DXの推進にはITツールの導入を伴うこともあり、それなりにコストがかかります。中小企業のなかには、コストが課題となり思うようにDXを推進できないところもあるかもしれません。実は、中小規模のDX推進のための補助金や助成金の制度が用意されています。この制度を利用すれば、よりDXを推進しやすくなるでしょう。
ここでは、DX推進にかかる費用や、DX推進に利用できる補助金や助成金の概要、種類などを紹介します。
DX推進にはどのような費用がかかるのか
企業の規模や業種、DX推進の範囲や内容によって、かかる費用の項目や金額は異なります。ここでは、一般的な例を紹介します。
DXがどのようなものか、あらためて確認したい方は、「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」をご覧ください。
費用がかかる項目
多くのケースで、次のような費用が必要になります。
- 社内体制の構築
新規プロジェクトの立ち上げ・運用にかかる費用
ITコンサルタントなどの専門家を招へいするのにかかる費用
- 企画開発、宣伝広告
DXに関する研究や市場調査にかかる費用
展示会出展、セミナー開催などにかかる費用
- ITツールの導入費用
ツールの開発・導入にかかる費用
ツール導入により変化する施設や工場のハードウェア導入・修理などにかかる費用
- 人材にかかる費用
IT人材の教育や採用にかかる費用
費用の相場
企業全体に影響する新規システム構築やビジネス開発では、数百万円から数千万円の費用が必要になることもあります。新しい商品やサービスの開発、新事業の展開に必要なシステムの開発などには、数千万円かかる場合も珍しくないでしょう。
しかし、内容によっては、クラウドサービスを利用すれば月額数千円から数万円で収まることもあります。例えば、一部の業務をデジタル化する、業務プロセスの見直しとデジタル化に着手するなどの取り組みです。
DXは大きな予算がなくても小さな規模で、いわゆるスモールスタートで始めることもできます。一部署や一業務など、社内の一部の部門からデジタル化やプロセスの見直しなどに着手することを、社内DXといいます。
社内DXについて詳しくは、「社内DXとは?推進が必要な理由や成功させるポイントを紹介」をご覧ください。
DX推進には補助金・助成金を使うことができる
DXにかかる費用を捻出しにくいという企業でも、補助金や助成金を活用することで、ある程度の予算を確保できます。
補助金と助成金の共通点と相違点
補助金と助成金は、いずれも事業者に対して国や自治体が金銭的支援を行う制度という点は共通していますが、それぞれ異なる性質や条件があります。
共通点は次のとおりです。
- 受給するためには申請が必要
決められた申請期間内に申請が必要です。
- 返済の必要がない
国や自治体から支給されるお金であり、基本的に返済の必要がありません。
- 後払い
一方で、次のような違いがあります。
- 管轄
補助金は主に経済産業省や自治体が管轄し、事業拡大・研究開発などを支援するために支給されます。助成金は主に厚生労働省が管轄し、雇用の安定や職場の環境改善などの目的で支給されます。
- 財源
補助金の主な財源には国家予算が使われ、助成金の主な財源には雇用保険料が使われています。
- 受給の難易度
補助金は国や地方自治体の予算で賄われ、予算上の制約があります。支給目的や採択件数が決まっているため、審査は厳しく高倍率になりがちです。一方、助成金は予算の制約がなく、給付条件を満たせば、基本的に受給できます。
補助金や助成金を利用するメリット
補助金や助成金の制度を活用することで、次のようなメリットを得られます。
- DX推進という目的のため、返還の必要がない資金を獲得できる
- 手続きの工程でDX推進や事業の内容について国や自治体の審査を受け、一定の評価が得られたという事実を得られる
- 国や自治体の評価を得られたことで、金融機関からも融資を受けやすくなる
DX推進に利用できる補助金や助成金
DX推進に利用できる補助金や助成金の主な制度を紹介します。
ものづくり補助金
正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」といいます。中小企業や小規模事業者が制度変更に対応して、業務改善を行うための設備投資を支援するための補助金です。
通常枠、回復型賃上げ・雇用拡大枠、デジタル枠、グリーン枠、グローバル市場開拓枠と、利用目的ごとに申請枠が分かれています。
上記の申請枠のうち、DX推進に関係するのは「デジタル枠」で、2022年に新設されました。
