デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業が増えています。しかし、その取り組みはけっして容易ではなく、失敗に終わるケースも珍しくありません。そこで本記事では、DXの現状や実際にあった企業の失敗事例から、DXの成功に欠かせないポイントについて解説します。
DXの現状
まずはDXの基本的な概念と現状について解説します。
そもそもDXとは
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、単なるデジタル化ではありません。企業がデジタル技術を活用して、ビジネスモデルを根本的に変革し、競争力を強化することを指します。DXは以下の3段階で進展します。
- デジタイゼーション:アナログ情報をデジタル化する段階
- デジタライゼーション:デジタル技術を活用して業務を効率化する段階
- DX:デジタル技術を活用して新たな価値を創造し、ビジネスモデルを変革する段階
これらの概念について、詳しくは以下の記事で解説しています。
デジタイゼーションとは?デジタライゼーション・DXとの違いや具体例を解説
デジタライゼーションとは?効果や業種別の具体例と推進のステップ
【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで
DXの取り組み状況
IPAの調査「DX動向 2024」では、DXに取り組む企業は着実に増えていることが示されています。一方、2023年度時点で約2割の企業はDXに取り組んでおらず、その理由としては、DXの知識や情報、スキル、人材の不足を挙げる企業が多くありました。
DXに失敗する企業は多いのか
同調査によれば、アナログからデジタルへの移行や生産性向上など、デジタイゼーション・デジタライゼーションの成果は過半数の企業で成果が出ています。
しかしながら、ビジネスモデルの根本的な変革や新製品・サービスの創出といった「DX」の成果が出ている企業の割合は、わずか約2割にとどまる結果となりました。このことから、DXに成功する企業はけっして多くないことがわかります。
参考:DX動向2024 – 日本企業が直面するDXの2つの崖壁と課題|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
DXの失敗事例
実際にはどのような失敗事例が起こり得るのでしょうか。企業の失敗事例を2つご紹介します。
General Electric
米国のGeneral Electricは、製造業からデジタル企業への変革を目指し、産業用IoTプラットフォーム「Predix」の開発に多額の投資を行いました。5,500人規模の組織「GEデジタル」を立ち上げ、40億ドルを投資しましたが、以下のような要因により失敗に至りました。
- 既存部門との連携不足
GEデジタルの大半を外部採用者が占め、新たなプラットフォームの価値を社内に浸透させることができませんでした。
- 技術的な問題
Predixの自社クラウドでの運用を目指すも、アマゾンとマイクロソフトのクラウド用データセンター設立によりAWSやAzureへの方針転換を余儀なくされるなど、開発に混乱と遅れが生じました。
- 顧客視点の欠如
Predixは元々社内向けに開発していたシステムであったことから、外部展開を試みても「外部企業には使いにくい」という評価を受けてしまいました。
結果として、GEデジタルは目標の10分の1にも満たない売上高にとどまり、主力事業への回帰を余儀なくされました。
参考:ゼネラル・エレクトリック社(GE)の失敗から学ぶデジタルトランスフォーメーション|株式会社アーテリジェンス
セブン&アイ・ホールディングス
大手流通グループのセブン&アイ・ホールディングスは、DX推進において1,200億円という流通業界平均の2倍以上の投資を行いましたが、以下のような要因により失敗に至りました。
- ECサービスの不振
2015年に立ち上げたECモール「オムニ7」は1兆円の売上目標を掲げたものの、開始直後から売上が低迷。複数回のリニューアルを実施するも成果を上げられず、2023年にサービス終了を発表しました。
- セキュリティ対策の不備
2018年に開始したスマートフォン決済サービス「セブンペイ」では、2段階認証を怠ったセキュリティ管理の甘さにより、不正アクセスによる3,800万円の被害が発生。また、既存の会員システム(7iD)からの移行トラブルにより店頭が混乱し、わずか3ヶ月でサービスを終了しました。
- 統括的な戦略の欠如
2021年秋にDX部門トップが退任すると、2020年4月に発足したばかりのDX戦略本部を解体。1,200億円を投じた戦略を白紙撤回することとなりました。
結果として、多額の投資にもかかわらず、期待された成果を上げることができませんでした。
参考:セブン&アイのDXはなぜ失敗したのか?3つのデジタル敗戦と学ぶべき教訓|DXportal
これらの事例から、企業が陥る可能性のある失敗例として、以下のようなケースが想定されます。
- 具体的な達成目標や実行計画が不明確なまま巨額の投資を行い、成果を出せないまま戦略の撤回を余儀なくされた
- セキュリティや既存システムとの連携など、基本的な要件の検証が不十分なまま新サービスを開始し、大きな損失を被った
- DXを急ぐあまり、現場での混乱を招き全社的な取り組みとして定着しなかった
