デジタルガバナンス・コードとは?2.0の改訂内容も紹介

デジタルガバナンス・コードとは?2.0の改訂内容も紹介

2022年9月、策定から2年をへてデジタルガバナンス・コードが改訂されました。デジタルガバナンス・コードは、日本企業のDX推進を後押しするために、経済産業省が2020年11月にとりまとめたものです。初回の策定以降、DX推進を阻む数々の課題が指摘されました。改訂後の「デジタルガバナンス・コード2.0」は、それらの課題を踏まえ、よりDX推進の実現へとつながりやすい内容になっています。

本記事では、あらためてデジタルガバナンス・コードについて紹介するとともに、デジタルガバナンス・コード2.0の改訂内容について解説します。

デジタルガバナンス・コードとは?

デジタルガバナンス・コードとは、DX推進に向け、経営者に求められる対応を経済産業省がまとめたものです。

内閣府の第5期科学技術基本計画(2016年~2020年度)において、日本が目指すべき未来社会の姿として、初めて「Society5.0」が提唱されました。Society5.0について、内閣府では以下のように定義しています。

「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」

引用元:Society 5.0 – 科学技術政策 |内閣府

Society5.0は簡単にいうと、AIやIoTなどのデジタルテクノロジーを活用して、これまでにない利便性、これまでにない新しい価値が創出され続ける社会のことです。そのためには、当然DX推進が必要とされます。

しかし、世界と比べて日本では、DX推進への取り組みが遅れていると指摘されています。そこで、経済産業省が「企業のDXに関する自主的取組を促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応」をとりまとめ、2020年11月に公表したのが、「デジタルガバナンス・コード」です。

引用元:デジタルガバナンス・コード|経済産業省

このデジタルガバナンス・コードが、「DX推進ガイドライン」との統合も含めて改訂され、「デジタルガバナンス・コード2.0」として2022年9月に公表されました。まずはデジタルガバナンス・コードについて、あらためて確認しておきたい基礎知識を紹介します。

デジタルガバナンス・コードの基礎知識

なぜデジタルガバナンス・コードが、「経営者」を対象としているのでしょうか。デジタルガバナンス・コードの基礎知識として、企業価値向上に必要な「3つの要素」と、デジタルガバナンス・コードを構成する「4つの柱」について押さえておきましょう。

企業価値向上のために必要となる3つの要素

Society5.0の実現に向けて、すでにDX推進の成果を上げている企業がある一方で、新しいビジネスモデルに敗れて衰退していく企業も存在します。デジタルガバナンス・コードでは、このように変化が激しいなかで企業価値を向上させ続けるには、下記3つの要素が重要としています。

  1. ITシステムとビジネスを一体的に捉え、新たな価値創造に向けた戦略を描いていくこと
  2. ビジネスの持続性確保のため、ITシステムについて技術的負債となることを防ぎ、計画的なパフォーマンス向上を図っていくこと
  3. 必要な変革を行うため、IT部門、DX部門、事業部門、経営企画部門など組織横断的に取り組むこと

以上のように、DX推進には企業組織全体の改革や中長期的な投資が伴うため、デジタルガバナンス・コードの冒頭でも、「経営者の関与が不可欠」であることを強調しているのです。

「デジタルガバナンス・コード2.0」では、これらの3要素に下記が付け加えられました。

「デジタルの力を、効率化・省力化を目指したITによる既存ビジネスの改善にとどまらず、新たな収益につながる既存ビジネスの付加価値向上や新規デジタルビジネスの創出に振り向けること」

引用元: デジタルガバナンス・コード2.0(PDF)|経済産業省

2018年9月には「DXレポート」が発表され、現在までに3度のレポート更新が重ねられるなか、DX推進の重要性を理解し、取り組む企業も増えてきています。

その一方で、DXの目的が、既存業務の効率化や、既存ビジネスの改善といった認識にとどまっている企業や、DXの本質を新しい価値創出であると理解していても、予算配分が十分ではない企業が多いといった現状があります。

こうした現状を打破するため、デジタルガバナンス・コード2.0には、企業価値向上のために必要な要素として、上のひとつが付け加えられたと考えられます。

なお、DXレポートについては、「DXレポート2.2とは?その内容とこれまでのDXレポートとの違い」をご覧ください。

デジタルガバナンス・コード4つの柱

デジタルガバナンス・コードは、下図にもあるように、次の4つの柱で構成されています。

  1. ビジョン・ビジネスモデル
  2. 戦略(1.組織づくり・人材に関する方策、2.ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策)
  3. 成果と重要な成果指標
  4. ガバナンスシステム

4つの柱の個別の内容は、以下からご確認ください。

参照元: デジタルガバナンス・コード2.0(PDF)|経済産業省

また、4つの柱について、下記の3点が記載されており、それらに準ずることで、DX推進へとつながることが想定されています。

(1)基本的事項「柱となる考え方」「認定基準」

(2)「望ましい方向性」

(3)「取組例」

なお、(1)にある「認定基準」とは、「DX認定制度」の認定基準のことです。

DX認定制度について詳しくは、「DX認定制度とは?制度の概要や申請の流れ、認定基準を解説」をご参照ください。

デジタルガバナンス・コード2.0の改訂内容

デジタルガバナンス・コード2.0は、デジタルガバナンス・コードの内容を大きく変更するものではなく、新たなトピックを踏まえ、企業のさらなるDX促進に向けたかたちへと改訂されたものです。

