多くの企業で、経理業務の電子化が進んでいます。特に重視されているのが、これまで紙で作成していた帳票類の電子化です。処理に手間がかかる帳票類を電子化してペーパーレス化を進めることには、業務効率化をはじめ多くのメリットがあります。また、2022 年1月に施行された電子帳簿保存法の改正により、帳票の電子化を進めやすい環境が整いました。
まだ紙の帳票を使っている企業は、積極的に帳票の電子化を進めるときがきているのではないでしょうか。
帳票の電子化の概要、電子帳簿保存法の2022年の改正内容、帳票の電子化の進め方などを説明します。
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帳票の電子化とは
帳票の電子化とは、紙の帳票をデータ化し保存することです。具体的には、日常業務に必要な帳票をスキャンし、AI-OCRで文字データにします。
AI-OCRは通常のOCR(Optical Character Recognition:光学文字認識機能)の文字認識にAIを組み込んだもので、手書き文字でも認識精度が高く、フォーマットの異なる帳票でも対応可能です。それによって、帳票のデータを検索、保管、連携、分析がしやすくなり、幅広く活用できるようになります。
AI-OCRについては、以下もご参照ください。
AI-OCRを比較検討~RPAとの連携、業務改善効果を上げる
紙の帳票の問題点
紙の帳票のままでは、次のような問題点があります。
- 作成や送付・配信に手間と時間がかかる
- 保管・管理にスペースや人手が必要
- 手書きのものは読みにくい
- 改ざん・不正利用されやすい
- 決裁・承認に時間がかかる
- テレワークに対応しにくい
紙を利用したアナログ処理の問題点については「アナログのリスクとは?デジタル化(デジタイゼーション)を進めるためのポイント」をご参照ください。
なぜ帳票を電子化する必要があるのか
帳票の電子化が必要とされる背景には、紙の帳票に上記の問題点があることに加え、次のふたつの理由もあります。
ひとつ目は、業務効率化や人手不足に対応するためです。現代は、業種や部門にかかわらず業務のデジタル化が必要とされる時代であり、経理関連の業務でもデジタル化が求められます。
もうひとつは、紙の帳票のままではデータとして利用しにくいことです。データ連携やデータ分析を行うためには、帳票の電子化が必要です。
帳票の電子化の必要性については「ペーパーレスの必要性やメリットは?紙帳票のデジタル化と業務の自動化の進め方」をご参照ください。
なお、帳票の電子化は、DX(製品・サービス・組織・企業風土などをデジタル基盤で変革)へつながるデジタイゼーション(アナログで行ってきた業務をデジタル化)や、デジタライゼーション(ワークフロー全体をデジタル化)の段階にあたります。
詳しくは下記の記事をご覧ください。
「デジタライゼーションとは?効果や業種別の具体例と推進のステップ」
「デジタイゼーションとは?デジタライゼーション・DXとの違いや具体例を解説」
「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」
帳票の電子化とDXの関係
帳票の電子化は次のような結果をもたらし、DX推進の第一歩となります。
- デジタル化やデジタル技術への意識改革
日常的に取り扱うことの多い帳票を電子化することで、デジタル技術の導入や利用に抵抗がなくなります。そこから業務のデジタル化があたりまえになり、積極的に推進しようという方向への意識改革が進みます。 - ペーパーレス化促進
帳票を電子化することで、経理部門のペーパーレス化が進みます。ペーパーレスによる情報のデータ化は業務効率向上につながるだけでなく、データ活用が必要なDX推進の第一歩にもなります。 - 情報のデータ化
帳票を電子化することで内容をデータとして蓄積でき、連携や分析などのデータ活用がしやすくなります。データ活用は、DX推進には不可欠です。詳しくは「DXを推進するうえでなぜデータ活用が重要?その関係と効果とは」をご覧ください。
以上のように、帳票の電子化はDXへの足がかりとなりますが、2022年に電子帳簿保存法が改正され、電子化がより実施しやすい環境になっています。
電子帳簿保存法2022年改正の内容
電子帳簿保存法は過去に何度も改正されていますが、2022年の改正では、帳票の電子化がいっそう進めやすい内容となっています。順を追って説明します。
電子帳簿保存法とは?
電子帳簿保存法とは、1998年に施行された国税庁管轄の法律で、国税関係の帳簿や書類を電磁的記録(電子データ)として保存する際の方法などを定めています。正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」で、「電帳法」とも呼ばれます。
この法律は、保存が義務づけられていた書類に対し、電子データによる保存を認めることで、納税者負担の軽減を図ることを主な目的としています。
電子帳簿保存法の対象となる電子データは「電子帳簿等保存(電子的に作成した帳簿・ 書類をデータのまま保存)」「スキャナ保存(紙で受領・作成した書類を画像データで保存)」「電子取引(電子的に授受した取引情報をデータで保存)」の3つに分けられます。
1998年の制定以降改正が繰り返され、段階的に条件が緩和されています。制定当初は電子データで作成された帳票だけが対象でしたが、2005年の改正により、スキャンしたデータや撮影したデータも電子データとして認められるようになりました。今回の改正でも、さまざまな条件緩和が見られます。
電子帳簿保存法2022年改正の内容は?