「DXに資する革新的な製品・サービス開発又は生産プロセス・ サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システ ム投資等を支援」するもので、補助上限額は750万円~1,250万円、補助率は2/3以内です。
引用元:ものづくり・商業・サービス補助金 公募要領 概要版(PDF) | 全国中小企業団体中央会
申請要件は下記のとおりです。
1. 「①DXに資する革新的な製品・サービスの開発」「②デジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善」のいずれかに該当すること。
2. 経済産業省が公開するDX推進指標を活用し、自己診断結果を応募締切日までに独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に対して提出していること。
3. 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」の「★ 一つ星」または「★★ 二つ星」いずれかの宣言を応募申請時点で行っていること。
引用元:ものづくり補助金 公募要領
申請にはGビズID(gBizID)が必要です。
詳細は公式サイトでご確認ください。
引用元:ものづくり補助金総合サイト
IT導入補助金
ITツールを導入する中小企業・小規模事業者に対する補助金です。自社の課題やニーズに合わせて導入するツールで、ソフトウェアだけでなくハードウェアも含まれます。幅広い業種・業態の中小企業・小規模企業が対象です。
申請枠は目的に合わせていくつかに分かれています。
- 通常枠(A・B類型)
自社の課題やニーズに合ったITツールを導入し、業務効率化・売上向上を支援
補助額は、A類型(補助率1/2以内)で5万円以上150万円未満、
B類型(補助率1/2以内)で150万円以上450万円以下
- セキュリティ対策推進枠
高まるサイバー攻撃事案の潜在リスクを踏まえ、サイバーインシデントが引き起こすさまざまなリスク低減を支援
補助額はサービス利用料の1/2以内で5万円以上100万円以下
- デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)
会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトに特化し労働生産性の向上を支援
補助額は導入するツールの種類により異なる
- デジタル化基盤導入枠(商流一括インボイス対応類型)
インボイス制度に対応した受発注システムが対象、大企業でも導入可能
補助額は350万円以下
ほかにも、複数の企業が連携してIT導入を行うときに申請する「複数社連携IT導入類型」もあります。
申請には、前出の「SECURITY ACTION」の一つ星または二つ星いずれかの宣言を行っていること、GビズIDを取得していることなどが必要です。詳細は公式サイトをご確認ください。
事業再構築補助金
コロナ後の社会や経済状況の変化に対応するため、事業再構築を行う中小企業・中堅企業に対する補助金です。申請には事前にGビズIDを取得し、事業計画を策定する必要があるなど、さまざまな条件があります。
申請枠には、目的に合わせて成長枠、グリーン成長枠、卒業促進枠、大規模賃金引上促進枠、産業構造転換枠、サプライチェーン強靱化枠、最低賃金枠、物価高騰対策・回復再生応援枠の8つがあります。DX推進でよく使われるのは成長枠や産業構造転換枠です。
補助金額は、申請枠や企業規模により異なります。成長枠の場合は次のようになります。
<例:成長枠の補助金額>
【従業員数20人以下】100万円~2,000万円
【従業員数21~50人】100万円~4,000万円
【従業員数51~100人】100万円~5,000万円
【従業員数101人以上】100万円~7,000万円
参考:事業再構築補助金 公募要領 (第11回)(PDF)|事業再構築補助金事務局
詳細は公式サイトをご覧ください。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者がさまざまな制度変更に対応し、事業を持続させるための補助金です。
規定の要件を満たした事業が補助対象となります。要件の一部は以下のとおりです。
- 策定した「経営計画」に基づいて実施する、販路開拓等のための取組であること。あるいは、販路開拓等の取組とあわせて行う業務効率化(生産性向上)のための取組であること。
- 商工会・商工会議所の支援を受けながら取り組む事業であること
そのほかの要件については、公募要領をご確認ください。
申請枠には、通常枠、賃金引上げ枠、卒業枠、後継者支援枠、創業枠の5つがあります。
補助上限は通常枠で50万円、そのほかの申請枠は200万円で、補助率はいずれも2/3です。インボイス特例対象事業者は、上記金額に50 万円の上乗せがあります。