経済産業省のWebサイトでは、改訂のポイントを以下の4つとしています。

  1. デジタル人材の育成・確保
  2. SX/GX
  3. 「DXレポート2.2」の議論の反映
  4. 「DX推進ガイドライン」との統合

参照元:「デジタルガバナンス・コード改定のポイント」|経済産業省

これらの4つのポイントについて、主な内容を企業への直接の影響がイメージしやすいかたちで解説します。

なお今回の改訂内容は、「DX銘柄」の選定基準となるDX調査の調査項目にも反映されています。詳しくは下記をご覧ください。

「DX銘柄2023」選定に向けたアンケートの調査項目を公表します|経済産業省

1.デジタル人材の育成・確保

以下2点について変更されています。

  • デジタル人材の育成・確保をDX認定の認定基準に追加

DX認定制度とは、国が策定した指針に沿って、DX推進に向け優良な取り組みを行う事業者を認定する制度で、事業者からの申請により認定します。認定された企業は、税制上の優遇やDX支援措置などが受けられます。また、DX推進に積極的な企業として認知され、企業価値や認知度の向上も期待できます。DX認定はDX銘柄への応募条件にもなっています。DX認定の認定基準はデジタルガバナンス・コードに盛り込まれており、デジタル・コードの改訂に伴い、今までの認定基準に加え、「人材の育成・確保」が追加されています。

  • 経営戦略と人材戦略を連動させた上でのデジタル人材の育成・確保の重要性を明記

前出のデジタルガバナンス・コードの4つの柱の「2.戦略(1.組織づくり・人材に関する方策)」において、「望ましい方向性」の末尾に「経営戦略と人材戦略を連動させた上で、デジタル人材の育成・確保に向けた取組が行われている」 と明記されています。

2. SX/GX

以下のように、DXとSX/GXとの関係性について明記されました。

「近年その重要性が指摘されているSX(※1)やGX(※2)については、これらをさらに効果的かつ迅速に推進していくために、DXと一体的に取り組んでいくことが望まれる」

引用元: デジタルガバナンス・コード2.0(PDF)|経済産業省

(※1)(※2)については、それぞれSXとGXについての補足説明がなされていますが、ここではSXとGX について、DXとの関係性からかみ砕いて紹介します。

SXとはサステナビリティトランスフォーメーションの略称です。以下を両立させる経営や対話のあり方を指します。

  • 企業のサステナビリティ(企業の稼ぐ力の持続性)
  • 社会のサステナビリティ(将来的な社会の姿や持続可能性)

競争の優位性を確立するという点でDXとSXは類似していますが、SXは「長期的」、DXはSXと比較すると「短期的」な概念で、時間軸が異なります。DXとSXの双方を組み合わせた経営方針の策定により、次のようにDXの価値を高める効果が期待できます。

  • DXによる価値を持続可能なものにする
  • DXをより社会貢献につなげやすいものにする

DXとSXの関係については、「いま注目されるSXとは?重要視される理由やDX・SDGsとの関係などを解説」もご参照ください。

一方、GXとはグリーントランスフォーメーションの略称です。温室効果ガス排出をなくすことを目的に、グリーンエネルギー・脱炭素ガスへと転換する、経済社会システム全体の変革を目指す戦略です。

GXの推進はデジタル技術の利用なくしては困難なことから、DXと密接に関係します。排気ガスを出さない電気自動車は、まさにDXによりGXを推進した例です。

3.「DXレポート2.2」の議論の反映

DXレポートとは、DXの推進を目的に経済産業省で研究会を設置し、そこでの議論をまとめたレポートです。これまで、2018年9月にDXレポート、2020年12月にDXレポート2、2021年8月にDXレポート2.1、そして2022年7月にDXレポート2.2(概要)が公表されています。

デジタルガバナンス・コード2.0には、2022年7月に公表された「DXレポート2.2(概要)」の下記の議論内容が反映されています。

  • 企業が稼ぐ力を強くするためにはデジタル活用が重要であることを指摘
  • 目指す経営ビジョン実現のため、企業の行動指針を策定する際にはデジタル技術活用の考慮が必要

DXレポート2.2については、「DXレポート2.2とは?その内容とこれまでのDXレポートとの違い」をご参照ください。

4.「DX推進ガイドライン」との統合

DX推進ガイドラインとは、DX推進のために、2018年12月に経済産業省が民間企業に向けて策定したガイドラインです。利用者の利便性を考慮した結果、デジタルガバナンス・コード2.0にDX推進ガイドラインが統合されました。

統合に伴い、これまでDX推進ガイドラインにひもづけられていた「DX推進指標」は、新たにデジタルガバナンス・コード2.0にひもづけられています。DX推進指標とは経済産業省が作成した指標で、自社のDX進行度の自己診断に利用できるツールのことです。

DX推進指標の利用の仕方は、「DX推進指標とは?KPIとしてDX推進に生かす方法」をご参照ください、

デジタルガバナンス・コード2.0を参考にDX推進を加速させよう!

DX推進に向けて参考になる指標やガイドラインは国から数多く提供されているものの、逆に多すぎて何をどう参考にすればよいかわからない人もいるかもしれません。

2020年11月に公表されたデジタルガバナンス・コードは、これまでの課題を踏まえて2022年9月に改訂され、よりDX推進実現につながりやすいものにブラッシュアップされました。

デジタルガバナンス・コードはDX認定制度やDX銘柄の認定基準のベースになっていますが、今回の改訂により「DX推進ガイドライン」と統合され、「DX推進指標」ともひもづけられました。

DX推進に取り組みたいが、何を見てどう進めればよいかわからないという場合は、まずは「デジタルガバナンス・コード2.0」を参考にすることをおすすめします。