先ごろ、「DXレポート2.2(概要)」が公表されました。DXレポートは2018年の「DXレポート」、2020年の「DXレポート2」、2021年の「DXレポート2.1」と頻繁にバージョンアップされており、そのたびに注目されています。
一方で、度重なるバージョンアップにもかかわらず、日本企業においてはDXについて正しく理解されていないケースもみられ、取り組みが順調とは言えません。今回のDXレポート2.2は、現状を踏まえたうえで、今後、産業全体で変革を進めるための施策が盛り込まれています。
これまでのDXレポートの概要と、DXレポート2.2の内容について紹介します。
そもそもDXの定義やDXの進め方が分からないという方は以下のダウンロード資料もご覧ください。
経済産業省のレポート2の概要や実現までのプロセスを簡単にまとめております。
DX推進!どこから手を付ければよいのか?e-bookダウンロード
DXレポート2.2とは
2022年7月、経済産業省の諮問機関である「デジタル産業への変革に向けた研究会」から、「DXレポート2.2(概要)」が公表されました。DXレポート2.2では、これまでのDXレポートの内容を踏まえ、DXをさらに推進するため、デジタル産業の変革に向けた具体的な方向性やアクションを提示しています。
「DXレポート」はDXの周知と推進を目的に公表されており、下図のように、過去に3回更新されています。毎回、過去のDXレポート以降に把握した課題を盛り込み、DX推進の方向性を更新しています。
- DXレポート:2018年9月
- DXレポート2:2020年12月
- DXレポート2.1:2021年8月
- DXレポート2.2(概要):2022年7月
引用元:DXレポート2.2(概要)(PDF)|経済産業省 デジタル産業への変革に向けた研究会
DXレポート2.2公表の背景
DXレポート2.2(概要)は、日本のDX推進における現段階の課題を可視化して、解決につなげるために発表されたものです。
現在のDX推進における課題としては、主に次の3点が挙げられます。
- 過去3回のDXレポート公表後も、IT投資の目的の中心はまだ業務効率化にある
- DXへの取り組みを検討している企業は多いが、成果の出ている企業はまだ少ない
- DXで重要なのは、既存ビジネスの効率化ではなく新しい価値の創造の重要性であると理解しているが、具体的なアクションがわからない企業が多い
以上3点について、少し詳しくみていきましょう。
IT投資の目的の中心はまだ業務効率化にある
「2025年の崖」問題の克服は進んでいないといわれてきました。しかし、DX推進指標 による自己診断結果の提出状況をみると、DX推進の取り組みは着実に前進しており、先行企業の割合も増加しています。
その一方で、DX推進への取り組みは、効率化を中心としているという企業がまだ多いようです。
JUAS(一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)の「企業IT動向調査報告書2022」によると、IT予算配分のなかでは、Run the Business予算(既存ビジネスの維持・運営のための予算)の割合が80%近くを占めています。
多くの企業では、まだ効率化への取り組みが中心であることがわかります。
引用元:JUAS 企業IT動向調査報告書2022 ユーザー企業のIT投資・活用の最新動向(2021年度調査)(PDF)|JUAS
成果の出ている企業はまだ少ない
DXにおいて重要なのはバリューアップ(新しい価値やサービスの創造、企業の革新)であることを正しく理解している企業も、実は少なくありません。「企業IT動向調査報告書2022」には、DX推進の取り組み実施状況に関する調査結果があります。「お客様への新たな価値の創造」について、具体的に取り組んでいる、または取り組みを検討していると回答した企業の割合は約65%となっています。
ただし、そのうち「具体的に取り組んでおり成果が出ている」と回答した割合は10%未満でした。実際に成果が出ている企業は、まだ少ないのが現状のようです。