なぜこのようなケースに陥ってしまうのか、ここから原因と対策方法を探っていきましょう。
DXに失敗する主な原因
DXの失敗には、いくつかの共通する要因があります。ここでは、その主な原因について詳しく解説します。
経営層の理解が十分でない
DXに必要な知識を経営層が十分に理解していないケースが多く見られます。実際にIPAの調査では、「IT分野に見識のある役員割合が3割未満」と答えた企業が、全体の8割以上に上っています。
トップダウンでの推進力が欠如していると、DXへの理解や協力を得るのが難しく、DXを円滑に進められません。
明確なビジョンが見えていない
DXの目的や達成したい姿が不明確なまま、大規模な投資を行うケースがあります。このような場合、投資に見合った成果が得られず経営を圧迫する可能性があります。
人材・スキルが不足し外部に依存する
「DXの取り組み状況」で解説したとおり、スキルや人材不足を理由にDXの取り組みを諦める企業は多く、深刻な問題です。
そこで外部のベンダーに頼るケースもありますが、ベンダーの計画が適切か判断できる社内の人材がいなければベンダー任せのDXとなり、自社のニーズや課題に対応できない可能性があります。
段階的な推進ができていない
DXは、デジタイゼーション・デジタライゼーションから段階的に進むのが基本です。基礎となるデジタル化や業務効率化が不十分なままDXを進めようとすると、現場がうまく回らない可能性があります。
システム・ツールの導入にとどまっている
DX=技術導入ではありません。デジタル技術の導入はあくまで手段であり、その先にある企業価値の向上や競争力の強化を見据える必要があります。新たなシステム・ツールの導入だけでは、DXの本質的な成果にはつながりにくいでしょう。
顧客視点に欠けている
DXには「守りのDX」と「攻めのDX」があります。
- 守りのDX:主に社内の業務効率化やコスト削減を目指すDX。既存の業務プロセスの改善や生産性向上など
- 攻めのDX:新たな顧客体験の創出や市場開拓を目指すDX。デジタル技術を活用した新規サービスの展開やビジネスモデルの変革など
業務効率化を目的に内部の効率化(守りのDX)のみに注力していても、十分な成果を得るのは困難です。顧客視点を強化しDXを進めることで、顧客満足度の向上や新たなビジネス機会の創出につながり、結果として企業の競争力強化にもつながります。
失敗から学ぶDX成功のポイント
ここでは、失敗から学んだ教訓を生かしDXを成功へと導くためのポイントをご紹介します。
経営層のコミットメント
経営層の理解なくしてDXの成功はありません。経営陣が積極的な姿勢を示すことで、従業員の協力につながり全社的なDX推進を進めることができます。
明確な目標の策定
短期・中期・長期の目標を明確に設定し、全社で共有することで、ぶれない変革を推進できます。例えば、短期では「営業部門の商談管理のデジタル化による生産性向上」、中期では「データ分析による顧客ニーズの可視化と新サービスの創出」、長期では「デジタル技術を活用した新規事業による売上20%増」といった具体的な目標設定が重要です。
DX人材の育成
教育体制を整備し、DXを推進できる人材を育成することが重要です。デジタル技術の知識だけでなく、ビジネス課題を理解し、解決策を提案できる人材、さらにはデジタル変革を推進できるリーダーシップを持った人材の育成が必要です。
DX人材の育成方法について詳しくは、「DX人材を育成するには?方法や成功事例、重要なポイントを解説」をご覧ください。
アジャイル型の採用
小規模な施策から始め、迅速にフィードバックを得て改善していくアジャイル型のアプローチが有効です。従来のピラミッド型組織とは異なり、現場レベルでの意思決定範囲が広く、自社の状況に合ったDX推進につながります。
データドリブン経営の実現
適切なデータガバナンスを確立し、AIや分析ツールを戦略的に活用することで、データに基づいたより的確な判断ができるようになります。 実際にIPAの調査では、DXの成果が出ている企業は、データ活用を進めている/AI・生成AIを導入している割合が高いという結果が出ています。
※上記図表における「BX」「PX」は以下を指すものとされています。
- BX:ビジネストランスフォーメーションの略。顧客起点の価値創出により、ビジネスモデルの根本的な変革に取り組んでいる
- PX:プロセストランスフォメーションの略。組織横断的な全体の業務・製造プロセスのデジタル化を行っている
客観的な視点の強化
常に顧客視点を忘れず、顧客体験の向上を目指しましょう。また、企業の競争力強化や、より便利で豊かな社会の実現にどう生かせるかといった広い視点も大切です。組織内部の業務効率化だけでなく、それが最終的にどのような価値につながるのかを考え続けましょう。
失敗例から学び、DX推進の成功につなげよう
DXの失敗事例から学び、その教訓を生かすことが重要です。本記事で紹介したポイントを押さえつつ、自社の状況に合わせてDXを推進することで、新たな価値創造や顧客満足度の向上、企業競争力の強化といったDXの成果が見えてくるでしょう。DXはけっして簡単な取り組みではありませんが、失敗をおそれず、一歩ずつ前進していくことが大切です。
現在、自社のデジタイゼーションやデジタライゼーションがうまく進められていないのであれば、ぜひユーザックシステムにご相談ください。さまざまなツールにより、幅広い業種でのデジタイゼーションやデジタライゼーションをサポートしています。