こんにちは、DXGO編集部&ユーザックシステム マーケティング本部の大崎です。
ここまでの連載では、生成AIがもたらす新しい時代の到来、そしてマーケティングの役割がどのように変わるのかを見てきました。第3回では「拡張」というキーワードを中心に、生成AIがコンテンツや顧客理解をどのように広げていくのかを整理しました。では、AIがますます高度化していく時代において、人間はどのような役割を担うべきなのでしょうか。今回はこの問いを掘り下げていきます。
AIに任せられること
まずはAIが得意とする領域を整理してみましょう。
1.大量の情報処理
AIは膨大なデータを一瞬で処理できます。数万件のアンケート結果やソーシャルメディアの投稿を要約するのは、人間にとって膨大な時間と労力がかかりますが、AIなら数分で可能です。
2.パターン抽出と仮説提示
AIはデータから規則性を見つけ出すのが得意です。たとえば「ある属性の顧客は特定の製品を好む」といった傾向を発見することは、人間よりもはるかに迅速に行えます。
3.作業の自動化
広告コピーのたたき台を作る、メール文案を生成する、簡単なレポートを出力するといった反復作業はAIに任せることができます。
実際にAIを使ってみると、『これは人に任せたい』『ここはAIにお願いできる』と自然に線引きが見えてきます。
つまりAIは「効率よく大量の情報を扱う作業者」であり、「新しい気づきを提案するアシスタント」として非常に有効です。
AIに任せきれないこと
一方で、AIにはまだまだ不得意な領域があります。
1.倫理的判断
顧客にとって不快なメッセージかどうか、差別的に受け取られないか。こうした判断はAIには難しく、人間の感覚が不可欠です。
2.ブランドの一貫性
企業ごとに持つ価値観や言葉のトーンは微妙なニュアンスを含みます。AIは学習データに依存するため、「その企業らしさ」を守るには人間の編集が欠かせません。
3.独自のクリエイティビティ
AIは既存データから新しいものを生成しますが、まったく新しい発想やジャンプは苦手です。「常識を破るアイデア」や「意外性のある表現」は人間ならではの力です。
4.共感の構築
マーケティングは最終的に「人と人との関係性」に基づきます。顧客の感情に寄り添い、共感を醸成するのは人間の温度を伴ったコミュニケーションが必要です。
AIが万能の存在ではない以上、「人にしかできないこと」を明確に意識することが、これからのマーケティングで重要になります。
協働モデルの具体像
では、AIと人間はどのように協働すれば良いのでしょうか。ここでは3つの段階を挙げてみます。
1.補助(Assist)
AIを補助的に活用し、作業を効率化する段階です。例としては、記事の初稿作成や広告コピーのバリエーション生成。人間はその中から最適なものを選びます。
2.協働(Collaborate)
AIと人が役割分担し、共にアウトプットを作り上げる段階です。AIがデータ分析を担い、人間が戦略を立案するといった関係が典型です。
3.共創(Co-create)
将来的にはAIを「チームの一員」として扱い、発想段階から共にプロジェクトを進めることも可能になるでしょう。この段階では、人間は編集長や指揮者のような役割を果たすことになります。
この3段階を経て、AIと人間の協働関係は深化していきます。
私はよく、AIを“参謀役”に例えるのですが、みなさんの感覚ではどうでしょうか?
マーケターに求められる新しい資質
AIとの協働を前提にすると、マーケターにはこれまで以上に「編集者的な資質」が求められるようになります。
・AIを使いこなす力
プロンプトを工夫し、AIから有益な回答を引き出す力。単なる「指示」ではなく「対話」として扱う力が必要です。
・批判的思考
AIの出力をそのまま受け入れず、裏付けを取り、リスクを見極める姿勢。
・物語を紡ぐ力
データや情報をつなぎ合わせ、顧客が共感できる物語にする能力。
・倫理観と人間性
短期的な効果よりも、長期的な信頼関係を大事にする価値観。
これらは機械には代替できない「人間ならではの役割」といえるでしょう。
ブランド視点での協働
ブランドの観点から考えると、AIは「拡声器」であり、人は「演奏者」のようなものです。AIは大量の情報を広げる力を持っていますが、そこに魂を吹き込むのは人間です。
- 企業の歴史や理念を理解し、語り続ける
 - 顧客の声に耳を傾け、ブランドを磨き上げる
 - 倫理と共感をベースに、信頼を積み重ねる
 
この部分はAIには担えません。したがってAIがいくら進化しても、ブランドを守り育てる責任は人間に残り続けるのです。
まとめ:AIは相棒、人は編集者
生成AIはマーケティングにおいて強力な相棒になります。しかしその真価は、人間と協働してこそ発揮されます。
- AIに任せられること:情報処理、仮説提示、反復作業
 - 人間にしかできないこと:倫理判断、ブランド一貫性、独自発想、共感形成
 - 未来の姿:補助 → 協働 → 共創というステップで関係を深める
 
AI時代のマーケターは「戦略の編集者」であり、「共感のデザイナー」です。AIを使いこなしつつ、人間らしさを前面に出すことが、これからのマーケティング成功の鍵になるでしょう。
次回予告 
第5回では「生成AIマーケティングの課題とリスク」をテーマに、精度・法規制・文化的ハードルといった側面を取り上げ、現実的な視点から考察していきます。
                