引用元:JUAS 企業IT動向調査報告書2022 ユーザー企業のIT投資・活用の最新動向(2021年度調査)(PDF)|JUAS
具体的なアクションがわからない企業が多い
DXレポート2.2(概要)では、DXが進まない原因のひとつとして、次のように分析しています。
「サービスの創造・革新(既存ビジネスの効率化ではない取組み)の必要性は理解しているものの、目指す姿やアクションを具体化できていないため、成果に至らず、バリューアップへの投資が増えていかないのではないか」
引用元:DXレポート2.2(概要)(PDF)|経済産業省 デジタル産業への変革に向けた研究会
また、DX推進の規範的企業への調査結果をもとに、以上のような課題を解決するために企業が目指すべき方向性を、「『新規デジタルビジネスの創出』や、既存ビジネスであっても『デジタル技術の導入による既存ビジネスの付加価値向上(個社の強みの明確化・再定義)』」であるとしています。
以上のように、DX推進により目指すべき方向性を企業に向けて再度強調したうえで、そのために求められる具体的なアクションを提示することが、DXレポート2.2の目的と考えられます。
これまでのDXレポートの概要
これまでに公表されているDXレポートの概要を紹介します。
- DXレポート
2018年9月に公表された「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」では、DXとそれを阻むレガシーシステム、また「2025年の崖」の問題などについて説明しています。
多くの企業がDXに目を向けるきっかけとなったレポートですが、「DX=レガシーシステムの刷新」という誤解も生まれました。
2025年の崖についての詳細は、「2025年の崖とは?意味と企業への影響、克服するためにすべきことを紹介」をご参照ください。
- DXレポート2
2020年12月に公表された「DXレポート2(中間とりまとめ)」です。
多くの企業でDXへの取り組みが不十分であること、DX=レガシーシステムの刷新といった誤解が広まっていること、コロナ禍で明らかになったDXの本質、ユーザー企業とベンダー企業の相互依存関係などに触れています。
また、DX推進を加速するためのアクションを「超短期的対応」「短期的対応」「中長期的対応」に分けて提示しています。
- DXレポート2.1
2021年8月に公表された「DX レポート 2.1(DXレポート2追補版)」は、DXレポート2を補足するものです。DXレポート2で明らかにされたユーザー企業とベンダー企業の相互依存関係の問題に触れ、目指すべきデジタル産業の姿・企業の姿などを提示しています。
- DXレポート2.2(概要)
2022年7月に公表された「DXレポート2.2(概要)」です。これまでのDXレポートでDX推進の重要性は浸透してきたものの、その取り組みは既存ビジネスの効率化が中心で、まだ成果は少ないなどの課題を明らかにしています。
この課題を解決するために、DX推進の規範的企業の調査結果を分析し、そこから目指すべき方向性やアクション、「デジタル産業宣言」などを提示しています。
DXレポート2.2の内容
前述のとおり、DXレポート2.2(概要)では、DX推進に成功している企業への調査結果を踏まえて、具体的な3つのアクションを提示しています。言い換えると、「DXレポート2.1」で示された「目指すべきデジタル産業の姿・企業の姿」へ向けた変革のアクションです。
- 「デジタルを、省力化・効率化ではなく、収益向上にこそ活用すべきであること」
DXで期待されるのは、コスト削減を目的として、既存ビジネスをITで効率化するといった微細な細工ではありません。デジタルテクノロジーを駆使し、これまでどこにもなかった新しいビジネスモデルを創出する。あるいは既存ビジネスであっても、単なる効率化ではなく、消費者を感動させるような未知の付加価値を与える。こうしたダイナミックな変革こそ、求められるアクションだと示唆しているのです。
- 「DX推進にあたって、経営者はビジョンや戦略だけではなく『行動指針』を示すこと」