参考:小規模事業者持続化補助金<一般型> 第 13 回公募 公募要領(PDF)|全国商工会連合会
公式サイトは2つあるので、自社の該当地域の公式サイトをよく確認してください。
キャリアアップ助成金
厚生労働省の助成金で、非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、事業主に対して助成する制度です。DX人材の育成に利用できます。
申請枠には、「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2種類があります。
支給額は、申請枠やコース、企業規模により異なります。以下の2例は、いずれも中小企業の場合です。
- 正社員化支援枠、正社員化コース
有期雇用労働者等を正社員化する際に助成を受けられます。
1人あたりの支給額は、有期→正規:57万円、無期→正規:28.5万円です。
- 処遇改善支援枠、賃金規定等改定コース
有期雇用労働者等の基本給を定める賃金規定を3%以上増額改定する場合に助成を受けられます。
1人あたりの支給額は、3%以上5%未満:5万円、5%以上:6.5万円です。
ほかにも、さまざまなコースがあります。詳細は公式サイトでご確認ください。
人材開発支援助成金
同じく、厚生労働省が助成する人材開発支援助成金も注目です。中でも中小企業の持続的発展のため、事業展開に伴う人材育成や、業務効率化のためのデジタル化・DX化に対する人材教育、グリーン化対応した教育について助成金制度を創設しています。
社内でリスキリングを推進するにあたり、政府の助成金活用も視野に入れるとよいでしょう。
以下のセミナーでは、厚生労働省が中小企業の持続的発展のために創設した「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」の紹介と、
この助成金が活用でき、業務効率化もスキルアップもかなう「RPAのリスキリングメニュー」について紹介しています。
オンラインセミナーはこちら>【5年で1兆円】政府が投資するリスキリング助成金 活用セミナー
また、東京都のサイバーセキュリティ対策促進助成金のように、自治体が独自で取り組む助成金・補助金もあります。所轄の自治体の公式サイトなどを確認してみましょう。
補助金や助成金の申請から受給までの流れと注意点
DX推進に利用できる補助金や助成金を申請し、受給するまでの一般的な流れと注意点を紹介します。
申請から受給までの流れ
申請・受給は次のような流れで行われます。
- 補助金・助成金の公募要領を調査
補助金や助成金の受給を考える企業が公募要領を調査し、自社に合った補助金や助成金を選びます。補助金や助成金の公式サイトをよく確認しましょう。
- 事業計画書などの書類準備
補助金や助成金の申請には、事業計画書やDX推進の進捗状況などの、さまざまな書類が必要です。デジタル庁の公式サイトから、法人・個人事業主向けの共通認証アカウントであるGビズIDを取得する必要がある場合も多いです。
- 申請手続き
必要な書類がそろったら、申請手続きを行います。
- 審査
それぞれの補助金や助成金を給付している省庁・自治体・事務局などにより、審査が行われます。
- 交付申請・支払申請
採択されたら、企業から交付申請を行います。
- 事業開始
企業が事業計画書に従ってDXを推進します。
- 実績報告書を提出
事業計画書にある事業が一定程度進捗したら、実績報告書を提出します。
- 確定検査
省庁・自治体・事務局などにより、実績報告書の審査が行われます。
- 支給額の確定、振り込み
実績報告書の審査が完了したら、認定された支給額が振り込まれます。
補助金や助成金の種類によっては、事業進行中に中間検査があります。
注意点
補助金や助成金の申請・受給では、次のような点に注意が必要です。
- 補助金・助成金は原則として後払いになる
- 審査が必要。特に補助金は予算の上限があるため審査が厳しく、申請しても必ずしも受給できるとは限らない。
- 申請期間は短いので、期日をきちんと確認する
- 申請時に必要な書類が多いので、準備に人手やコストがかかる可能性がある
中小企業こそ、補助金や助成金を活用してDXを推進しよう
DX推進を対象とした補助金や助成金をうまく利用することで、中小企業・中堅企業でもDXを推進していくことが期待できます。
補助金や助成金の申請には、事業計画書の作成や、DX推進についての評価が必要な場合も多いです。自社のDX推進がどの程度進んでいるのか、計画は適正なのかをあらためて検証する機会にもなるでしょう。 なお、税制面からのDX支援もあります。詳しくは、「DX投資促進税制とは?国がDX推進を後押しする減税措置」をご覧ください。