近年、建設業界でも「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉をよく耳にするようになりました。建設業界におけるDXは「建設DX」と呼ばれ、業界内外で注目されています。本記事では、建設DXの基本や必要性、具体的な取り組み事例、そして成功のポイントなどを詳しく解説します。建設業に携わる方々はもちろん、DXに関心のある方々にとっても役立つ内容です。
建設DXとは
建設DXとは、デジタル技術を活用して建設業界の業務プロセスや事業モデルを根本から変革し、生産性向上や新たな価値創造を実現することを指します。単なる個別の業務効率化だけでなく、設計や施工、維持管理を含む建設プロジェクト全体の最適化を図ります。
DXの基本については、「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」をご覧ください。
なぜ今、建設DXが注目されるのか
建設DXが注目される背景には、「2025年の崖」という問題があります。「2025年の崖」とは、経済産業省が警鐘を鳴らしている日本のデジタル化の遅れによる経済損失のリスクを指します。2025年が差し迫るなか、建設業界に限らず多くの業種でDXへの取り組みが急務となっています。
とりわけ建設業界は他産業と比較し、次に説明するような人手不足や長時間労働などの課題が顕著です。近年のデジタル技術の発展を背景に、これらの課題を解決する手段として建設DXが注目されています。
建設業界が直面する課題
建設業界が直面する課題には、具体的に以下のようなものがあります。
深刻な人材不足と高齢化
建設業界では、若年層の入職者が少なく高齢化が進んでおり、将来的な人材の確保が大きな課題となっています。特に技能労働者の高齢化は深刻で、熟練工の技術継承も課題となっています。
長時間労働
建設業界は他産業に比べ、年間の出勤日数が多く、労働時間も長い傾向にあります。改正労働基準法の施行により、2024年4月から建設業にも罰則付きの時間外労働の上限規制が適用され、働き方改革への対応が必要になりました。
参考:建設業における働き方改革|国土交通省中部地方整備局 建政部
低い労働生産性
建設業の労働生産性は、製造業などの他産業と比較して低い水準にあります。この状況が業界全体の長時間労働の一因でもあるため、施工作業の効率化や各工程における連携強化など、さまざまな面での改善が求められています。
建設DXがもたらすメリット
デジタル技術の活用によって実現できる、具体的な効果や利点は以下のとおりです。
業務の大幅な効率化
建設DXの導入により、従来手作業だった作業や紙ベースの業務をデジタル化し、大幅な効率化が可能になります。これは人手不足の解消にもつながります。
労働環境の改善
ICT建機やロボットの導入により、危険で負荷の高い作業を減らすことができます。また、現場の作業を効率化することで業務時間を削減できれば、長時間労働を是正しつつ週休3日制を導入するなど、より働きやすい労働環境を用意できます。
コスト削減
デジタル技術を活用することで、資材の無駄や作業の重複を減らし、コストを削減することにつながります。また、データに基づく適切な作業員や資材の調達を行うことで、さらなるコスト最適化が見込めます。
企業競争力の強化
蓄積されたデータを分析し活用することで、顧客ニーズに合わせた新しいサービスの開発や、より精度の高い提案が可能になります。これにより他社との差別化を図り、競争力を強化できるでしょう。
建設DXに活用できるデジタル技術
国土交通省は2016年から建設現場の生産性向上を目的に、「i-Construction(アイ・コンストラクション)」を推進しています。この取り組みでは、ICTやBIM/CIM
を中心に、以下のようなさまざまな技術を活用することが重要とされています。
ICT(情報通信技術)
ICT(Information and Communication Technology)は、情報処理や通信に関する技術の総称です。例えば、3次元の測量データと設計データを用いて、ICT建機による自動制御や誘導を行うことで、従来の丁張りを使用する施工と比べて大幅に作業を効率化できます。
BIM/CIM
BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling,Management)とは、建築物や構造物の3次元モデルを作成する手法で、プロジェクトの各段階における関係者間のデータ共有の効率化を図ります。主にBIMは建築で、CIMは土木やインフラ領域で活用されます。
国土交通省が「2023年までに小規模を除く公共事業においてBIM/CIMを原則適用する」と発表したこともあり、現在普及が進んでいる技術です。
IoTセンサー
インターネットに接続し情報を収集・管理するIoTセンサーを活用することで、現場の環境や作業員の位置情報をリアルタイムで把握できます。
