D2Cビジネスとは?拡大している市場の動向や取り組むメリットを解説

近年、メーカーが直接消費者に商品を販売するD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ビジネスが注目を集めています。インターネットの普及や消費者ニーズの変化を背景に、多くのメーカーがD2Cの導入を検討しています。しかし、D2Cは従来のビジネスモデルとは異なる特徴があり、参入する際には十分な準備と理解が必要です。

本記事では、新規事業としてD2Cを検討しているメーカーの担当者に向けて、D2Cビジネスの基礎知識や市場動向、メリットとデメリットを解説します。

D2Cとは?注目されるビジネスモデルの特徴

D2Cとは、Direct to Consumerの略で、メーカーが直接消費者に商品を販売するビジネスモデルのことです。D2Cは主にアパレル、化粧品、食品、日用品などの分野で採用されており、大手メーカーも自社ECサイトを立ち上げ、D2Cへの参入が加速しています。

D2Cのビジネスモデルの特徴

このビジネスモデルの最大の特徴は、メーカーと消費者の直接的なつながりです。中間業者を介さないことで、メーカーは消費者との距離を縮め、直接コミュニケーションを取ることができます。これにより、消費者のニーズや好みをダイレクトに把握し、商品開発やマーケティング戦略に反映することが可能となります。
さらに、D2Cでは、メーカーが価格決定権を持つため、流通コストの削減分を商品価格に反映させることができます。これは消費者にとってもメリットとなり、品質の高い商品をよりリーズナブルな価格で手に入れることができます。加えて、D2Cは在庫管理の最適化や商品の生産から販売までの一連の流れを合理化することにも貢献します。需要予測に基づいた生産・在庫管理が可能となり、在庫の偏りや品切れのリスクを減らせます。

D2Cがメーカーにとって新たな成長機会を提供する一方、メーカーは物流やカスタマーサポートなどの面で新たな課題に直面します。しかし、テクノロジーの進歩やデジタル化の加速により、これらの課題を克服し、D2Cのメリットを最大限に生かすことが可能となってきています。

D2Cの市場拡大の背景や動向

近年、日本の物販系分野におけるBtoC-EC市場は着実に成長を遂げてきました。経済産業省の「令和2年度 産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2013年には5兆9,931億円だった市場規模は、2019年には10兆515億円にまで拡大し、7年間で約2倍の規模になっています。

しかし、2020年に入り、新型コロナウイルス感染症の拡大によってそのスピードが一変します。外出自粛や店舗の営業制限などを背景に、消費者の購買行動はオンラインにシフトし、いわゆる「巣ごもり消費」が加速しました。

この影響で、2020年の物販系分野のBtoC-EC市場規模は、前年比21.71%増の12兆2,333億円に急拡大。EC化率も8.08%と前年より1.32ポイント上昇し、過去最高を記録しました。

コロナ禍がなければ、過去数年の傾向から2020年の市場規模は最大でも11兆円程度になると予想されていたので、つまり巣ごもり消費の影響で、少なくとも約1.2兆円の市場規模が上乗せされたことになります。

この数字は、パンデミックが消費者の行動変容を加速させ、EC市場の成長をあと押ししたことを如実に示しています。また、企業にとってもECの重要性が一層高まったことも意味しています。

そのほか、『売れるネット広告社』の2020年の時点での調査によれば、2025年には国内のD2C市場規模は3兆円を超えると推計されています。

2015年から増加傾向にあり、D2C市場のさらなる拡大が予想されています。

一方で、経済産業省「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」のデータを見ると、オンラインでの売上高の縮小傾向もあり、感染症流行による行動制限が緩和されたことによるリアル回帰の影響もあると考えられています。

しかし、インターネットの普及とともにEC事業は発展しつづけており、消費者の買い物習慣も大きく変わりました。一過性のブームではなく、企業と消費者にとって欠かせない、長期的に定着するビジネスモデルだと考えられます。

また物流業界では、D2C市場の拡大による個人向け小口配送の需要増による課題を抱えています。

物流への影響や背景について詳しくは、「物流クライシスとは?物流DXで2024年問題から脱却するには」をご覧ください。

D2Cが企業にもたらすメリット

D2Cビジネスモデルでは、メーカーが直接消費者にアプローチできるのが大きな強みです。これには、従来の販売方式では得られなかった3つのメリットがあります。

ブランドロイヤルティーの向上

D2Cの大きな特長は、メーカーと顧客が直接コミュニケーションできることです。自社のECサイトやSNS、カスタマーサポートなどを通じて、顧客の生の声を聞き、ニーズや好み、課題など深い理解を得られます。

また、購買履歴や閲覧履歴、アンケートの回答といった顧客データを収集・分析することで、一人一人の顧客に最適化されたパーソナライズドマーケティングを実施できます。
例えば、あるユーザーがある商品を頻繁に購入していれば、その商品に関連する新商品や特別オファーを提案するといったことが可能になります。これは、顧客満足度の向上とリピート率のアップにつながり、ひいてはブランドロイヤルティーの向上や売上の拡大に期待できるでしょう。

