AGI(汎用人工知能)は何ができる?AIとの違いや活用法、課題を知ろう

生成AIとして有名なChatGPTはビジネスにも活用されるようになってきました。最近はさらに進化したAIとして、AGI(汎用人工知能)という言葉も聞かれるようになっています。しかし、AGIとは何なのか、AIとは何が違うのか、よくわからない方も多いでしょう。

AGIとはAIがより進化・発展したものです。現在のいわゆる特化型AIよりも幅広くさまざまな分野に対応し自律的に判断・意思決定を行うことで、さらに活用シーンが広がります。期待が高まる反面、AIが発達することで人間の仕事がなくなるのではないか、悪用されるのではないかなど、不安に思う方も少なくないのではないでしょうか。

ここでは、AGIの概要とAGIにできること、さらに実現までの課題について説明します。

AGIとは

AGI(Artificial General Intelligence)は、日本語で「汎用人工知能」と言われています。AIの一種で、現在のAIよりもより発展し、汎用性があり、より幅広い分野のタスクの処理が可能です。

人間のように自発的・自律的に学習する知能や思考回路を持つとされ、自己学習を繰り返して経験のない課題にも柔軟に対応することができます。人間の感情を理解して行動することも可能です。

AGIは現在まだ実現されてはいませんが、AIの最終的な目標とされ、実現すれば社会に大きな影響を与えるものと考えられています。

このAGIが注目されているのは、「2025年の崖」「2040年問題」など、社会課題の解決につながるのではと期待されているためです。

2025年の崖とは、レガシーシステムのままではDXを推進することは困難であり、その結果日本企業の競争力が低下し、毎年最大12兆円の経済損失が生まれる可能性があるとされる問題です。また2040年問題とは、少子高齢化が進み、65歳以上の高齢者人口の割合が35%となって労働者不足が一層深刻化するとされる問題のことをいいます。

次々と浮き彫りになる社会課題を柔軟、かつ、スピーディーに解決していくためには、従来のAIでは間に合わず、自発的・自律的に学習するAGIが必要と考えられているのです。

なお、現在のAIは、AGIとは異なり用途が決まっているため、Narrow AI(特化型人工知能、特化型AI)と言われています。

また2025年の崖について詳しくは、「2025年の崖とは?意味と企業への影響、克服するためにすべきことを紹介」をご覧ください。

「強いAI」と「弱いAI」とは

AGIに注目が集まるようになったことで、AIは、「強いAI」と「弱いAI」に分けられるようになりました。

  • 強いAI

AGIのことです。自意識を持ち、自分で情報を処理・判断し、行動することができます。自発的に学習を行い、進化することも可能です。

幅広い分野に柔軟に対応でき、人と同じように感情を持つ可能性もあります。

  • 弱いAI

現在のAI、特化型AIを指します。ある分野に特化した学習・行動をし、問題を解決することが可能です。行動の基になる学習データは、人間が与える必要があります。

自意識を持ったり、幅広く汎用的な知能を持ったりすることはありません。

AGIとAIやASIの違い

AGIとAIの違いを改めて整理するとともに、AGIと一緒に語られることの多いASIとの違いも紹介します。

  • AI

現在「AI」と語られる場合、広義のAIと狭義のAIがあります。広義のAIは、AGIやASIを含め、AIすべてを指すものです。

狭義のAIは、今主流の特化型AI、特定の分野に特化した人工知能を指すのが一般的です。与えられたデータで学習を行い、人間の指示に従って特定の分野のタスクを高いレベルで処理することが可能です。

  • AGI

汎用型AIです。さまざまな種類のタスクをこなす柔軟な人工知能で、データや経験から自己学習ができます。自律的に学習して未知の課題にも対応可能です。自主的な学習を行うだけでなく、クリエイティブな能力もあります。

  • ASI

ASIは「Artificial Super intelligence」の略で「人工超知能」と訳されます。AGIの中でも、さらに進化したものです。実現すれば人間の知能を超える能力を持つとされています。

 

AGIの構成要素

AGIには、機械学習、認知ロボティクス、認知アーキテクチャの3つの構成要素があります。順に紹介します。

機械学習

AIがデータから自発的に学習し、パターンを発見する手法です。深層学習と強化学習の2つに分かれます。

  • 深層学習(ディープラーニング)

データを学習して、ルールやパターンをAIが発見する手法です。現在主流の「特化型AI」でも利用されています。現在は大量のデータを学習するだけでなく、多層的な構造のデータを学習して、より高度なパターンを発見するようになっています。

  • 強化学習

システムがデータを参考にトライアンドエラーを繰り返し、状況に合わせて最適化された行動を学習することで、人間らしい思考や行動パターンを獲得します。

この2つを繰り返すことで、AGIは高度な知能を獲得できます。

機械学習についての詳細は、「機械学習とは?定義や仕組み、活用例などを紹介 」や「ディープラーニングと機械学習の違いは?それぞれの意味と関係性を解説」をご覧ください。

