デジタル・ガバメントとは?行政サービスの変化と企業に与える影響

業務や行政手続きをデジタル化し、効率化して、国民の利便性を高めるための取り組みが「デジタル・ガバメント」です。それを実現するために政府は「デジタル・ガバメント実行計画」を策定し、各省庁でさまざまな取り組みを行っています。行政手続きのデジタル化が進むことは、企業活動にも大きな影響を与えます。企業側もその流れに対応していかなければなりません。

ここでは、デジタル・ガバメントの概要や各省庁の取り組み、デジタル・ガバメント実行計画、企業活動にもたらす影響などを紹介します。

デジタル・ガバメントとは

デジタル・ガバメントとは、行政にIT技術やシステムを導入して手続きをデジタル化することで、行政の業務効率化を進めるとともに、国民の利便性を高めるための取り組みです。

デジタル庁では、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を目指すとしています。

引用:デジタル社会の実現に向けた重点計画|デジタル庁

デジタル・ガバメントの目的

デジタル・ガバメントの具体的な目的は、単に情報システムを構築し、手続をオンライン化することではありません。一連の行政サービスがデジタル化することで、利用者が「すぐ使えて」、「簡単で」、「便利な」ものにし、Society 5.0時代にふさわしい行政サービスを国民一人一人が享受できるようにすることが掲げられています。

利用者の利便性向上のため既存の行政業務の手法を一から見直し、デジタル活用を前提とした次の時代の新たな社会基盤を作り、安心、安全かつ公平、公正で豊かな社会の実現を目指しています。

Society 5.0とは、「第5期科学技術基本計画」において日本が目指すべきとされた未来社会です。詳しくは、「SDGsとDXはどう関係する?「Society 5.0」とあわせて解説」をご覧ください。

参考:政府CIOポータル

デジタル社会が目指す6つの姿

デジタル庁は、政府が目指すデジタル社会を実現するため、次の6つの分野で施策を展開・推進していくとしています。

  1. デジタル化による成長戦略
  2. 医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化
  3. デジタル化による地域の活性化
  4. 誰一人取り残されないデジタル社会
  5. デジタル人材の育成・確保
  6. DFFT※の推進をはじめとする国際戦略

※DFFT:Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通

引用:デジタル社会の実現に向けた重点計画|デジタル庁

デジタル・ガバメントに向けた各省庁の取り組み

政府は、デジタル・ガバメントを推進するため、2017年に「デジタル・ガバメント推進方針」を発表しました。2018年には、その内容を具体化して実行するための「デジタル・ガバメント実行計画」を策定し、2020年に改定しています。

「デジタル・ガバメント実行計画」の内容は、このあとで詳しく紹介します。

ここでは、デジタル・ガバメント実行に向けた、各省庁の取り組みを紹介します。

デジタル庁

デジタル庁は2021年9月1日に発足しました。発足後、「デジタル・ガバメント実行計画」とその施策を担当しています。

デジタル庁は、デジタル社会の実現に向けて「デジタル社会推進標準ガイドライン」を策定し、デジタル化を実現するための「共通ルール」と位置づけています。このガイドラインは、必要に応じて何度か改定されています。

参考:デジタル社会推進標準ガイドライン|デジタル庁

また、よりいっそうデジタル・ガバメントを推進するため、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」も策定しています。これは各省庁の中長期計画の基本となっています。

参考:デジタル社会の実現に向けた重点計画|デジタル庁

財務省

2022年、デジタル庁の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づき、「デジタル社会の実現に向けた重点計画に基づく財務省中長期計画」を策定しています。

このあと紹介する「デジタル化3原則」にのっとり、業務のシステム化と業務改革や行政手続のデジタル化などの推進を行っています。

参考:財務省デジタル・ガバメント中長期計画|財務省

法務省

2022年、デジタル庁の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づき、「法務省デジタル・ガバメント中長期計画」を策定しています。

デジタル庁が整備する共通機能の活用の徹底を基本として、民事/刑事行政のデジタル化、司法試験および司法試験予備試験のデジタル化、マイナンバーカードの活用、さまざまな手続きのデジタル化を検討、推進中です。

参考:法務省デジタル・ガバメント中長期計画|法務省

総務省

総務省では、「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定し、都市部に比べて遅れている地方自治体のデジタル化を支援しています。

例えば、地方自治体のDX化の支援、個人情報の保護に関する支援、データ横展開に必要なAPI整備の推進、BCP策定の推進などです。

参考:総務省|地方行政のデジタル化

厚生労働省

2022年、デジタル庁の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づき、「厚生労働省における政府情報システムの整備及び管理に関する中長期計画」を策定しています。

内容は、厚生労働省がかかわるプロジェクトの一元管理、データマネジメントの推進、「厚生労働省情報セキュリティポリシー」に基づくサイバーセキュリティ対策、「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」に基づく見直しなどです。

参考:厚生労働省における政府情報システムの整備及び管理に関する中長期計画|厚生労働省

なお、厚生労働省は、民間企業のDX推進にかかわる助成金を給付するかたちで、デジタル化の支援も行っています。

DX推進にかかわる助成金については、「DX推進に利用できる補助金・助成金の種類と受給までの流れを紹介」をご覧ください。

デジタル・ガバメント実行計画

政府がデジタル・ガバメントを推進するため、2018年に策定したのが「デジタル・ガバメント実行計画」です。2020年の改訂で計画の対象期間は、2020年12月25日から2026年3月31日までと制定されました。

