スワロー工業株式会社 様
物流DX事例|いかにして出荷業務工数を半減させたのか
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※本記事は、2021年2月19日にビジネス+ITに掲載された記事を転載したものです。
「関連会社に部品を発送する」、「顧客に商品を送る」など、荷主企業の物流コストとして重くのしかかるのが商品の出荷業務だ。また、商品出荷の際、依頼する運送業者ごとに異なる送り状を使いわける必要があり、これが出荷業務を煩雑なものにしているのだ。このように、課題の多い出荷業務にメスを入れ、効率化に成功したのが屋根用建築金具メーカー、スワロー工業(新潟県・燕三条)だ。同社の商品出荷に伴う、「送り状発行業務の効率化」の取り組みを紹介する。
建築用雪止め金具と太陽光架台で高いシェアを誇るスワロー工業
スワロー工業は、ものづくり産業が集積する新潟県の燕三条(つばめさんじょう)地域に本社を構える、創業75年の屋根用建築金具メーカーだ。
主な事業は、建築用雪止め金具と太陽光架台の製造販売で、特に雪止め金具では、個人宅用で1位、工業用で3位のシェアを誇る。
同社の提供する屋根用建築金具は、ハウスメーカーなどを通じて、屋根や内装に特化した工務店に卸し、施工業者がそれを使うという形で流通している。
そうした同社だが、幅広い顧客に自社の製品を納品するにあたり、商品の発送業務が大きな負荷となっていた。
同社の商品発送業では、複数の運送会社に発送を依頼するのだが、その際、業者ごとに送り状のフォーマットが異なり、それが出荷業務を煩雑にしていた。また、こうした業務を限られたスタッフで対応する必要があり、ミスが発生するリスクも高かったという。同社は、このように課題の多い商品の出荷業務をいかに効率化したのだろうか。
なぜ、送り状発行業務を改善しようと考えたか
スワロー工業の商品出荷業務の効率化を主導したのは、同社 営業部 商品管理課の佐々木伸氏だ。佐々木氏は、前々職および前職で物流大手企業に物流業務の責任者として在席し、2019年スワロー工業に転職した経緯を持つ。スワロー工業に入社した際、社長から物流業務改善と新社屋移転プロジェクトを一任されたという。
佐々木氏は、「2020年頭から物流業務改善の検討を始めました。基幹システムの入れ替えも予定していたので、それと同時に物流も効率化しようと考えました」と振り返る。
新社屋移転プロジェクトと物流業務改善は基本的に別のプロジェクトだが、新社屋の設計、ラックの置き方、自動倉庫の導入、マテリアルハンドル機器などの導入を一任されており、関連性は高い。多忙を極める佐々木氏だが、最初に着手したかったのが送り状発行業務の改善だったという。なぜだろうか。
改善前の送り状発行業務について佐々木氏はこう説明する。
「事務所でピッキングリストを印刷し、それを現場に持っていってピッキングして梱包し、個口数を記入したあと、また事務所に持っていって送り状を発行していました。問題は物流現場と事務所の物理的な距離が離れていたことです」(佐々木氏)
このような無駄な往来が雨の日も雪の日も行われ、ピッキングリストが風で飛ばされることも多々あったという。個口数の訂正やキャンセルもいちいち事務所で行う必要があった。その際にも当然、人の往来が発生してしまう状況があった。
大変なのは事務所と現場を行ったり来たりする現場側の社員だけではない。送り状印刷をする事務所側の社員の業務負荷も大きく、現場から集まってきたピッキングリストを配送業者ごとに分けて、多い順に送り状を印刷しなければならない。こうした社内の状況を踏まえ、「送り状発行業務を合理化できれば、かなりの生産性向上ができる」と佐々木氏が考えたのは自然な流れであった。
スワロー工業は、運送会社として10社、その他チャーター便で2社、都合12社の運送業者と取り引きしている。運送量でいえば、6~7割が西濃運輸、2割が福山通運、残り1割の大半が第一貨物となる。「この3社分の送り状だけでも、商品梱包をする物流現場で発行できればかなりの生産性向上が見込める」と佐々木氏は考え、そのためのソリューションを探すことにしたのだった。
現場ニーズに合った「送り状名人」を採用
2020年2月に東京ビッグサイトで「国際物流総合展2020-INNOVATION EXPO-」が開催された。佐々木氏は、物流業務改善および新社屋移転のための情報収集のため、同展示会に訪れた。そのときにユーザックシステムのブースで「送り状名人」という商品を見かけ、これは使えるのではないかと直感したという。
佐々木氏は、「ユーザックシステムの社員に話を聞き、これはすぐに使えて、送り状発行業務をてっとり早く効率化できるソフトウェアだと一目惚れしました」と振り返る。
送り状名人とは、送り状や荷札を発行するためのソフトウェアで、ホストコンピュータとの連携や、クライアントPC側での手入力により、さまざまな送り状や荷札の発行ができる。
佐々木氏は、送り状名人のどこに魅力を感じたのだろうか。
そもそも送り状発行に特化したソリューションはありそうでない。多くの場合、荷主の送り状の発行業務は、運送会社が荷主側に対して提供する専用の発行ツールを活用するか、WMS(倉庫管理システム)の1機能を活用するケースがほとんどだ。
運送会社の専用ツールで送り状発行業務をこなそうとすれば、利用する運送会社の数だけ専用ツールを使いこなす必要がある。一方、送り状名人が1つあれば、大手運送会社はもちろん、地場の運送会社の送り状フォーマットにも対応できる。
