卸売業が抱える3つの業務課題とは?解決方法やRPAの活用例を解説
卸売業の市場規模は縮小傾向にあり、企業には限られた市場の中で自社の売上を確保するための努力が求められています。さらに労働生産人口の減少による人手不足の進行や物流業務・受注業務の煩雑化も深刻な課題です。
これらの課題を解決するためには、業務フローの見直しに加えて、Web-EDIやRPAなどのIT活用が効果的です。本記事では卸売業が抱える課題や解決のための4つのアイディア、RPAの活用事例を紹介します。
卸売業においては、市場規模の縮小やEC普及によるIT対応の必須化、物流業務や受注業務の複雑化など、多くの課題を抱えています。これらの課題を一つひとつ解決していかなければ、売上の減少によって経営が難しくなったり、従業員の負担が重くなり続けて従業員満足度が低下したりとさまざまな困難に直面する可能性があります。
課題解決のアイディアを考える前に、まずは卸売業が抱える課題を押さえておきましょう。
全産業に占める割合が低下
かつての卸売業に比べると、日本の全産業に占める割合が低下しており、一部の分野では市場規模が縮小していることから売上を上げにくい環境に置かれているという課題があります。
帝国データバンクが公開している『「平成」産業構造変遷調査』によると、平成元年(1989年)には日本全体の売上における36.3%もの割合を卸売業が占めていましたが、平成30年(2018年)には24.1%にまで縮小しています。
また、売上高も1989年には約502兆4,720億円でしたが、2019年には約314兆9,280億円と4割近くも減少も減少しており、卸売業を営む企業にとっては縮小しつつある市場の中で利益を確保しなければならない難しい状況に直面しているといえるでしょう。
ECの普及によりITへの対応が必須化
近年ではECが普及し、消費者はインターネットを利用して気軽に買い物を楽しむようになりました。そのため卸売業も従来のように電話やFAXによる注文だけでなく、ECサイトからの注文に対応して受注機会を増やそうとする企業は少なくありません。
また、商品の仕入れを行う小売業がWeb-EDIを活用する例も増え、卸売業もWeb-EDIへの対応を迫られるケースが見られるようになっており、これまでのようにアナログな運営だけでは販売機会を失うおそれも懸念されます。
このようにさまざまな場面でITへの対応が求められるようになってきていることは、卸売業にとって重要な課題のひとつです。
物流業務や受注業務の複雑化
近年では顧客のニーズが多様化しており、多種多様なニーズに応えるために物流業務や受注業務が煩雑化しています。
物流業務や受注業務が煩雑化していても、顧客からの信頼を確保するためにはサービス品質の維持が必要不可欠です。サービス品質を担保したうえであらゆる顧客ニーズに対応し、多くの競合他社の中から「選ぶ価値のあるブランド」であることを証明しなければ、リピーターの獲得が難しく売上は思うように上がらない可能性が高いためです。
しかし、煩雑化した業務に対応しつつサービス品質を担保するためには多くの人手と時間がかかり、対応にかかるコストが増加したり従業員の負担が重くなったりする懸念があります。
人手不足の深刻化
少子高齢化による人手不足は深刻化しており、特に小売業や製造業、卸売業などは他業種に比べても欠員率が高いといわれています。
前述のように近年の顧客ニーズは多様化していますが、人手不足が進むとさまざまなニーズに柔軟に対応することは難しくなり、さらに深刻化すれば品質の担保さえ難しくなる可能性もあります。現状では今後も労働生産人口が増加する見込みは薄いため、人手不足への対策を急がなければならない状況です。
卸売業のさまざまな課題を紹介してきましたが、これらの課題を解決するためにはいくつかのアイディアがあります。
業務フローを見直して効率化をはかったり、Web-EDIの活用やRPAの導入を検討したりすることは、有効なアイディアであるといえます。また、必要に応じて業務の一部をアウトソーシングするのも選択肢のひとつです。ここでは、卸売業の課題解決アイディアを3つ紹介します。