実行計画には「デジタル化3原則」と呼ばれる方針と、具体的な7つの取り組みが提示されています。これは、各省庁のデジタル化計画でも原則とされています。

参考:デジタル・ガバメント実行計画

デジタル化3原則(国の行政手続オンライン化の3原則)

  • デジタルファースト

個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結

  • ワンスオンリー

一度提出した情報は二度提出が不要

  • コネクテッド・ワンストップ

民間を含む複数の手続き・サービスをワンストップで実現

引用:デジタル社会の実現に向けた重点計画|デジタル庁

7つの取り組み

以下の取り組みは、2020年の改訂で追加されました。

  • サービスデザイン・業務改革(BPR)の徹底

「すぐ使えて」、「簡単」で、「便利」な行政サービス

  • 国・地方デジタル化指針

国・地方の情報システムの共通基盤となる「(仮称)Gov-Cloud」の仕組みの整備など

  • デジタル・ガバメント実現のための基盤の整備

政府全体で共通利用するシステム、基盤、機能等(デジタルインフラ)の整備など

  • 一元的なプロジェクト管理の強化等

予算要求前から執行までの各段階における一元的なプロジェクト管理を強化など

  • 行政手続のデジタル化、ワンストップサービス推進等

行政手続のオンライン化を推進など

  • デジタルデバイド対策・広報等の実施

デジタル活用支援員の仕組みを本格的に実施

  • 地方公共団体におけるデジタル・ガバメントの推進

自治体の業務システムの標準化・共通化を加速

参考:デジタル・ガバメント実行計画(2020年改定版)|デジタル庁

 デジタル・ガバメントが企業にもたらす影響

政府がデジタル・ガバメントを推進すると、企業にも大きな影響があります。行政のデジタル化に合わせて、企業もデジタル化・DXを推進する必要があるからです。

具体的には、次のような変化が考えられます。

行政手続きの効率化と簡素化

デジタル・ガバメントの推進により、行政手続き、ビジネスに関する手続きや届け出がインターネット経由でできるようになります。

これは企業に次のような影響をもたらすでしょう。

  • 申請書類の電子化、それに伴うペーパーレス化
  • 申請書類作成、発送などの手続き業務の効率化
  • 手続きに関する移動時間の削減

企業の負担が大きく軽減されることが期待できます。

データ利活用

政府が発表・生成するデータを利用しやすくなります。これにより、企業内でもデータの利活用が進むと予測されます。

その結果、データをもとにした(データドリブンな)商品開発やマーケティングが可能になります。また、企業活動の効率化や意思決定のスピード化などにもつながります。

データドリブンとは、データを有効活用して意思決定を行うことです。詳しくは、「データドリブンとは?活用するメリットや実行方法、事例などを紹介」をご覧ください。

新たなビジネスチャンス

デジタル・ガバメントが進めば、多くの公共データが開放され、国や自治体の情報が使いやすい状態になります。そこから新しいサービスや製品の開発も可能で、新たなビジネスチャンスが生まれます。公共機関との共同プロジェクトの機会もあるかもしれません。

通信ネットワークの整備

デジタルガバメントは政府が提供する行政ビッグデータの利活用を可能にします。行政ビッグデータの利活用により、官民双方のサービス設計を変革し新たな産業の創出にもつながることが期待されています。行政ビッグデータの活用には、膨大なIT技術とネットワークの利用が欠かせないため、ネットワークの整備が必要になります。場合によっては、現在利用しているIT基盤やネットワークを増強する必要性が出てくるでしょう。

セキュリティとコンプライアンスの強化

企業活動全体がデジタル化していき、IT技術やネットワークの利用がさらに増えていくと、セキュリティリスクの増大にもつながります。企業はいっそうセキュリティ対策を強化しなければなりません。

行政側から新たなデジタル規制や、コンプライアンス要件が導入される可能性もあります。

求める人材像の変化

IT技術やネットワークの利用が増えるため、これからはどの部署の社員にも基本的なデジタル技術に対応するスキルが求められるようになります。既存社員に新たな知識やスキルを身に付けさせるため、教育の場を設ける必要が出てきます。

業務上で必要となった新しい知識やスキルを学び直すことを、リスキリングといいます。詳しくは、「リスキリングとは?DX推進のための人材確保に不可欠な戦略」をご覧ください。

デジタル・ガバメントに対応するため企業もDX推進が必要

デジタル・ガバメントの推進により、国民や企業にかかわる部分までデジタル化されていきます。デジタル・ガバメントは行政のDXともいえるでしょう。DXを推進している行政に対応するためには、企業側もDXを進めていかなくてはなりません。 大がかりなDX推進が難しい場合は、まずはIT技術の導入から始めて業務効率化、業務改善を進めるとよいでしょう。手続きがデジタル化されるのに合わせて、企業側の作業もできる限りデジタル化・ペーパーレス化していくことが求められます。そこからDX推進を実現していけば、デジタル・ガバメントに対応できる環境が整うだけでなく、企業の競争力向上にもつながっていきます。