多くの企業で帳票の電子化が進められています。2022年の電子帳簿保存法改正も追い風となり、紙の帳票からの脱却は当たり前となりつつあります。本記事では、帳票電子化の基礎から具体的な導入手順まで、実務に役立つ情報を解説します。
帳票とは?電子化の必要性を理解する
業務におけるデータの正確な記録と共有は、企業活動の基盤となります。まずは基本概念から、電子化が求められる背景までを体系的に解説します。
基本的な定義と役割
帳票は、企業活動における情報伝達の要となる文書です。見積書、発注書、請求書、申請書など、様々な種類の帳票が日々の業務で使用されています。これらは情報の記録や共有だけでなく、業務の証跡としても重要な役割を果たしています。特に、法令遵守や監査対応において、正確な記録と適切な保管が不可欠です。
紙帳票の課題
紙帳票を使用する従来の業務プロセスには、以下のような課題があります。
- 作業効率
手作業での入力や転記により、ミスの発生や修正作業が多発し、結果として処理時間が大幅に増加してしまいます
- 保管負担
物理的な保管スペースの確保だけでなく、温度や湿度の管理、防災対策など、維持管理に多くの労力とコストが必要となります
- 検索時間
必要な文書を探すために保管場所を探し、ファイルを確認する作業が発生し、緊急時の対応に支障をきたす可能性があります
- 情報共有
複数拠点や在宅勤務者との情報共有において、文書の複製や郵送が必要となり、リアルタイムな業務遂行の妨げとなります
電子化が必要とされる背景
企業を取り巻く環境は急速に変化しており、デジタル化への対応は避けられない課題となっています。電子帳簿保存法やインボイス制度への対応、各種業法で定められた文書管理要件、そして労務関連の法定帳票など、様々な法的要件に適切に対応する必要があります。さらに、人手不足や働き方改革への対応も、電子化を推進する重要な要因となっています 紙を利用したアナログ処理の問題点については「アナログのリスクとは?デジタル化(デジタイゼーション)を進めるためのポイント」をご参照ください。
帳票電子化の効果
帳票の電子化は、業務プロセス全体に大きな変革をもたらします。ここでは主要な効果について解説します。
業務効率の向上
- 帳票作成の効率化
定型フォーマットとテンプレートの活用により、入力ミスを防ぎながら作成時間を削減することが可能です。
- 承認プロセスの迅速化
電子決裁システムの導入により、これまで数日かかる場合もあった承認工程を数時間に短縮し、業務のスピードアップを実現できます。
- 検索効率の向上
高度な検索機能により、保管された文書の中から必要な情報をキーワードで即座に見つけ出し、顧客対応などの業務効率を向上させます。
- システム連携の円滑化
会計システムや在庫管理システムなど、社内の基幹システムとデータ連携することで、手作業による転記ミスを防止できます。
- 進捗状況の可視化
処理状況や承認フローをリアルタイムで確認できるため、ボトルネックの特定や進捗管理が容易になります。
データ分析による事業改善
- 取引分析による事業戦略の立案
取引データの分析により、商品の売れ筋・死に筋の把握や、地域・季節による需要変動の特定が可能になり、的確な在庫計画や販売戦略の立案に活用できます。
- 顧客ニーズの深い理解
受注データや問い合わせ履歴を分析することで、顧客の購買パターンや嗜好性を把握し、商品開発や品揃えの最適化に活かせます。
- 予測精度の向上
過去の取引データをAIで分析することで、需要予測の精度を向上させ、生産計画や仕入れ計画の最適化が実現できます。
- 新規ビジネス機会の発見
蓄積されたデータから市場トレンドや新たなニーズを発見し、新規事業や新サービスの開発につなげることができます。
コストの削減
- 消耗品コストの削減
用紙代や印刷費、消耗品費など、帳票作成に関わる直接的なコストを削減することができます。
- 保管スペースの最適化
物理的な保管スペースを縮小できるため、賃料や管理費の大幅な削減が可能となります。
- 人的リソースの最適化
帳票作成や管理における定型作業を自動化することで、作業工数を削減し、人的リソースを他の重要業務に振り向けられます。
導入時の課題と対策
帳票電子化を成功に導くためには、想定される課題を理解し、適切な対策を講じることが重要です。
- システム間連携の実現
既存の基幹システムとの互換性や連携方法の確立が課題となりますが、事前の詳細な要件定義と段階的なテスト実施により、安定した連携を実現することができます。
- 業務プロセスの移行
従来の紙ベースの業務フローからの変更に対する抵抗感が生じる可能性がありますが、パイロット部門での成功事例を示すことで、組織全体の理解促進につながります。
- 情報セキュリティの確保
電子データの漏洩や改ざんリスクへの不安が想定されますが、適切なアクセス権限管理と操作ログの記録により、より安全な運用体制を構築することができます。
- 利用者教育の徹底
