DX推進が急がれるなか、昨今よく耳にするようになった言葉のひとつに「デジタルツイン」があります。ツインとは双子という意味であり、同じような環境が2か所に存在することであると予想できるかもしれません。
今回は、デジタルツインについて、DXとの関係や各業界における事例も含め、幅広く紹介します。デジタルツインへの理解を深め、DX推進に役立ててください。
デジタルツインとは
デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実空間で収集したデータをもとに、仮想空間に現実空間と同じ環境を再現したものです。現実空間と対になる双子をデジタルで作成したようなもの、という意味で名付けられました。
総務省では、デジタルツインについて、以下のように説明しています。
「現実世界と対になる双子(ツイン)をデジタル空間上に構築し、モニタリングやシミュレーションを可能にする仕組み。」
引用元:令和3年版 情報通信白書|「誰一人取り残さない」デジタル・ガバメントの実現に向けて必要な取組|総務省
デジタルツインは、現実空間のデータを反映してリアルタイムに変化するものです。そこで数学的・物理的なシミュレーションを行い、その結果を現実空間にフィードバックできます。
デジタルツインが注目されている背景
近年は、AIやVR、IoTなどの技術の発達により、現実をデジタル上で忠実に、本物同様に再現できるようになりました。
デジタルツインのほうにも、リアルタイムで現実空間の変化を反映させられます。デジタルツイン上で精度の高いシミュレーションができるため、手間や時間のかかる現実空間でのシミュレーションが不要になります。デジタルツイン上でモニタリングを行い、問題の発生を検知することも可能です。
デジタルツインの登場によって、シミュレーションがより幅広く行われ、さまざまな用途で利用されるようになったのです。
デジタルツインの登場により可能になったこと
デジタルツインでは精度の高いシミュレーションが可能なため、現実では実行しにくい、以下のようなシミュレーションを行うことができます。たとえば、次のようなものです。
- 大規模なシミュレーション
- 何度も繰り返すことが難しいテーマでのシミュレーション
- 試作品のトライアンドエラー
- 一定時間待つ必要があるシミュレーション
- 広範囲の準備や多額のコストが必要なシミュレーション
このようなシミュレーションを容易に行えるようになります。その結果、大規模なイノベーションにつながることも期待できます。
デジタルツインとDXとの関係
現実空間で収集したデータを仮想空間上で分析することで、ビッグデータを効果的に利活用することが可能です。そこから新製品の開発や既製品の改善を行います。
DXは、業務のデジタル化を行うだけでなく、それによって蓄積したデータを効果的に利活用し、新しい価値を提供することです。
そのため、デジタルツインの活用はそのままDXの推進につながり、新しい価値の提供を実現するために必要な技術となります。特に、製造業のようにシミュレーションを多用する業界では重要な技術です。
DXについてあらためて確認したい方は、「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」をご覧ください。
デジタルツインの仕組み
デジタルツインと現実空間の間では、次のようなデータのやりとりが行われます。
- IoTにより現実空間からさまざまなリアルタイムデータを取得し、サーバー上の仮想空間に送信します。
- 仮想空間で一定期間データを蓄積し、蓄積したデータをもとにしてAIが分析・処理・シミュレーションなどを行います。
- シミュレーションの結果を現実空間にフィードバックします。それをもとに、現実空間で対策や改善を行います。
デジタルツインに必要な技術
デジタルツインには、次のような先端技術がよく使われています。
- IoT
IoTとは、あらゆるモノをインターネットに接続し、情報を送受信する技術です。IoTによって現実空間からさまざまなデータが送信されることにより、デジタルツインの運営が可能になります。このデータはデジタルツインを作成し、シミュレーションのためのデータを収集し、改善を行うためのものです。
IoTについて詳しくは、「IoTとDXはどう違う?ICT・AI・RPAとの違いも紹介」をご覧ください。
- 5G
5Gは、第5世代移動通信技術ともいいます。大容量のデータを高速で安定的にやりとりできる通信技術です。IoTで収集したデータの送信やフィードバックに使われます。
5Gについて詳しくは、「5Gとは?定義やできること・課題などをわかりやすく紹介」をご覧ください。
- AI
AIは人工知能 (Artificial Intelligence) ともいいます。IoTで収集したデータを分析し、シミュレーションを行います。
AIとIoTについては、「AIとIoTを組み合わせると何ができる?活用方法とその注意点」をご覧ください。
- VRとAR
VR(Virtual Reality)は仮想現実、AR(Augmented Reality)は拡張現実ともいいます。どちらも仮想空間に現実性を加え、現実空間により近づける技術です。VRやARをデジタルツインに取り入れることで精度が上がり、フィードバックの正確性も上がります。
VRやARをはじめとする先進技術については、「DX実現に必要なテクノロジーとは?種類や活用事例を紹介」をご覧ください。
【事例】デジタルツインの応用
デジタルツインは、製品開発や製造現場、建設業界、自動車業界、航空業界などの、さまざまな分野で活用されています。そのなかから、製造現場での事例をいくつか紹介します。
ダイキン工業株式会社
ダイキン工業では、新しく設立した工場のデジタルツインを生産管理システム上に再現しています。
ライン上のセンサーやカメラから取得した制御データ、環境データなどをデジタルツイン上に反映し、製造過程をデジタルツインでモニタリングしています。それによって重大インシデントを発生前に予測し、生産ラインの停止を防ぐことが可能です。
上海儀電(INESA)
中国の上海儀電(集団)有限公司(INESA)では、日本の富士通株式会社が提供している「COLMINA」により、工場全体をデジタルツイン上に3Dで再現しています。再現しているのは生産ラインだけではなく、工場の建物まで含まれています。
それによって、生産ラインだけではなく、各機器の電力消費量や機器の状態もモニタリングでき、異常検知や対処が素早くできるようになりました。熟練工の監視と同等の効果を発揮しており、技術の継承にも役立っています。
株式会社日立製作所
日立製作所では、他社の生産現場にデジタルツインを導入するソリューション「IoTコンパス」を提供しています。人、設備、材料、方法のデータを収集し、デジタルツイン上で生産ラインの制御・運用、生産計画や在庫管理なども可能です。ほかの業務や工程とのデータ連携も可能で、より大規模なシミュレーションを行うこともできます。
なお、製造現場では、デジタルツインと並んでスマートファクトリーも注目されています。スマートファクトリーとは、デジタルテクノロジーやデータの活用によって稼働の効率化・最適化を実現する工場のことです。スマートファクトリーについて詳しくは、「スマートファクトリーとは?その概要や課題、成功事例を紹介」をご覧ください。
デジタルツインの活用とDX推進で新しい価値の創出を
デジタルツインは、製造現場をはじめとして、ものづくりや開発の現場に大きな変化をもたらしています。現実空間では実現が難しいシミュレーションも、デジタルツイン上なら可能です。何度も条件を変えてシミュレーションを繰り返すことも簡単にできます。それによって、より効率的に大胆な開発が可能になるでしょう。
また、デジタルツインの活用はDXの推進にも大きな効果があります。どちらも大量のデータを収集して利活用し、新しい価値を生み出すものだからです。 今後デジタルツインの活用がいっそう進み、新たな価値を生み出していくことが期待されます。