「ビジネスエコシステム」という言葉がよく聞かれるようになりました。ビジネスエコシステムと言う言葉をあえて使わなくても、業界全体や他企業とのコラボレーションが行われることも多くなっています。これからもビジネスエコシステムを利用する動きは増えていくでしょう。また、ビジネスエコシステムはDX(デジタルトランスフォーメーション)とも大きな関係があります。
ここでは、ビジネスエコシステムとは何か、どうやって形成するのか、どのようなメリットがあるのか、そして、DXとの関係などを紹介します。
ビジネスエコシステムとは
エコシステムとは、もともと「生態系」を指します。生態系とは、生物がお互いに密接に関わりながら生きていくことです。
ビジネスエコシステムとは、ビジネス上の生態系。つまり、業種・業界を越えて複数の企業や団体が連携し、それぞれの強みを生かしながら新しい事業を展開し、共存共栄していく仕組みのことです。
よく知られるところでは、シリコンバレーです。街全体がIT産業をベースにしたビジネスエコシステムを形成しています。
総務省では、次のように定義しています。
「ビジネスエコシステムとは、まさにビジネスの「生態系」であり、企業や顧客をはじめとする多数の要素が集結し、分業と協業による共存共栄の関係を指す。そして、ある要素が直接他の要素の影響を受けるだけではなく、他の要素の間の相互作用からも影響を受ける。企業や組織は、何らかのあるいは複数のビジネスエコシステムにおいて存在している」
引用元:平成30年版 情報通信白書|ビジネスエコシステムの変化|総務省
ビジネスエコシステムが重視されている背景
現在ビジネスエコシステムが重視されているのには、次のような背景があります。
- ビジネス環境の大きく急激な変化
経済のグローバル化、IT技術の進歩、環境問題の重視など、ビジネスを取り巻く環境はさまざまな方面で大きく変化しています。それらの変化に対応し、企業が成長していくためには、提供する商品やサービスも従来とは変化していかなくてはなりません。
- 自社だけでは変革は難しい
ビジネス環境の変化に対応して企業が生き残るには、スピーディー、かつ柔軟に企業全体を変革し、消費者の求める新しい商品やサービスを提供しなくてはなりません。しかし、それには自社の技術やノウハウだけでは不十分な場合も少なくありません
以上のような背景から、相互依存関係にある複数の企業でノウハウを持ち寄り、互いの強みを生かして共存関係を構築していくことが重視されています。
DXとビジネスエコシステム
DXとビジネスエコシステムには、深い関係があります。
DXは、単なる業務のデジタル化ではありません。ビジネス環境の変化に対応するため、デジタル技術を利用して企業全体を変革し、新しい価値を顧客に提供していくことです。
また、ビジネスエコシステムでは複数の企業が協力し、ビジネス環境の変化に対応して新しい価値を提供していきます。現在ビジネスエコシステムを構築するには、IT技術の利用が欠かせません。
つまり、IT技術を利用してビジネスエコシステムを構築することは、そのまま複数の企業が協力して行うDXであるとも言えます。
DXについて詳しくは、次の記事をご参照ください。
【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで
ビジネスエコシステムのメリット
ビジネスエコシステムの構築は、それぞれの参加企業にも、また、業界全体にもメリットがあります。
自社へのメリット
それぞれの参加企業には、次のようなメリットがあります。
- 企業・商品・サービスの認知度向上
他社、それも業種や業界の異なる企業との連携により、他社の顧客や、これまでの自社の顧客とは異なる層へもアピールできます。それによって幅広い層へ、自社および商品やサービスの認知度を向上させることが可能です。
- これまで以上に顧客や取引先を呼び込みやすくなる
認知度が向上すること、また、複数の企業の資金や人材を活用することで、自社だけで動くよりも大きな規模でのビジネスや販促活動ができます。それによって、これまでよりも多くの顧客を呼び込むことが可能です。
- 新しいビジネスの創出につながる
他社のノウハウやアイデアを取り入れることで、自社だけではできない、新しいビジネスを創出できます。今まで自社だけでは対応できなかったアイデアを、実現することも可能です。
- ビジネス環境への変化対応力が上がる
他社のノウハウやアイデア、人材を活用することで、新商品を開発するまでの期間を大幅に短縮できます。ビジネス全体がスピードアップすることで、成果も早く出すことが可能です。
業界全体へのメリット
参加企業が属する業界には、次のようなメリットがあります。
- 新しい市場を創出できる
