生成AI活用コンサルティング事業、生成AI受託開発事業、メディア事業を手掛ける株式会社WEEL。同社は、ユーザックシステムとともに、最新のRAG(Retrieval Augmented Generation)技術と生成AIエージェントを活用した「受注業務AIエージェント」を開発し、PoC(Proof of Concept)サービスを提供中だ。
「受注業務AIエージェント」は、RPAでの業務自動化が困難だった、「イレギュラー対応」「人が判断しなければならない部分」について、RAG技術と生成AIエージェントを用いて自動化を検証。これにより、受注業務の属人化の解消と業務の効率化が最大化することが期待できる。
「受注業務AIエージェント」の開発エピソードや、その中核をなすRAG技術について、株式会社WEEL生成AI事業部 統括リーダーである田村 洋樹氏に話を聞いた。
RAG技術とは?なぜ生成AIに「人のような判断」を任せられるのか
田村氏によると、従来のAIは「特定のタスクに特化している“専門家”」のようなものだという。例えば、チェスを専門とするAIに今日の献立を聞いても当然回答はできない。一方でChatGPTをはじめとする生成AIは、あらかじめ想定していないタスクに対しても「その場で理解し、答えを出せる“ジェネラリスト”」。今日の献立を聞こうが、プログラミングを依頼しようが、学習している幅広いデータから答えを出力してくれる。では、その生成AIと組み合わせることで力を発揮する「RAG(Retrieval Augmented Generation)」とは、どのような技術なのだろうか。
「RAGは、一言でいうと『カンニング』のようなものです。生成AIに、学習データにない情報、例えば『昨日私が食べたもの』について質問しても、答えられません。しかし、あらかじめ『昨日私はオムライスを食べました』と伝えた上で、再び『昨日私が食べたものは?』と聞くと、当然答えられるようになります。
RAGはこのように、あらかじめ『試験範囲の情報が詰まったカンニングペーパー集』のようなデータベースを用意しておくことで、ユーザーが質問すると、生成AIがそのデータベースを検索して答えを出力するシステムです。『検索システム+ChatGPT』だと思っていただければ分かりやすいかもしれません」(田村氏)
RAG技術によって情報参照先が限定されることで、例えば「社内情報を参照させ、自社ならではの回答をさせる」といったことが可能になる。
「社内で『あのファイルがどこにあるのか分からない』、もっと言うと『誰に何を聞けばいいのか分からない』というときも、RAGが搭載されたChatBotに質問することで、無駄なく必要な情報へたどり着けます。
また、お問い合わせ対応でも、顧客からお問い合わせがあったらすぐに自動で過去の回答集を検索し、今回使えそうな回答例を探し出し、返信文のたたき台を作成するといったことができます。
ほかにも『こういう課題を持っているお客様と商談するので、参考になりそうな過去の事例を教えて』と聞いて、資料を出してもらうといった使い方もありますし、過去の求職者や就職先のデータを基に、求職者と人材募集している企業をマッチングするといった例もあります」(田村氏)
なお、信頼性の高いデータベースのみを参照させることで「生成AIの嘘」と称されるハルシネーションの問題を軽減させることもできる。生成AIモデルのデータが更新されていなくても、参照先のデータベースが更新されていれば、最新情報について回答させることも可能だ。
食品業界の人手不足が「受注業務AIエージェント」発想のきっかけに
こうしたRAG技術と生成AI、RPAを組み合わせたソリューションの1つが、ユーザックシステムとWEELが共同開発した「受注業務AIエージェント」だ。
「RPAは条件分岐を『100より大きければA、小さければB』といった風にシステマティックに設定しなければならず、人が受注業務を行う際のような『お取引先様によって微妙に違う、曖昧な判断』を行うことはできません。一方、生成AIであれば人間のように『曖昧な判断』ができます。
そこで『受注業務AIエージェント』は、RAGによって過去の受注データや取引内容のデータベースを検索させ、その内容を生成AIに判断させることで、お取引先様ごとに違う受注業務の自動化を実現したのです」(田村氏)
