デザイン思考がDX推進に役立つ理由と推進の5ステップを紹介

デザイン思考がDX推進に役立つ理由と推進の5ステップを紹介

近年ビジネスの場で、「デザイン思考(Design Thinking)」という言葉をよく耳にするようになりました。2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」でも、「ユーザー起点でデザイン思考を活用し、UX(ユーザーエクスペリエンス)を設計し、要求としてまとめあげる人材」が、ベンダー企業において必要だとされています。ビジネス上でのデザイン思考とは何を意味するのでしょうか。

今回は、デザイン思考とは何か、またDX推進にデザイン思考が必要な理由や、DX推進の際にデザイン思考を実践する方法などを解説します。

UXについては、「DXにはUX向上が不可欠!その関係性や効果的な進め方を解説」をご覧ください。

デザイン思考とは?

デザイン思考とは、デザイナーがデザインを考案する過程の思考プロセスを活用した問題解決の考え方で、昨今ビジネスの世界でも注目されています。

デザイン思考はさまざまに定義されていますが、野村総合研究所が作成した「国際競争力強化のためのデザイン思考を活用した経営実態調査報告書」では、共通要素として次の3点があるとしています。

  • ユーザー視点での問題理解

複雑な要因が絡み合って生じている問題の本質を人間中心視点で紐解いていく。

  • 多様な選択肢と統合

多くの問題解決につながる選択肢を用意し、吟味し、統合し、適切な解決策を導き出す。

  • ビジュアライゼーション

解決策の良し悪しはアイデアの段階では判別できないと考え、物理的に形にする、または視覚化することでアイデアを手に取れるようにし、また、試すことで改善を積み重ねる。

引用元:国際競争力強化のためのデザイン思考を活用した経営実態調査報告書(PDF)|野村総合研究所

ビジネスの場では、ユーザーの視点に立ってその思いや問題に共感し、解決策を考え出す方法としてデザイン思考が用いられます。イノベーション創出につながる有効な策として、GoogleやAppleなどの大手企業でも積極的に取り入れられているのです。

デザイン思考がビジネスで使える理由は?

ユーザーの視点に立つデザイン思考は、ビジネスの場でも非常に有用です。ユーザーの満たされていないニーズを発見し、ニーズに応える商品を開発することにつながるからです。

ここでユーザーのニーズについておさらいしましょう。人のニーズには、顕在ニーズと潜在ニーズの2種類があります。

  • 顕在ニーズ:ユーザー自身が自覚しているニーズ
  • 潜在ニーズ:ユーザー自身が自覚していないニーズ

具体的には、例えばユーザーが「リモートワークが増え、オンラインでコミュニケーションできるツールを導入しているが、同僚との会話が弾まない。オンラインでもっと気軽に話せるツールはないか」と考えていたとしましょう。これが顕在ニーズです。

この顕在ニーズの裏には、例えば次のような潜在ニーズが隠れている可能性があります。

「リモートワークが増え、従業員間のコミュニケーションが希薄化している。その影響により増加している従業員の離職を食い止めたい」「オンラインでの会話では意義あるディスカッションにまで発展しない。業務の質を上げるためのディスカッションを活発にし、収益に結びつくアイデアが欲しい」

デザイン思考では、顕在ニーズだけでなく、潜在ニーズにも目を配ります。それにより、ユーザーの支持が得られる製品やサービス開発につなげることができます。

また、デザイン思考は製品やサービスそのものにとどまらず、ユーザーへのアプローチから購入後のアフターケアに至るまでの対応にも生かすことが可能です。そういったことから、UXやCXの向上にも寄与します。

UXやCXについては、下記の記事をご覧ください。

DXにはUX向上が不可欠!その関係性や効果的な進め方を解説

DXの推進にデザイン思考が役立つ理由

いま、多くの企業にDX推進が求められています。DXの推進にもデザイン思考は有用です。その理由を考えていきましょう。

DXはデジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデル、組織などあらゆるものを変革し、ユーザーの心をひきつける新たな価値を提供する取り組みです。

デザイン思考を活用すれば、顕在ニーズだけでなく、ユーザー自身が気づいていない潜在ニーズまで拾い上げることができます。そうして発見した潜在ニーズに寄り添っていければ、ユーザーが真に求める価値の創出につながるDXを推進できるでしょう。