それだけでなく、送り状名人を使えば、発送業務に関わるデータ管理も柔軟になる。たとえば、WMSの送り状機能を活用する場合には、個口訂正・重量訂正・送り先変更などをする際に、上位データである受注データを変更することが一般的である。ところが送り状名人では、これらの変更がPC側でできるのだ。
とはいえ、「個口や重量、送り先などのデータをPC側で勝手に変更してしまうと、受注データと整合が取れなくなるのではないか」と考える人もいるだろう。たしかに、WMSの場合は、上位データである受注データに遡ってデータを変更する必要がある。
一方、送り状名人なら、受注データと送り状データの整合性を取る必要はない。PC側で変更できるため、物流現場の状況に応じて柔軟にデータの変更ができる。なお、送り状名人におけるデータ変更は、バッチ処理で上位システムに戻せるようになっているため、受注データとの整合性がとれる仕組みとなっている。この機能は、まさに佐々木氏が求めていたものだった。
また、WMSとは異なり、PC1台あれば業務を開始できることから、業務改革の第一歩として送り状作成業務からスモールスタートしたい企業のニーズにも合致する。
そのほか、ユーザックシステムに、「Autoジョブ名人」や「Autoメール名人」など、RPAツールがあることも、送り状名人の採用を決めた大きなポイントだったという。まだ細かい検討は進んでいないが、今後の業務自動化に使えそうなソリューションがありそうだからだ。
たとえば、ハウスメーカーや工務店がゼネコンの要求に応じてウェブ受発注に対応してきている。したがって工務店とのウェブデータのやり取りをAutoジョブ名人やAutoメール名人で自動化できる可能性がある。
その後、コロナ禍の影響により、スワロー工業とユーザックシステムは直接打ち合わせができないなどのハードルもあったが、今回、スワロー工業側が効率化したいと考えていた西濃運輸、福山通運、第一貨物のすべてにおいて、ユーザックシステムでは過去に対応実績があり、スムーズに調整が進んだという。
同年5~6月の2カ月要件やテスト計画などが決定し、7月から開発に着手。10月の頭に納品され、1日でセッティングが完了した。その後、スワロー工業で約1カ月間、運用テストを実施した。大きな問題はなく、印字の濃さの調整など細かい修整があっただけだったという。
スワロー工業における送り状名人活用で特徴的なことは、移動式プリンタを導入したことである。これは、台車にモバイルバッテリーを取り付けてプリンタを搭載し、現場内でプリンタを移動して、商品の近くで送り状を印刷するものだ。遠く離れた事務所ではなく、現場で印刷することにこだわった佐々木氏ならではの発想と言えるだろう。
事務所員の半分を営業サポートに回すことができた
送り状名人を導入したことによる効果は大きかった。定量的な効果を先に挙げると、集荷のための工数が半減したことで、事務所員を4名から2名に削減できた。余剰となった2名は営業部門に異動し、営業サポートの職務に就くことで売上向上に貢献しているという。
現場側のメリットももちろんある。以前は事務所側で送り状印刷をしている間、じっと待っている必要があったが、今は自分たちが出力したいときにその場でできるため、待ち時間が大幅に削減された。
自動化によりエラーやミスも減った。エラーやミスがなくなったものを列挙する。
・間違って別の配送業者の送り状に印刷すること
・個口数のタイプミス
・重量の入力ミス
重量に関して補足すると、以前は電卓で計算し、その結果を手でシステムに入力していたためミスが多かった。現在は基幹システムの商品マスターの重量を参照して、送り状名人側で自動計算および出力しているためエラーがまったくなくなった。
また以前は、10社分の送付状ラベル置き場と各社専用のプリンタを置くスペースが事務所に必要であったが、これが削減された。
手厚いサポートが、社内の効率化・自動化を後押しする
大いに導入効果があった送り状名人だが、佐々木氏はそれだけでなくユーザックシステムの対応にも大いに満足しているという。
「送り状名人では、オプションをかなり追加しているが、それらを採用する際にも、こちらの要望をしっかり聞いて、丁寧で的確かつスピーディーに対応してくれました。フットワークが軽い印象があります。コロナ禍で新潟まで直接来られなくなったのは残念でしたが、リモートで営業はもちろんSEとも直接話ができ、対面でないことによるハンデはありませんでした。ユーザックシステムとは今後も長いお付き合いになるだろうと考えています」と佐々木氏はユーザックシステムへの賛辞を惜しまない。
佐々木氏からユーザックシステムには、すでに移動式プリンタの増設提案の依頼がされており、ユーザックシステムはハンディ―ターミナルで運送会社を指定して送り状を打ち分ける方式を提案する方向で検討しているという。
スワロー工業の今後の展望としては、まず2022年に新社屋への移転が予定されている。これにより、さらなる効率化を求められており、そのためには倉庫管理の可視化を実現することが必要だ。またコロナ禍の影響でさらなる自動化も求められている。効率化・自動化を実現しつつ、商品を安全確実に顧客に送り届けることも求められている。そのためにWMSの最新化も検討されており、新しいWMSと送り状名人の連携も考えていくという。
物流業務の改善を一気に行うのではなく、まずは送り状発行業務からスモールスタートしたいという企業にとってスワロー工業の取り組みは大いに参考になるだろう。今後も同社の取り組みに注目してほしい。