もともとユーザックシステムは受注業務の自動化に強く、特に近年、食品業界でRPAサービス「Robo派遣*」の引き合いが多いことに注目していた。
ユーザックシステムのRPA「Autoジョブ名人」で、業務を自動化するRPAシナリオそのものを月額単位で利用できるサービスです。シナリオ開発・運用が不要なので、業務を自動化したいが人手不足などでRPAの開発にハードルを感じている企業におすすめです。
聞けば、人手不足で各種業務の担当者が足りず、もっと売上を伸ばせるはずの場面でチャンスを逃してしまう。その解決策を、「Robo派遣」による定型業務の業務効率化に見出し……というケースが少なくないという。
そこで同社は「RPA(Robo派遣)と併せて、人のように判断できるAIエージェントも“派遣”できれば、非定型業務まで自動化が進み、さらにお役に立てるはずだ」と考え、WEELとの共同開発に繋げたという。
「『受注業務AIエージェント』では、例えばお取引先から電話で『いつものアレ、○ケース入れてくれる?』と言われた担当者が、過去の注文を思い出したり、履歴データを見たりして『○○社さんだから、毎回注文してくださる△△のことだ』と判断し、△△の商品コードを探して、受注表のたたき台を作り……といった流れを自動化できるように、今実証実験を行っています。
電話であれば音声認識、FAXであればOCRを用いるのはもちろん、いずれはちょっとした言い間違いや記入不足などもAIが自動で判断して、補完できるようにしたいと考えています」(田村氏)
スモールスタートでOK!今こそAI導入へ踏み出して
「受注業務AIエージェント」の例を見れば、まさに“魔法の杖”かとも思えるRAG+生成AIのシステムだが、使いこなすにはまず「AIのためにデータベースを整える」ことが欠かせないという。
「まだ電子化の進んでいない企業様などでは『AIを導入しさえすればOKだと思っていたのに……』といった様子も見受けられますが、自動調理器だってまず人間が野菜の皮むきをしますし、ロボット掃除機だってまず人間が床に置いたものを片付ける、それと同じことなんです。
それに、この先どんなに技術革新が進んだとしても、AIフレンドリーなデータベースを持っていて、適切に更新できていれば応用が利きますから、今のうちにデータベースを整えておくことは損にはならないと思います。最初は大変でも、逆にそこさえ乗り越えてしまえば、得るものは大きいはずだとお伝えしていますね。
別に、社内のすべてのデータを一気に整えなければいけないわけではないし、最初から100点満点のデータベースである必要もありませんから、まずはスモールスタートで、最低限必要な一部だけでもやってみましょう、と」(田村氏)
田村氏がこういった話をするのは、日本企業が新技術に対して“石橋を叩いて渡る”傾向にあり、また初手から完璧を目指そうとするあまり、なかなか踏み出せない状況になりがちなのを案じてのことだという。
「『AIをやるならまずリテラシー教育から』と研修に予算を注ぎ込んだり、『RPA導入はノンコア業務から』と慎重に取り組んだりするケースも目立ちます。
ただ、新技術といっても、RAG技術は大手企業などによるPoCが盛んで、いわば“石橋をある程度叩き終わっている”状況にあるんです。だからこそ成果の表れやすいコア業務に思い切って投入することで、活用していってほしいですね。これで競合を引き離す!くらいのつもりで……まぁ、競合も同じことを考えているかもしれませんが(笑)」(田村氏)
「完全に理解する」ことや「リスクを回避する」ことにこだわり過ぎず、まずは「目の前にある技術で目的を叶える」ことに目を向けてみる。AI活用における“見る前に跳べ”というタイミングは、まさに今なのかもしれない。RAG技術と生成AIの行く先に、ぜひ今後も注目していきたい。
企業プロフィール
会社名 | 株式会社WEEL |
本社 | 〒161-0033東京都新宿区下落合4丁目26番12-201号 |
設立 | 2017年9月 |
資本金 | 200万円 |
事業内容 |
・AIアルゴリズム及び関連するシステムのPoC検証および開発業務 |
Webサイト | https://weel.co.jp/ |