新システムへの習熟に時間を要する場合がありますが、分かりやすいマニュアルの整備と定期的な研修実施により、スムーズな移行を実現することができます。
帳票の電子化の必要性については「ペーパーレスの必要性やメリットは?紙帳票のデジタル化と業務の自動化の進め方」をご参照ください。
なお、データ活用は、DX推進には不可欠です。詳しくは「DXを推進するうえでなぜデータ活用が重要?その関係と効果とは」をご覧ください。
帳票電子化の具体的な進め方
導入を成功に導くためには、計画的なアプローチが不可欠です。ここでは、準備から運用開始までの具体的なステップを解説します。
具体的な電子化の方法
既存の紙帳票を効率的に電子化するための方法を選択する必要があります。以下に主な手法を説明します。
- AI-OCR技術の活用
手書き文書も高精度で認識可能な AI-OCR を活用することで、既存の紙帳票を効率的にデータ化できます。フォーマットが異なる帳票でも対応が可能です。
- モバイル機器の導入
スマートフォンやタブレットのカメラ機能を活用し、現場で即時に電子化を行います。特に外出先での急な対応に有効です。
- 専門サービスの活用
大量の過去文書や定型的な入力作業は、専門の入力代行サービスを活用することで、内部の業務負荷を抑えながら効率的に電子化を進められます。
AI-OCRについては、以下もご参照ください。 「AI-OCRを比較検討~RPAとの連携、業務改善効果を上げる」
システム選定のポイント
電子化を成功に導くためには、自社の業務特性や規模に適したシステムを選定することが重要です。以下に主な検討ポイントを解説します。
提供形態による比較
各形態の特徴を理解し、自社に最適な選択をすることが重要です。
- クラウド型の特徴
初期投資を抑えられ、導入が比較的容易です。場所を選ばない利用が可能で、保守運用の負担も軽減できます。
- オンプレミス型の特徴
カスタマイズ性が高く、自社の業務に最適化した運用が可能です。ただし、初期投資と保守運用の負担は大きくなります。
必須機能の確認
システム選定時には、以下の機能要件を重点的に確認します。
- 基本機能の充実度
帳票の作成から承認、保存、検索まで、業務フローに必要な一連の機能が備わっており、直感的な操作が可能であることが重要です。
- 拡張機能の実装性
将来的な業務拡大や新たな要件に対応できるよう、機能の追加や他システムとの連携が容易に実現できる必要があります。
- セキュリティ機能の堅牢性
アクセス権限の管理や操作ログの記録など、情報セキュリティに関する十分な機能を備えていることが不可欠です。
段階的な導入プロセス
電子化の導入を確実に成功させるためには、段階的なアプローチが重要です。以下に、各フェーズでの具体的な実施事項を説明します。
1.初期導入(パイロット導入)
- パイロット対象の選定
フォーマットが統一されており、使用頻度が高い社内帳票を選定することで、早期に効果を実感し、社内の理解を得やすくなります。
- 業務手順の最適化
電子化後の新しい業務フローを詳細に文書化し、関係者への教育を実施することで、スムーズな移行を実現します。
- 導入効果の測定
作業時間の短縮や用紙使用量の削減など、具体的な数値で効果を測定し、次のステップに向けた改善点を明確にします。
2.対象範囲の拡大
- 取引先との協議実施
データ形式や運用ルールを標準化し、相互にメリットのある電子化の仕組みを構築します。
- システム連携の検証
基幹システムなど、既存システムとの連携テストを十分に行い、データの整合性とシステムの安定性を確保します。
- 段階的な展開計画
初期導入での成果と課題を踏まえ、部門ごとの特性を考慮した段階的な展開計画を策定し、実行します。
3.本格展開フェーズ
- 全社展開の推進
パイロット導入で得られたノウハウを活かし、対象部門や帳票の種類を計画的に拡大していきます。
- 運用ルールの標準化
部門間での運用の違いを解消し、全社で統一された効率的な運用ルールを確立します。
- 継続的な改善活動
定期的に効果測定と利用者からのフィードバックを収集し、システムと運用の両面で継続的な改善を進めます。
帳票の電子化による業務改革の実現に向けて
帳票の電子化は、単なるペーパーレス化を超えて、業務プロセス全体の改革につながる重要な取り組みです。成功のためには、現状の正確な把握から始め、具体的な改善目標を設定することが重要です。また、段階的な導入により、確実な成果を積み重ねていくアプローチが効果的です。さらに、業界特有の規制や各種法令に適合したシステムを選定することで、コンプライアンスを確保しながら、効率的な業務運営を実現できます。
帳票電子化は、企業の競争力強化に直結する重要な施策です。本記事で解説した導入のポイントを参考に、自社に最適な電子化戦略を策定し、着実に実行していくことをお勧めします。
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