション
- 原料の値上がり
- 国内・国際情勢の影響を受けた流通の停滞や欠品
これらのリスクへの備えとして、在庫量や運転資本にある程度の余裕が必要とされています。
持続可能なサプライチェーンマネジメントの実現
地球環境の保全のため、さまざまな業種・業界で持続可能な経営が求められます。卸売業でも、ほかの業界同様に、カーボンニュートラルやグリーントランスフォーメーション(GX)に対応しなければなりません。流通現場での改革や、新規ルート・取引先の開拓などで、環境負荷削減を意識した取り組みが必要です。
GXについては、「グリーントランスフォーメーション(GX)とは?取り組む必要性やメリットを事例とともに紹介」を、持続可能な経営のヒントについては、「いま注目されるSXとは?重要視される理由やDX・SDGsとの関係などを解説」をご覧ください。
卸売業がとるべき戦略
上述した卸売業の課題を解決するには、次のような戦略が必要になります。
業務効率化
徹底した業務効率化を行い、低収益体質を改善する必要があります。流通や事務作業の効率化は、人的コストの削減と生産性向上につながります。また、限られた人手でも業務遂行が可能になり、労働力不足の課題解決にもつながります。
他社との差別化
同業他社にない優位性を確立して付加価値を提供することで、競争優位性を高める必要があります。魅力的な付加価値を提供できれば、直販に移行しているメーカーとの取引も期待できます。
卸売業者が顧客であるメーカーあるいは小売業者へ提供する付加価値としては、例えば、以下のようなものが考えられます。
- 商圏・商材を拡充して他社が扱っていない商品の提供
- 効率化による物流コストの抑制
- サプライチェーンの最適化によるリードタイムの短縮
- 需要予測・販売促進などのマーケティング支援
SDGsへの取り組み
持続可能な経営への取り組みは、社会的責任としてあらゆる企業に求められており、卸売業でも必須です。メーカーと小売業の間に入って物流の最適化を図ることが、小売業者の過剰在庫や店舗ロスの削減につながっているなら、それはそのままSDGsへの取り組みともいえます。
また、「グリーン購入(環境への負荷ができるだけ少ないものを選んで購入すること)・グリーン調達(原材料や部品、製品などを取引先から仕入れる際にできるだけ環境への負荷が少ないものを選ぶこと)」や「クリーンエネルギーの導入」なども、SDGs実現へつながります。
SDGsについて詳しくは、「SDGsとDXはどう関係する?「Society 5.0」とあわせて解説」をご覧ください。
人手の確保
どれだけ効率化しても、人的作業をなくすことはできません。そのため、一定数の人材を確保する必要がありります。業務のデジタル化やDXを進めるためには、DX人材、ITリテラシーのある人材の確保も必要です。
DX人材については、「DXを推進するために必要な人材と自社でDX人材を確保するためのポイント」をご覧ください。
卸売業の課題解決にはDX推進が必要
現在の厳しい市場環境のなかで生き残るために、あらゆる企業に必須とされているのが「DX」です。DXとは、デジタルテクノロジーを活用し、組織やビジネスモデルなどに変革を起こし、市場に新たな価値を提供することです。
DXについての詳細は、「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」をご覧ください。
上述した、卸売業の課題解決のための戦略を実施するには、DXの推進が必要です。
具体的には、業務のデジタル化によって業務効率化が実現します。また、デジタルテクノロジーの活用で、これまでにない新しいサービスの提供が可能になり、他社との差別化を図れます。
DXを進めるには、一部の業務プロセスのデジタル化から着手する方法がスムーズです。卸売業であれば、次のような業務が考えられます。
- システム化による電子取引の導入(非接触取引)
- 紙、FAX、メールなどの、さまざまなメディアの電子化とペーパーレス化
- システム導入による情報の一元管理
- システム導入による受発注業務の自動化
- システム導入による送り状発行や倉庫内検品などの物流業務の効率化
- システム導入による在庫管理、商品登録などの倉庫業務のデジタル化
- オンライン商談による非接触コミュニケーション
- ECや越境ECによる販路拡大、取引先拡大
- BIやAIによる需要予測や在庫管理
- ロボティクス技術による出荷業務
- SFAによる売上管理・売上予測・営業支援
卸売業のDX推進方法
卸売業でのDXの進め方は、基本的には他業種と変わりません。一般的な流れを紹介します。
- DX推進の目的の明確化
DX推進の目的を明確にし、全社で共有します。
- 現状の洗い出しと分析業務フローの見直し
現状の業務を洗い出し、無駄な部分がないか見直します。
- 適切なシステムやツールの導入
課題解決に適切なシステムやツールを導入します。最初は一部署、特定の業務プロセスなどに導入する、スモールスタートで進めてもよいでしょう。
- 結果の分析・検証・改善
3の結果を分析・検証し、課題が見つかれば改善します。
- DX推進
4の結果を生かし、スモールスタートで進めた場合は、他部署にもデジタル化を展開します。それにより、業務プロセス全体のデジタル化を実現し、顧客への新たなサービス提供にもつなげていきます。
業務の一部などの小さなところから着手するDXを、一般的に社内DXといいます。詳しくは、「社内DXとは?推進が必要な理由や成功させるポイントを紹介」をご覧ください。
卸売業の課題解決にはDX推進による改革が重要
現在の卸売業の課題を解決して生き残りを図っていくには、DXの推進が必要です。
しかし、まだアナログ業務の多い卸売業でいきなり大がかりにDXを推進するのは、ハードルが高く感じるかもしれません。まずは、一部業務のデジタル化から始めてはいかがでしょうか。
例えば、バックオフィスでの人手不足を解消するためには、RPAによる作業の標準化・自動化、伝票作成の自動化などが効果的です。ユーザックシステムの名人シリーズには、卸売業の受注から出荷までの業務をデジタル化できるソリューションがそろっています。
Autoジョブ名人 ≫ミスが許されない基幹業務や受発注業務の自動化事例が豊富。安定稼働のデスクトップ型RPA
Autoメール名人 ≫汎用的なRPAツールでは難しい、メール業務の自動化に特化したRPA
EOS名人.NET ≫さまざまな受注形式(流通BMS、Web-EDI、メールEDIなど)のデータをひとつのソフトウェアで一元管理
送り状名人 ≫複数の取引先との煩雑な出荷業務を効率化