企業が新しい商品やサービスを創出するということは、その業界にとっても新しいマーケットを創出することにつながります。ビジネス環境の変化に対応し、顧客のニーズに合わせた新しいマーケットを創出することで、業界全体の活性化につながるでしょう。
- 業界全体のDXが促進される
ITを利用したビジネスエコシステムは、そのままDXであるとも言えます。ビジネスエコシステムを構築する企業が増えれば、業界全体のDX推進にもつながります。
現代のビジネスエコシステム形成の起点となる3つの要素
総務省では、ビジネスエコシステムの変化の起点となる要素として、次の3つを挙げています。
- オープン化の進展
IT技術の発展により、オープン化や企業間連携の形態にも幅が広がっています。代表的なものがAPI(Application Programming Interface)で、アプリケーション間でデータをやり取りするインターフェースです。APIを利用することで、データ連携がしやすくなりアプリケーションの開発を容易にします。
- 多様なプレーヤーの参加
ビジネスエコシステムには、既存の業種や業界を越えた、複数の企業や団体の連携が求められます。多様な企業が集まることで、認知度向上、新しいノウハウやアイデアの共有など、ビジネスエコシステムの強みを生かすことができます。最近は企業だけでなく、ステークホルダーの参加も当たり前になっています。
- 交換する価値形態の多様化
ビジネスエコシステムで交換する「価値」は商品だけではありません。「データ」「モノ」「処理」など、さまざまな形態で価値が交換されつつあります。
参考:平成30年版 情報通信白書|ビジネスエコシステムの変化|総務省
ビジネスエコシステムの事例
代表的なビジネスエコシステムの事例を紹介します。
Apple
Appleは、パソコンやスマートフォンなどのハードウェアとOSを自社で作成しています。そこで、次のような幅広い企業とビジネスエコシステムを形成しています。
- パソコンやスマートフォンの部品や原材料を供給・組み立てをするサプライチェーン
- Apple製品で使用するイヤホン、ペンなどのハードウェアを製造する企業
- アプリケーションを提供する企業
- 音楽、動画などのコンテンツを提供する企業
ポイントは、ハードウェアやOSからユーザーの囲い込みに成功していることです。それによって、参加する企業も利益を確保できます。
Amazon
Amazonは、もともとはオンライン書店でしたが、現在はさまざまなアイテムを取り扱う総合ショッピングモールとなっています。そこで、次のような企業とビジネスエコシステムを形成しています。
- Amazonで販売する本、衣類、雑貨などさまざまな商品を提供する企業
- 商品を配送する物流会社
- AlexaやKindleなどAmazon独自のハードウェアを製造する企業
- 音楽や動画などのコンテンツを提供している企業
- Amazon Payを利用して決済を行うECモール
これらの企業によるビジネスエコシステムがAmazonを強くし、そこからさらにビジネスエコシステムに参加する企業が増え続けています。
Microsoft
Microsoftは、もともとWindows OSやMicrosoft Officeなどのソフトウェアを提供していました。そこから業務用のシステムやビジネス関連のソフトウェア、サービス、クラウドサービスなどを提供するようになっています。
Microsoftが新しいソフトウェアやサービスを提供する場合は、既存の商品を持つパートナー企業との連携・買収という手段を取ることが多く、それらの企業がビジネスエコシステムとなっています。
また、最近はソフトウェアだけでなく、タブレットやパソコンなどのハードウェアも提供したり、自動車産業とも連携したりしています。
トヨタ自動車
トヨタでは、もともと自社に部品を提供する子会社・孫会社などでサプライチェーンを構築し、共存関係を構築してきました。
最近は自動車産業を取り巻く環境も大きく変化し、電気自動車、自動運転、空飛ぶクルマなど、これまでにはなかった新しい商品やサービスも話題になっています。
そこで、従来のサプライチェーンに加え、これらの新しい商品やサービスに関連するさまざまな企業とのビジネスエコシステムを形成しつつあります。
DXの起爆剤としてビジネスエコシステム導入を検討しよう
自社だけでDXを進めても、そのスピードや効果には限界があります。自社の持つノウハウだけで提供できる商品やサービスでは不十分だったり、新しい価値を提供しているつもりでも市場ニーズの変化に追いついていなかったりするかもしれません。
理想的なビジネスエコシステムを構築することで、それらの弱点を補い、より効果的・効率的に変革を進めていくことが可能になります。 経営戦略の1つとして、また、DX推進を加速させる手段として、ビジネスエコシステムの意義を理解し、取り入れることを検討するべきときが来ているのかもしれません。