DX推進は経営者や情報システム部門だけではなく、全従業員を巻き込まなければ実現できません。DXを推進するにあたって、DXとは何か、なぜ必要なのか、どういった戦略で進めていくのかなどを、まずは全従業員に周知する必要があります。ただし、それだけでは従業員はどのように動けばよいかわからず、結局はこれまでと同じ働き方に終わってしまうかもしれません。経営者は戦略だけでなく、具体的な行動指針も示すべきだとしています。
- 「個社単独でのDXは困難であるため、経営者自らの『価値観』を外部へ発信し、同じ価値観をもつ同志を集めて、互いに変革を推進する新たな関係を構築すること」
一企業だけでDX推進を成功させることは困難です。経営者は、DX に関する自らの価値観を外部に向けても発信し、仲間を増やし、互いのダイナミックな変革につながる新しい関係を構築することが大切だということです。DXレポート2.1で提起された、ユーザー企業とベンダー企業の相互依存関係の問題も、これで解決することを想定しています。
「」部分引用元:DXレポート2.2(概要)|経済産業省 デジタル産業への変革に向けた研究会
以上のアクションを実現するための施策として、「デジタル産業宣言」を策定しています。
デジタル産業宣言
「デジタル産業宣言」はDXレポート2.2(概要)の目玉ともいわれているもので、その狙いは大きく分けてふたつあります。
- デジタルで収益向上を達成できるような「行動指針」を全社へ浸透させること
- 経営者の「価値観」を外部へ発信させること
以下が、レポートで紹介しているデジタル産業宣言です。
引用元:DXレポート2.2(概要)(PDF)|経済産業省 デジタル産業への変革に向けた研究会
デジタル産業宣言は、宣言を策定した背景、目指す方向性、5つの行動指針、宣言者名から構成されています。
行動指針は、ビジョン駆動、価値重視、オープンマインド、継続的な挑戦、経営者中心の5つで、DX推進の規範的企業への調査結果を踏まえて集約されたものです。
レポートでは、この宣言を「経営者が『自らの宣言』として練り上げることを意図している」としています。ただし、「上記内容を踏まえて、自らの考えや信念を本枠に記載。また、宣言自体への加筆のみ可」ともあります。
「本枠」は、上記デジタル宣言の、「私たちはこの宣言を実践していくとともに、宣言の賛同者を増やすことを通じてあらゆる産業の『デジタル産業』への変革を加速させていく。」のあとに設定されています。そこに経営者自身の言葉で加筆し、宣言者名の部分を経営者自らの署名に置き換えて「自らの宣言」とすることが想定されているようです。
なお、DXレポート2.2では、デジタル産業宣言の実効性を向上させるため、デジタルガバナンス・コードとの連携の検討をしているとしています。デジタルガバナンス・コードとは、企業のDXに関する積極的な取り組みを促すために求められる経営者の対応を、経済産業省がとりまとめたものです。
2022年9月13日に改訂されたデジタルガバナンス・コード2.0には、実際にデジタル産業宣言とリンクする内容が盛り込まれています。例えば、「 ⾃社にとどまらず、社会や業界の課題解決に向けてDXを牽引しようとしている」「社員⼀⼈ひとりが、仕事のやり⽅や⾏動をどのように変えるべきかが分かるような、経営ビジョンの実現に向けたデジタル活⽤の⾏動指針を定め、公開している」などです。
DXレポートを理解し、DX推進のアクションを起こそう
これまでのDXレポートは、大づかみな方向性を示す部分が多く、具体的なアクションについてはあまり示されていませんでした。DXレポート2.2(概要)は、DXで重要なのは既存ビジネスの効率化ではなく、サービスの創造・革新により収益向上を目指すことであるといったことをあらためて強調しています。また、それを実現するために必要なアクションについても具体的に言及しています。
DX推進により新たな価値を創造し、収益向上を目指すことの重要性を理解しつつも、具体的にどうすればよいかわからなかった企業にとって、DXレポート2.2は、DX推進への良い羅針盤になるのではないでしょうか。
DXレポート2.2を参考に具体的なアクションをとり、DXを着実に進めていきましょう。