2022年の電帳法改正のポイントを「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」に分けて紹介します。
- 電子帳簿等保存
・税務署長の事前承認廃止
・優良な電子帳簿の要件を満たしている場合、その電子帳簿に申告もれがあった場合の過少申告加算税を5%軽減
・電子データで保存できる電子帳簿の要件緩和 - スキャナ保存
・税務署長の事前承認廃止
・タイムスタンプ要件や検索要件の緩和
・適正事務処理要件(相互けん制、定期的な検査および再発防止策の社内規程整備など)の廃止
・不正があった場合の重加算税を10%加重 - 電子取引
・タイムスタンプ要件や検索要件の緩和
・所得税や法人税などに関する電子取引情報の電子データ保存の義務化
・不正があった場合の重加算税を10%加重
電子帳簿保存法や改正の内容について楽しみながら理解できる漫画を、以下よりご覧いただけます。
また、改正内容をわかりやすく解説したホワイトペーパーも無料で提供しています。以下よりダウンロードしてご一読ください。
帳票の電子化のメリットと注意点
帳票の電子化には多くのメリットがありますが、いくつかの注意点もあります。
帳票を電子化するメリット
- 業務効率化
帳票の作成・配布作業を効率化できます。 - 決裁や承認のスピードアップ
申請から承認までのワークフローをまるごとデジタル化できるため、処理速度が上がります。 - 人的ミスの削減 データ連携による入力の自動化、テンプレートの利用、システムによる帳票の自動作成、自動計算などが実現し、人的ミスを削減できます。
- ペーパーレス化による負担やコストの削減
ペーパーレス化により保管スペースが不要になり、管理の負担軽減やコストの削減につながります。 - データとして活用可能
帳票を電子データにすることで、検索や参照が容易になります。データ分析を行って経営判断に生かすことも可能です。 - 業務の属人化を防止
電子化してワークフローを確立することで、業務の標準化が実現し、属人性を防ぐことにつながります。 - 顧客満足度向上
業務の標準化により顧客対応の品質にばらつきがなくなり、顧客満足度の向上につながることが期待できます。 - セキュリティの確保
データとして保存することで、紙の帳票であれば起こりうる紛失を防げます。また、データへのアクセス権限の設定をすることで、権限のない人の目に触れたりすることを防ぎます。 - テレワークへの対応
帳票をデータ化してクラウドシステムを利用することで、オフィス以外の場所でも業務可能になります。 - BCP対策
クラウドシステムを導入し、データ化した帳票をクラウドに保存すれば、オフィスが万が一の災害等にあっても影響を受けずに事業を継続できます。
帳票に限らず、紙の書類を電子化するメリットについては「デジタル化(デジタイゼーション)のメリットとは?紙からの移行ステップや注意点」をご参照ください。
帳票を電子化する際の注意点
- 操作や運用に慣れる必要がある
帳票を電子化するときには新しいシステムを導入することが多く、導入当初は操作や運用に慣れるための期間やサポートが必要です。 - セキュリティに注意が必要
データ化して保存する際は、サイバー攻撃や情報漏えいに備えて、紙の帳票とは異なるセキュリティ対策が必要になります。 - データの活用にはノウハウや知見が必要
データ化した帳票を検索しデータ分析に活用するには、ある程度のノウハウや知見が必要です。 - 完全なペーパーレス化はできないことも多い
顧客の要望により、FAXや紙の注文書や申込書がある程度残ることも少なくありません。
帳票を電子化する方法
既存の紙の帳票を電子化するには、次の3つの方法があります。
- 帳票をAI-OCRでスキャンし、文字データにする
- 帳票をカメラで撮影する
- データ入力代行サービスを利用し、外注する
もっとも多いのが、AI-OCRによるスキャンと帳票電子化ツールを組み合わせて電子化する方法です。次のような手順で行います。
- AI-OCRを用意します。
スキャナや複合機などのスキャンを行うハードウェアと、文字認識を行うアプリケーションが必要です。アプリケーションは、クラウドサービスのツールが増えています。 - 社内の帳票をスキャンし、電子化します。
フォーマットが一定している社内帳票をスキャンすることで、必要な作業、最適な解像度、サイズ、保存方法などのノウハウを蓄積します。その過程で効率的な作業手順もわかってきます。
作業の属人化を防ぐために、ノウハウはマニュアルにまとめておくことをおすすめします。 - 社外の帳票をスキャンし、電子化します。
取引先ごとに帳票のフォーマットやサイズが異なるので、社内の帳票より難易度が上がりますが、社内の帳票の処理で蓄積したノウハウを活用できるでしょう。 - 電子化やペーパーレス化に適したワークフローの確立
社内外の帳票をスキャンして電子化する過程で、最適な作業手順や設定が決まります。それらをまとめて、帳票のスキャンと電子化のワークフローを確立しましょう。
いまや帳票の電子化は必須!改正電帳法への対応やDX推進のためにも積極的に進めよう
紙の帳票には、多くの課題があります。コロナ禍でテレワークが普及するなか、紙の帳票が業務進行の足かせとなり、あらためて課題を実感した企業も多いのではないでしょうか。
また、2022年1月の電子帳簿保存法改正により、電子取引における電子データ保存が義務化されました。準備ができていない企業には2年の宥恕(ゆうじょ)措置が認められますが、その2年の間に対応できるよう環境を整えておかなくてはなりません。また、消費者のニーズやビジネス環境の激しい変化に対応するため、あらゆる業種でDX推進が求められる状況は、今後も続きます。
もはや現代社会において、デジタル化は必然的な流れといえます。時代の潮流に乗り遅れないためにも、まずは帳票の電子化から進めてはいかがでしょうか?
なお、改正電帳法に対応できる体制を整えるのに、2年という期間はけっして余裕のある長さではありません。ユーザックシステムでは、どのようなスケジュールを組めばよいかがわかる無料動画を配信しています。
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