現在、物流テックへの投資金額が急増しています。2013年〜2017年の投資金額の累計は約1兆円。物流業務という比較的古い体質の業界に対して、いかに最新のテクノロジーを導入するかが物流業界の課題です。
2018年10月、ユニクロを運営するファーストリテイリングは、東京の有明地区でハイテク倉庫の稼働を開始しました。自動化技術が導入され、商品の保管、ネットショッピングによる注文に応じたピッキング、梱包、配送などのプロセスを効率よく行うことができます。倉庫内で働いているのは荷下ろし専用ロボットばかりで、庫内で勤務している人間はほとんどいません。商品を倉庫に入れるスピードは80倍、出庫は19倍になったと公表されています。ピッキングをする人間を必要としないので、人員は90%の減少に成功しています。3年以内にこの自動化倉庫を世界中に建設する予定で、投資額は総額1,000億円規模になるそうです。
このような大規模投資が可能なのは一部の企業だけとはいえ、物流テックの波に影響を受けない企業はありません。今回は、これまで人力で行っていた物流業務を、ソフトウェアロボットで代替し自動化するRPAについてご紹介します。
物流業界のデジタル化は加速し続ける
物流業界のデジタル化はめざましく、将来的には大半の物流業務がロボットに代替され、自動化されるといわれています。例えば、運送車両の自動運転や全自動のピッキング装置などはわかりやすいイメージでしょう。運送作業だけではなく、パソコンを使ったデータ入力など、デスクワークもRPAの導入によってほとんどが代替されると予想されています。このように、輸送、事務処理、在庫・輸出入計画など、物流業務のあらゆるプロセスは自動化・機械化され、人間が介在することはほとんどなくなる可能性があります。「物流業務の自動化」は止めることのできない既定路線といえるでしょう。
さらに「物流情報のオープン化」も同時進行しています。倉庫の在庫状況、運送キャパシティー、出荷状況、運賃など、物流に関するあらゆる情報が誰でもアクセスできるような動きが進んでいます。オンラインのプラットフォームを利用すれば、誰でも物流ネットワークを活用できる状態です。自社で独自の物流ネットワークを構築する必要性はなくなるかもしれません。
完全自動化の物流ネットワークが完成するのは、まだ先かもしれませんが、現在、RPAなどのデジタル技術が物流業務で注目されています。
物流業界においてRPAで自動化できる業務
RPAは今まで人間がパソコンで行っていたデスクワークを、人間に代わって実行してくれるソフトウェアロボットです。作業手順がパターン化されている定型業務などを行うのに特に力を発揮します。例えば、Excelから欲しいデータだけを抽出してコピーする、データの数値を確認する、抽出したデータを基幹システムへ入力するなどです。このようなルーチン作業を人間が命令した通りに自動で行うことができます。
物流に関する業務は、納品書や送り状の発行など、ルーチン化されているものがほとんどです。これを人間が業務として行っている場合、売り上げが急増して発注数が増えると、作業時間が膨大化し、大きな業務負担となります。このような物流業務の課題はRPAが得意とする分野であり、問題解決にはRPAの導入が効果的です。
自動化できる業務として代表的なものを以下に挙げましょう。
- データ訂正
- 緊急発注入力
- 納品書
- 一括納入明細書
- ピッキングリスト発行
- 受注業務
- 調達・購買業務の効率化
- FAX受注の効率化
RPAには費用対効果がわかりやすいという特長があります。人間が行っていた業務をロボットで代替するので、業務の作業時間がわかればすぐに費用対効果を計算することができるからです。従来のソフトウェアに比べて開発コストが安いため、上司や経営陣を数字で説得しやすく、導入ハードルは低いといえます。
物流業界や物流業務におけるRPAの事例
物流業務はRPAが力を存分に発揮できる得意分野です。ここでは具体的な業務改善の事例をもとに、物流業界や物流業務におけるRPAの有効性や導入ポイントを見ていきましょう。
在庫情報共有の自動化
ある食品加工会社では、11の外部倉庫との契約があるにもかかわらず、棚卸し情報のフォーマットが倉庫ごとに異なっていました。売り上げが拡大するにつれ、11の棚卸し情報を集計して基幹システムに入力する業務の負担が大きいという問題が発生しました。担当者が変わる際の引き継ぎが煩雑で、作業ミスが発生しやすい状態です。
この課題に対して、RPAを導入することで作業効率を上げ業務改善することに成功しました。11種類のフォーマットをRPAで自動的に統一フォーマットに変換することは可能ですが、その場合コストが多くかかります。そこで開発コストを抑えるために、これまでの業務を洗い出して整理し、フォーマットを3種類まで減らしてからデータ変換をするRPAを導入しました。RPAを活用してすべての業務を自動化するのではなく、費用対効果を考えながら自動化する部分を絞ることがポイントです。
出荷問い合わせ対応事務作業の自動化 その1
業務用の電気製品を扱うメーカーでは、複数の運送会社を利用していたため、送り状の発行システムが煩雑化していました。そのため、オペレーションが複雑で業務自体に大きな負荷がかかっていました。
そこで、RPAを導入することで、業務改善と顧客満足度を向上させるサービスを同時に実現しました。まずは複数あった送り状の発行システムを統合し、その際に、自社で問い合わせ番号を割り当て、出荷情報を顧客にメールで自動連絡するシステムを構築しました。その結果、商品の出荷に関する問い合わせは激減し、業務負担を軽減することに成功しました。顧客としても出荷情報が自動的に送られてくるので、利便性が向上しました。さらに、修理品の注文など、その都度手書きをしていた送り状はエントリー発行機能を利用することで、手書き作業が不要になりました。
出荷問い合わせ対応事務作業の自動化 その2
顧客からの出荷情報の問い合わせは、業務負担になりがちで、対応の仕方を誤ればサービスの信頼低下につながります。この問題には、納品書と送り状の番号を紐付け、運送会社から配送状況を取得することで、自社で発注に関するデータを一元管理することが有効です。
運送会社が行っている荷物の追跡サービスから情報を自動収集。運送会社の問い合わせ番号を入力する作業はRPAで自動化されますので、人間が手作業で行う必要はありません。RPAが自社のデータベースに配送状況を入力し、納品書と送り状番号とともに管理するので、顧客からの問い合わせに瞬時に対応することができます。問い合わせに対する回答遅延等の問題はなくなり、担当者の業務負担も軽減されます。
RPAで物流業務改革を!
アマゾンが物流業界に対して大きな影響力を持つようになり、物流技術の強化は多くの企業にとって課題となっています。ネットショッピングが当たり前になり、配送に関する顧客サービスの競争は激化しています。荷物量の増加、配送サービスの多様化、ドライバーをはじめとする人材不足、これらの問題をRPAなどのデジタル技術を利用していかに解決するかが喫緊の課題です。RPAによる物流の業務改善を検討してみましょう。
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