業務フローを見直して効率化をはかる
現状の業務フローを見直して、改善できそうな部分を探し出す取り組みは有効です。業務フローを整理して無駄を発見し、洗練された業務フローへと作り替えるだけでも、業務にかかる時間やコストの削減が期待できます。
同じ業務を長年続けていると、無駄な業務があっても気がつけなくなっていることがあります。一度立ち止まって業務フローを俯瞰して見つめてみると、思わぬ無駄を発見でき、より効率的な手順に改善しやすくなります。
また、従業員が独自の手順で業務を処理するようになってしまっている環境を是正し、誰でも同じ手順で業務を処理できる環境を整える効果も期待できます。
Web-EDIを活用する
Web-EDIを導入し、インターネット上で受注業務や請求業務を完結できるようにすると、業務の効率化や従業員の負担軽減、コスト削減につながります。Web-EDIとは従来は郵送やFAXで送受信していた受注データや請求データをインターネット上に集約することで、確実かつ迅速なやり取りを行えるようにするシステムです。
Web-EDIを活用すると、郵送で数日間かかっていた書類のやり取りが即日で完了できるだけでなく、データで管理できるため書類紛失のリスクも軽減できます。また、郵送費や用紙代・印刷代などもかからないため、コスト削減も期待できます。
後述のRPAと連携することで、受注システムへの登録を自動化し、手入力の手間を削減することも可能です。
RPAを導入する
RPAを導入すると定型業務を自動化でき、これまで人の手で処理しなければならなかった業務のリソースを解放できます。前述のように人手不足が深刻化しており、「いかに人の手がかからない業務処理を実現できるか」は重要な課題であるといえるでしょう。
RPAは事前に「シナリオ」と呼ばれる実行手順を記憶させることで、ロボットが人間の代わりに自動的に処理を実行してくれるソフトウェアです。受注情報の登録や請求書の発行作業、Web-EDIログイン後の帳票ダウンロードなど、手順が決まっている業務であればRPAに任せて自動化できます。
卸売業の課題である人手不足にアプローチし、従業員の負担軽減にも役立ちます。
業務の一部をアウトソーシングする
処理しきれない業務が多すぎる場合は、一部を専門業者にアウトソーシングする方法も考えられます。
非定型業務(手順が決まっておらず自動化が難しい業務)が多く、自社の人手不足をRPAの自動化だけでは解消しきれない場合や、急速に事業が拡大していて業務の処理が追いつかない場合、専門知識を持った人材が不足している場合などは、アウトソーシングの利用が検討されます。
アウトソーシングは専門性の高い人材が業務を代行してくれるため、確実かつ高い品質で業務を処理できるメリットがあります。しかし、ノウハウが蓄積されない点や委託料金がかかる点がデメリットになり得るため、基本的には自社内で業務効率化を行い、どうしても対応できない場合に限りアウトソーシングを検討することをおすすめします。
卸売業の課題解決には、RPAの導入がおすすめです。RPAを導入すると、下記のようなメリットがあります。
● 低コストで自社の業務を自動化できる
● 専門知識がなくても導入できる
● 社内のIT対応が進みDXにもつながる
ここでは、RPAが効果的な3つの理由を解説します。
低コストで自社の業務を自動化できる
RPAというと、高額な導入費用を想像する方も多いかもしれません。しかし、RPAの中にはパソコン1台から安価に導入できるものもあり、予算が潤沢ではない現場でもRPAによる自動化を行うことは十分に可能です。
RPAの中には、無料トライアルが可能なものも数多くあります。まずは1台だけトライアルでRPAを導入してみて、高い効果が出た場合は本格導入し、必要に応じて規模を拡大していく運用もおすすめです。
専門知識がなくても導入できる
「RPAはプログラミングが必要というイメージがあり、自社で運用していくのは難しそう」とお考えの方も多いでしょう。しかし、専門知識を持たない人がノーコードで直感的に扱える製品もあるため、プログラミングの知識がなくてもRPAの運用は可能です。