認知ロボティクス

ロボットに認知機能を付与し、AIの知能や認知を研究する取り組みです。ロボットの姿で人間とコミュニケーションを取り、さまざまな学習や意思決定、問題解決を行います。それによって言語や、より高度な知能を獲得可能です。ロボットという形態を取ることで、人間の反応が異なってきます。そのため、より人間らしい知能を獲得可能です。

認知アーキテクチャ

人間の総合的な認知機能、人がものを認知する仕組みをモデル化したものです。これをAIに組み込むことでAIが判断を行うためのシステムを構築し、人間らしい思考や意思決定ができるAIを目指します。

プログラミングなどの「記号主義的なもの」、ベクトルを操作する「分散表象的なもの」、「両者を折衷したもの」の3つがあります。

AGIにできること

AGIが実現すると、さまざまな分野でAIが自発的に学習して判断し、人間のように振る舞い、高いレベルで結果を出すことができます。たとえば、次のようなことが可能です。

学習を基にした独自の判断や意思決定

  • 自動運転で、曜日や時間ごとに渋滞が起こりやすいルートを学習し、混雑を避けて走る
  • MRIやCT画像から病気を診断する
  • 学習したデータを基に、原因や症状から、疾患に合わせた新薬を開発する

学習したことのない要素に対する判断

  • 災害発生時、被害状況のデータから救助計画や復旧計画を策定する
  • 新しい疾患に対して、症状や原因から適切な治療計画を策定する

新しいアイデアを生み出す

  • マーケティングのデータから顧客のニーズを把握し、新商品やサービスを企画する
  • これまでの技術を組み合わせることで新技術を開発する

芸術作品を作成する

  • 学習したデータや経験を基に、小説、絵画、作曲、デザインなどの芸術作品を作成する

人間らしいコミュニケーション

  • 学習したデータや経験を基に、カスタマーサポートやコールセンターで顧客の対応を行う
  • これまでのデータを基に、それぞれの生徒に合わせた学習計画を策定する
  • 観客の前で演奏を行う

AGIの将来性と課題

AGIの将来や課題について考えましょう。

AGIの将来

AGIは現在まだ研究中であり、実現はしていません。いつ頃実現できるか、そもそも実現可能なのかについては、研究者の間でも諸説あります。

しかし、実現すれば確実に我々の仕事や生活に大きな影響を与えるものです。

AGIは現在の業務を大幅に効率化できるだけでなく、さまざまな判断や意思決定、クリエイティブな作業ができます。新たな技術や発見につなげることも可能で、それによって、現状の多種多様な課題を解決できると期待されています。

なお、現在もっともAGIに近いと言われているのがChatGPTなどの生成AIです。ただしChatGPTはあくまでも自然言語処理能力と高い学習能力を持つ特化型AIであり、AGIではありません。

ChatGPT・生成AIについて詳しくは、「ChatGPTとは?使い方や仕組みから、リスクと対策までわかりやすく紹介」や「生成AIとは?DXとの関連は?活用の広がりが期待される技術」をご覧ください。

AGIの課題

AGIの実現にはいくつかの課題もあります。

  • シンギュラリティの到来

シンギュラリティ(技術的特異点)とは、AIが高度化して人間の知能を超える瞬間のことです。現在の人間には、シンギュラリティ後のAI進化が予想できません。その段階になると、人間はAIを制御できなくなるとも言われています。

現在では、シンギュラリティは2045年、もしくは、それ以前に訪れると考えられています。シンギュラリティ以後は世界が大きく変化するため、シンギュラリティ後にも人間とAIが共存するための対策が必要です。

  • 悪用の問題

AGIが悪用された場合、大きな被害が想定されます。悪用を防いで安全性を確保するための対策が必要です。またプライバシーやデータセキュリティに関しても、対策を強化しなければなりません。

  • AI倫理

AIの利活用にあたっては、人を傷つけたり社会に悪影響を与えたりしないよう、これまでもAI倫理が求められてきました。自発的に学習・判断できる能力を有するAGIの利活用においては、一層高い倫理観が必要となってきます。AGIには、国内においても国際的にも、倫理に関する実効性あるガイドラインが必要です。

AI倫理については、「AI倫理とは?日本政府・企業における取り組みも紹介」をご覧ください。また、AI TRiSMとは?DX推進に向けて押さえておくべきトレンドも参考になります。あわせてご覧ください。

  • 社会的影響

AGIの導入は、社会に大きな影響を与えます。AGIにより社会は豊かになることが期待できますが、一方で、所得格差の拡大や雇用機会の喪失などの問題も予想されています。

今からAGI時代に向けて準備し、AGIについて理解しておこう

現在AIは日々進化を続けており、いずれAGIの時代が到来するはずです。

AGIの普及により、これまで考えられなかったような犯罪が起きるのではないか、私たちの仕事を奪われるのではないかといった不安を持つ人はいるでしょう。

しかし一方で、これから到来する超高齢化社会や人手不足など多くの社会課題を解消してくれる、想像もできないような新しい価値を創出し、私たちの生活を豊かにしてくれるなどの恩恵も期待できます。 AGIが普及する未来に向けて私たちが今できることは、AGIがもたらす恩恵についても、考えられる課題についても、まずはAGIについてしっかりと理解しておくことではないでしょうか。