ダイナミック・ケイパビリティとは?変化に対応して生き残るための能力

DXに関連して「ダイナミック・ケイパビリティ」という言葉をよく聞くようになりました。ダイナミック・ケイパビリティとは、ビジネス環境が大きく変化するなかで、変化に柔軟に対応していく力のことです。ダイナミック・ケイパビリティが高ければ、既存の経営資源を有効活用しつつ、新しい技術や考え方も取り入れていけるはずです。これから企業が生き残っていくためには欠かせない能力のひとつといえるでしょう。

本記事では、ダイナミック・ケイパビリティの概要や3つの要素、そしてDXとの関係などを紹介します。

ダイナミック・ケイパビリティとは

ダイナミック・ケイパビリティ(Dynamic Capability、企業変革力)とは、企業が環境の変化に柔軟に対応していくための能力のことです。激化する市場や顧客ニーズの変化に対応し、企業が自らの経営資源を素早く再構築・再編成して変革していける力のことを指しています。

日本では、「2020年版ものづくり白書」で言及されたことがきっかけで、知られるようになりました。同白書では、ダイナミック・ケイパビリティを次のように定義しています。

「ダイナミック・ケイパビリティとは、環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力のことである。」

引用:第1部第1章第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化:2020年版ものづくり白書|経済産業省

また、同じく「2020年版ものづくり白書」で言及され、知られるようになった言葉に、オーディナリー・ケイパビリティ(Ordinary Capability、通常能力)があります。外部環境にあまり左右されず、企業の保有する既存の経営資源を効率的に活用し、既存事業の利益を拡大しようとする力のことで、ダイナミック・ケイパビリティの対となる言葉です。

組織内での準備や根回し、作業の割り振りに多くの時間を費やす大企業に比べて、組織が小さくスピーディーな動きを取りやすい中小企業の方が、ダイナミック・ケイパビリティは高い傾向にあると言われています。

一方で、保有する経営資源の多い大企業はオーディナリー・ケイパビリティが高くなる傾向があるとされています。

ダイナミック・ケイパビリティの3つの要素

ダイナミック・ケイパビリティには、3つの要素があります。これらの要素は、ダイナミック・ケイパビリティを実現する能力といってもよいでしょう。これらの能力が高くなることで、ダイナミック・ケイパビリティが向上します。

Sensing(感知)

ビジネス環境やその変化を観察・分析して、将来起こりうる脅威や機会を察知する能力です。ここでいうビジネス環境には、同業他社の動向や顧客のニーズ、産業構造の変化、社会情勢などが含まれます。

経営においてビジネス環境を適切に把握するためには、感知能力の向上が不可欠です。

Seizing(捕捉)

企業が現在保有する資源や知識を応用する能力です。「感知」で外部の変化を把握したあとで、その変化に合わせて柔軟に対応するためには不可欠な能力といえます。

Transforming(変容)

企業が優位性を保つために必要な変革ができる能力です。例えば、「感知」したビジネス環境の変化に合わせて「捕捉」し、企業の組織構造を柔軟に組み替えたり、ルールを変更したりして企業全体を変化させる能力を指します。

この変化は一過性のものではなく、迅速かつ継続的に行われることが前提です。

なぜ今、ダイナミック・ケイパビリティが必要なのか

現在は、ビジネス環境だけでなく、社会全体が不確実・不透明な時代です。

最近では、次のような大きな変化が見られます。そういった変化に対応して生き残っていくために、ダイナミック・ケイパビリティが必要になります。

コロナ禍

新型コロナウイルスの流行により、人々の生活様式や働き方などが大きく変化しました。それに伴い、消費者の生活やニーズも大きく、しかも急激に変化しています。そのなかで、ニーズの変化に迅速に対応できなければ、企業として生き残れない可能性もあります。また、コロナ禍は流行と鎮静化を繰り返しており、変化に終わりが見えません。