画面の指示に従って操作を進めるだけで簡単にシナリオを作成できるRPAを選べば、初めて自動化を行う人でも最小限の労力で運用を実現できます。
社内のIT対応が進みDXにもつながる
RPAを活用するには、自動化しようとする業務がデジタル化している必要があります。
近年では社内業務のIT活用が重要視されています。受発注業務をはじめ、RPAはPCを使う事務業務全般を自動化できるため、社内のDXを大きく推進できます。
卸売業の課題解決にRPAがおすすめな理由を解説してきましたが、実際にどのような活用事例があるのでしょうか。
ここでは、発注書・請求書の登録作業自動化や、販売データをもとにした在庫管理作業の自動化、Web-EDIとの連携による帳票ダウンロードの自動化の3つの事例をピックアップし、RPAを活用した業務の自動化アイディアを紹介します。
FAXで受け取った発注書や請求書の登録作業自動化
従来のアナログな運用では、FAXで発注書や請求書を受け取った場合は従業員が内容を目視で確認し、受注システムへ手動で登録する必要がありました。しかし、大量の書類に目を通して一件ずつ手作業で登録するのは非常に手間がかかり、ヒューマンエラーも起こりやすいという課題があります。
このような場面においては、手書き文字や印字された文字を読み取ってテキストデータ化できるOCRとRPAを組み合わせて、自動的に受注システムへ登録する仕組みが高い効果を発揮します。
FAXなど紙で受け取った発注書・請求書の内容をOCRで読み取り、RPAがテキスト化されたデータを受注システムへ自動的に登録するシナリオを作成することで、大量の発注データや請求データを人の手を介さずに高速で処理できます。
販売データをもとにした在庫管理作業の自動化
RPAを活用することで、当日の販売データを参照して在庫管理システムと連携し、自動的に在庫の引き落としを行う仕組み化も可能です。
Excelなどを使って手作業で在庫管理を行っている現場では、当日の売上データを目視で参照し、在庫管理用のExcelファイルに記載されている在庫数を人の手で書き換える必要があります。この運用は手間がかかるうえにヒューマンエラーが起こる可能性が高く、在庫のズレが原因で在庫不足や過剰在庫が発生しやすくなるという課題があります。
販売管理システムなどから売上データをダウンロードし、RPAで自動的にExcelファイルの在庫数から売上個数をマイナスする処理を行うことで、在庫管理を自動化して確実性を高められます。
Web-EDIとの連携による注文情報などの帳票データダウンロードの自動化
RPAとWeb-EDIを連携させることで、Web-EDIシステムへのログインと、注文情報などの帳票データのダウンロード作業を自動化できます。
Web-EDIの活用はデータのやり取りをインターネット上で完結できるという点では効果的ですが、取引先の数が増えるとその数だけログインとデータのダウンロードを繰り返さなければならないため、かえって従業員の負担になる場合があります。
RPAを導入してWeb-EDIへログインしてからデータをダウンロードするまでの作業を自動化できれば、複数の取引先があっても迅速かつ正確に対応できるため、従業員の負担を軽減できます。
早朝や深夜などの作業にも対応できるため、データをダウンロードするために早出や残業をする必要もなくなります。
卸売業は1989年頃をピークに市場全体で売上高が4割近くも減少しており、企業が安定的な売上を確保することは以前より難しくなってきています。加えて人手不足や顧客ニーズの多様化などの課題にも対応するためには、Web-EDIやRPAなどのIT活用が必要不可欠です。
卸売業においては、RPAを活用した自動化が業務効率化や従業員の負担軽減に特に高い効果を発揮します。受注から納品までの一連の業務を自動化することで、人の手を離れて迅速かつ正確な処理を実現できます。
本記事でも卸売業におけるRPA活用の事例をいくつか紹介してきましたが、より詳しい事例を知りたい方は、下記のRPA事例集もぜひご活用ください。