デザイン思考を実践しDXを推進する5つのステップ

では、デザイン思考をどのようにDX推進に役立てていけばよいのでしょうか。スタンフォード大学のデザイン研究所(Hasso Plattner Institute of Design)が提唱する、デザイン思考の5段階プロセスに沿ってまとめてみました。

1.    共感(Empathize)―ユーザーの潜在ニーズまでを把握する

デザイン思考で重要なのは、隠れている潜在的なニーズの把握です。アンケートやインタビューだけでなく、Web上での動向のリサーチ、何気ない会話、行動観察、自身が同じ体験をするなど、あらゆる方法でユーザーのニーズを把握します。

デザイン思考の要(かなめ)となる工程なので、ユーザーの潜在ニーズを把握するための情報をできるだけ多く入手することが重要です。ここで行う情報収集が、ユーザーのニーズに応える新しい価値提供につながるDX推進へのスタートとなります。

2.    問題定義(Define)―ユーザーのニーズから課題を定義する

次に、課題を定義します。1の工程で得た情報をもとに「それはなぜか?」「なぜそれでは満足しないのか?」「なぜそういう気持ちになったのか?」のように「なぜ?」を追求します。続けて、「ユーザーが本当にやりたいことは何か」「欲しい・利用したいというその裏にある想いは何か」「ユーザー自身が気づいていない本音はどこにあるのか」などの潜在ニーズを探ります。顕在ニーズに応えることもときには必要ですが、あくまでも潜在ニーズに着目することで、本質的な課題が見えてくるのです。

本質的な課題が見えたら、その解決につながるDXの方向性を検討できるでしょう。

3.    創造(Ideate)―アイデアを出し合う

ユーザーのニーズを把握し課題が明確になったら、アイデア出しの段階に入ります。この時点で、「採用するアイデアを決定する」と気負う必要はありません。

ブレインストーミングといった気軽に話し合える場を設けて、ざっくばらんにアイデアを出し合います。「“とりあえず”を大事に」「できるだけ多くのアイデアを出し合う」などの点を意識するとよいでしょう。

この段階では、予算や細かな事情まで考える必要はありません。ユーザーの課題を解決するにはどのようなサービスが必要か、それを実現するにはどのテクノロジーが必要かなど、思いつくままにすべてを出し合いましょう。

またこのとき、売上につなげるためのアイデアを出すのではなく、ユーザーに寄り添ったユーザー中心の設計にすることを忘れないよう注意します。「あくまでもユーザー中心」という軸がブレないことが重要です。

4.    試作(Prototype)−アイデアを試してみる

アイデアが多く出てきたら、支持を得たアイデアを実際に試してみましょう。試すといっても、大きなコストをかけてシステムやデジタルツールを導入するのではありません。

アイデアとして出されたツールやシステムが実際の課題解決につながるかどうか、シミュレーションしてみるのです。「無料お試し期間のあるツールを試してみる」「実際に導入を検討しているシステムに似せた簡易ツールを利用する」など、コストや時間をかけずに、できる範囲で試してみるとよいでしょう。

5.    テスト(Test)−テストを繰り返しブラッシュアップする

実際にテストをします。そこで得た意見をもとに、成果が見込めるような方向でDXを進めていきます。一度テストして終わりではなく、ユーザーのニーズに沿っているかを確認しながら必要に応じ修正し、ブラッシュアップしていくことが重要です。

DX推進に必要なデザイン思考

DXは単なるデジタル化ではありません。DXを推進することで新たな価値を提供し、ユーザーのニーズに応える必要があります。

業務のデジタル化や新しいシステムの導入などを進めても、ユーザーの満足度につながらなければ、それは企業のひとりよがりになるでしょう。かたちだけはデジタル化しても、DXは失敗に終わってしまいます。

そうならないために有用な方法がデザイン思考です。デザイン思考により、スタート地点からユーザー視点でDXを推進していけば、自然にユーザーのニーズに寄り添う新たな価値の提供へとつながることが期待できます。 DX推進を成功させるためにもデザイン思考を理解し、積極的に活用してはいかがでしょうか。