働き方の変化

働き方改革の推進やコロナ禍により、リモートワーク、テレワークが大きく普及しました。ほかにも、フレックスタイム制や時短勤務など、働き方の多様化が進んでいます。

働き方の変化に対応するには、デジタル化の推進やワークフロー、人事評価の見直しなど、組織やルールにも大きな変革が求められます。

技術の進化・革新

近年、デジタル技術は、AIやIoTなどのさまざまな方向で大きな進化・革新を遂げており、ビジネスにも生活にも多大な影響を与えています。業務をデジタル化する、テレワークを導入する、AIで新しいニーズを掘り起こすなどがその一例に挙げられるでしょう。

技術の進歩が速いため、一度デジタル技術をビジネスに取り入れても、すぐに陳腐化してしまうケースもあります。そのため、不断の改革や改善が必要です。

顧客ニーズの変化

コロナ禍や働き方の変化、技術の進化などで、顧客の生活やニーズに大きな変化が起きています。マスクやアルコール消毒などの感染対策が必須になり、非接触式の商品や非対面のサービスが増加しました。また、技術の進化により、これまでにないビジネスモデルも誕生しています。

今後もさまざまな変化に迅速に対応し、常に「消費者から求められる」製品・サービスを提供しなければ、企業は生き残れない時代に突入しています。

企業のグローバル化

多くの企業が海外に進出したり、外資系企業が日本に進出してきたりするなど、企業を取り巻く環境はグローバル化しています。インターネットがあれば、消費者が直接海外企業と取引をすることもできます。このような環境下では、日本企業も国際的な基準に対応し、競争を勝ち抜いていかなくてはなりません。

不確実性が高まる国際事情

アメリカと中国の対立や中国とロシアの拡大戦略など、政治・経済面でも、世界規模で不確実性が高まっています。いつまた、経済状況や国際状況に大きな変化があってもおかしくありません。

ダイナミック・ケイパビリティとDXとの関係

ダイナミック・ケイパビリティと「DX」は、切っても切り離せない関係にあります。

DXとは、デジタル技術やデータを活用したあらゆるものの変革のことですが、ダイナミック・ケイパビリティの3要素の向上に、デジタル技術が大きく貢献します。

デジタル技術を活用してデータを収集・分析することで、「感知」能力や「捕捉」能力は発揮されやすくなります。また、企業の組織体制や社内ルール、ワークフロー、ビジネスモデルなどの大胆な「変容」には、新しいデジタル技術が必要です。

ダイナミック・ケイパビリティを実現するためには、デジタル技術の活用が不可欠といえます。

一方DXは、「2025年の崖」を克服するために、企業に必要とされる取り組みでもあります。2025年の崖とは、レガシーシステムを使い続けた場合、新しい技術やデータの活用ができずに競争力が低下し、大きな経済損失が生まれるとされる問題です。

「2020年版ものづくり白書」では、レガシーシステムが大量のデータの利活用をしにくくする、システムの維持・運営費にリソースが割かれるなどの理由から、ダイナミック・ケイパビリティに悪影響を与えるといった趣旨にも触れています。

逆にいうと、DXを推進してダイナミック・ケイパビリティを向上させることが、2025年の崖の回避につながります。

DXについて詳しくは「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」を、2025年の崖については「2025年の崖とは?意味と企業への影響、克服するためにすべきことを紹介」をご覧ください。

これから企業が生き残っていくためにはダイナミック・ケイパビリティとDXが不可欠

先の見えにくい時代においては、企業は自社の持つ資産を有効活用しながら、環境の変化に柔軟に対応しなくてはなりません。そこで必要とされるのがダイナミック・ケイパビリティです。

ダイナミック・ケイパビリティには、「感知」「捕捉」「変容」の3つの要素があります。現状を正確に把握して脅威や危機を「感知」し、変化に合わせて既存の資産・知識・技術を「捕捉」する。そして、組織やワークフロー、ビジネスモデルなどあらゆるものを「変容」していく力が、ダイナミック・ケイパビリティです。

デジタル技術を利用して「変容」を行うことは、DXの実現そのものです。ダイナミック・ケイパビリティの向上にはDX推進が必要で、DXを加速するにはダイナミック・ケイパビリティの向上が欠かせません。

これからの時代に企業が生き残っていくためには、ダイナミック・ケイパビリティとDXはどちらも不可欠なのです。