価格競争力の向上

従来のビジネスモデルでは、メーカーから卸売業者、小売業者を経由して消費者の手に商品が渡るため、各段階でのマージンが価格に上乗せされます。

この構造は、広範な販売網の確立や、在庫管理のサポートという重要な役割を果たしています。一方、D2Cでは中間業者を介さないので、これらのマージンを削減できます。

その結果、商品の価格を抑えつつ、品質を維持することが可能となり、消費者により魅力的な価格で商品を提供できるのです。
また、価格決定権を自社で持つことで、市場の動向に合わせた柔軟な価格戦略を立てることもできます。これは、競合他社との差別化や、需要の変動への対応をするうえで大きなアドバンテージとなります。

利益率の改善

D2Cでは、中間業者への支払いを差し引く必要がないため、売り上げに対する利益の割合を高めることができます。

例えば、従来の販売方式で商品を1,000円で販売し、中間業者へのマージンが300円とすると、メーカーの取り分は700円です。商品の製造コストが500円なら利益は200円で、利益率は20%になります。D2Cでは同じく1,000円で商品を販売した場合、メーカーの取り分は1,000円、商品の製造コストが500円ならば利益は500円で、利益率は50%です。

加えて、消費者の需要を直接把握することができるため、その需要予測に基づいて適切な量の在庫を用意することができます。これにより、在庫が余るリスクや不足するリスクを削減できます。在庫の偏りや欠品を防ぐことで、ビジネス効率をさらに高めることができます。

D2Cビジネス導入する際に重要な3つのポイント

D2Cビジネスへの参入は、メーカーにとって消費者との直接的な関係性を築くことができる大きなチャンスです。しかし、D2Cの導入には、従来のビジネスモデルとは異なる課題やリスクが伴います。D2Cを成功に導くためには、自社の状況に合わせた適切な戦略を立てることが不可欠です。

配送インフラの整備

D2Cビジネスでは、自社で在庫管理と顧客への商品発送を行う必要があるため、従来の中間業者を介する販売モデルと比べて物流業務への負荷が高くなります。この課題に対応するためには、在庫管理システムの導入により、リアルタイムで在庫状況を把握し、適切な在庫量を維持することが重要です。これにより、欠品による機会損失を防ぎ、顧客満足度を高めることができます。

また、自社で配送インフラを整備するのはコストがかかるため、信頼できる配送業者と提携し、配送状況のトラッキングや配送の効率化を図ることが求められます。配送業者の選定に際しては、配送品質や価格、対応エリアなどを総合的に評価し、自社のニーズに合ったパートナーを検討しましょう。

既存の販路と共存・強化

D2Cを新たに始めても、卸売や店舗といった既存の販路とは完全に切り離すべきではありません。D2Cと既存の販路は、それぞれの強みを活かしつつ、共存・共栄を目指すことが重要です。

例えば、D2Cでは顧客との直接的なコミュニケーションを通じて得られた知見を、商品開発や既存の販路での販売促進に活かすことができます。一方、対面で販売を行う実店舗では、地域に根ざしたきめ細かなサービスの提供も可能です。

それぞれの販売戦略の役割を明確にしつつ、相互に連携することで、企業全体の売り上げ拡大と顧客満足度の向上を図ることができるでしょう。それぞれの販路の情報を共有し、連携策を検討していくことが大切です。

定期的な商品開発への活用

D2Cの大きな強みのひとつは、購買履歴や閲覧履歴、アンケート結果などの顧客データを直接収集できることです。これらの情報を、商品開発や品ぞろえの最適化に活用することが重要です。

例えば、化粧品ブランドが、顧客の肌質や悩みに関するデータを収集・分析し、それに合わせたパーソナライズ商品を開発することで、顧客満足度の向上と販売拡大が期待できます。また、食品ブランドが、顧客の味の好みや購買傾向を把握し、それに合わせた商品ラインナップを提供することで、需要に適した品ぞろえを実現できます。

さらに、収集した顧客データを分析することで、人気商品や関連商品の把握、在庫管理の効率化、需要予測の精度向上なども可能になります。例えば、よく一緒に購入される商品をレコメンドしたり、購買頻度の高い顧客に特別なオファーを提供したりするなどの施策が考えられます。ただし、顧客データの取り扱いには十分な注意が必要です。個人情報の保護に配慮しつつ、データを適切に活用することが求められます。顧客のプライバシーに対する姿勢を明確にし、信頼を損なわないよう細心の注意を払う必要があります。

D2Cのメリットや注意点を理解して適切なビジネスモデルを選択

D2Cはメーカーにとって大きなチャンスであると同時に、変革を迫られる転換点でもあります。従来のビジネスモデルの延長線上ではない、新たな発想と取り組みが求められています。一方で、D2Cの導入には、物流の負荷増大や既存チャネルとの関係性の再構築など、克服すべき課題も伴います。これらのリスクに適切に対処しながら、D2Cの強みを最大限に活かすことが成功の鍵となります。今後のさらなる市場拡大が予測されるなかで、自社の強みを活かしつつ、状況に合わせて柔軟に取り入れていくといいでしょう。