IoTについては、「IoTとは?仕組みと効果・課題、導入事例などを紹介」で詳しく解説しています。
AI・機械学習
AI(人工知能)や機械学習技術を活用することで、過去のデータを元に高い精度で最適な工法や資材を選定したり、工期や危険性を予測したりできます。
AIの活用方法については、「業種別AI活用事例!DXとの関係やAIによって進化した技術も紹介」で詳しく解説しています。
ドローン
ドローンを活用することで、広大な現場の測量や、高所の点検作業を効率的に行うことができます。人が立ち入りにくい場所のデータ収集も可能です。
AR/VR/MR
AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)技術を活用することで、実際の建設前に仮想空間で設計の検証を行ったり、危険を伴う作業の訓練を安全に実施したりすることができます。
クラウドサービス
クラウドサービスの導入により、現場とオフィス間のタイムリーな情報共有が可能になります。遠隔での作業指示や進捗管理も容易です。
建設DXの進め方
建設DXを推進する際は、以下のようなステップで進めていきましょう。
現状の課題を明確にする
建設DXの第一歩は、現場が直面している具体的な課題を正確に把握することです。作業員の声に耳を傾け、人手不足や長時間労働、非効率な施工プロセスなどの問題点を特定します。
DXの目的・戦略を明確にする
収集した現場の声をもとに、組織全体でDX推進の目的と戦略を策定します。ここで重要なのは、単なる業務効率化にとどまらず、顧客への新たな価値提供を見据えた視点です。デジタル技術の導入はあくまでも手段であるため、それらを通じて何を実現し、顧客にどのような価値を届けるのかを明確にしましょう。段階的な目標設定を行い、個々の取り組みについて優先順位や予算配分を決定します。
推進プロセス・スケジュールを定める
取り組みの規模やスケジュールについては、組織の状況や目的に応じて柔軟に判断することが重要です。全社一斉のスピーディーな変革で組織全体のリソースを集中投下する方法もあれば、段階的なアプローチでリスク管理や現場への負担軽減を図るアプローチもあります。自社の状況に見合った無理のない推進計画を立てましょう。
必要な人材・デジタル環境を確保する
効果的なDX推進には、適切な体制づくりが不可欠です。デジタル技術に精通した人材の採用・育成を行うとともに、BIM/CIMやクラウドサービスなど、必要なデジタル技術の選定・導入を進めます。
DX人材の育成方法については、「DX人材を育成するには?方法や成功事例、重要なポイントを解説」をご覧ください。
評価・改善を続ける
DXの取り組みの効果は定期的に検証し、必要に応じて改善を行います。具体的なKPIを設定し、工期短縮や売上増加などの定量的な効果を測定できるとよいでしょう。また、現場からのフィードバックを積極的に収集し、導入したシステムの使いやすさや実用性を継続的に向上させていくことも大切です。
建設DXの取り組み事例
建設業界では、さまざまな企業がDXに積極的に取り組んでいます。ここでは、デジタル技術を使ってシステムを開発し、建設業界全体のDX推進を目指している2つの事例をご紹介します。
株式会社大林組:建設現場の3Dモデル化をアプリで実現
株式会社大林組は、特殊な機器やスキルがなくても建設現場の3Dモデル化を実現できるアプリケーションを開発しました。BIM/CIMやIoTを活用することで現場の状況をデジタル空間で再現し、関係者間で共有できるものです。これにより、クラウド上で工事の進捗や安全性の管理ができ、建設現場のDXにつながります。業界標準のツールとなることを目指し、他社への展開も視野に入れているといいます。
参考:建設現場のデジタルツインを構築できる「デジタルツインアプリ」を開発|株式会社大林組
株式会社奥村組:AIによる安全管理システムを構築
株式会社奥村組は、建設現場の重大事故の原因となる高所作業での安全帯不使用を防ぐため、画像認識AI技術を活用した監視システムを株式会社日立ソリューションズと共同開発しました。カメラで作業員を監視し、安全帯の未装着を自動検知すると、現場で警告を発し管理者へ通知する仕組みです。クラウド上に記録を蓄積できるためスムーズな対策や指導につながっており、現在は外部へのレンタルも行われています。
参考:西尾レントオールは建設業向け AI安全帯不使用者検知システム「KAKERU」のレンタルを開始します|PR TIMES
最新技術を活用し建設DXを推進しよう
建設DXは、業界が直面する課題を解決するだけでなく、新たな価値創造の機会をもたらします。データドリブン経営の実現や、効率的な業務プロセスの構築など、その可能性は計り知れません。新たなシステムや技術の導入を計画的に進め、組織全体の変革を推進していきましょう。
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