株式会社LIFULL 様
業務量が増えても、ワークライフバランスを保てる会社創り
― LIFULLのロボット内製プロジェクト ―
- ソリューション:
- 対象製品:
- 業種:
国内の99.7%を占める中小企業から3万社を対象に2017年12月実施された調査(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成29年度 人手不足下における中小企業の生産性向上に関する調査に係る委託事業 調査報告書」、有効回答率13.8%)によると、回答した企業の実に96.3%は、直近3年間で何らかの業務効率化に取り組んでいる。この契機として、最も多く挙がった要因は「人手不足対応」(46.5%)だった。
さらに同調査では、回答企業の過半数(50.6%)が効率化を進める上で「業務に追われ、業務見直しの時間がとれない」ことが課題だとしている。「多忙から脱する工夫も難しいほど多忙」という現場が珍しくない現在、具体的な効率化策には「即効性」と「手軽さ」が強く求められていると言えるだろう。
こうしたトレンドは、定型業務の自動化で素早い効率化が実現できるとして注目を集めるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の分野でも同様だ。数あるツールの中でも、初期費用が比較的少なく、直感的な操作性を重視した「デスクトップ型」(RDA=ロボティック・デスクトップ・オートメーション)の人気は高く、小規模から導入できるメリットに着目した中堅・中小企業から選ばれるケースも多い。
国内最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」を運営する株式会社LIFULLは2018年8月から、ユーザックシステム株式会社のデスクトップ型RPAツール「Autoジョブ名人」を導入。グループ従業員1,274人を擁する企業規模ながら、あえて簡便なツールでの業務効率化を選び、急増する業務の効率化を着実に進めている。その実情を、RPA担当チームの責任者である佐川雄一氏(グループ経営推進本部 システム化推進グループ グループ長)に聞いた。
「面白そう」。初めてロボットに触れた社員がそのまま担当業務を自動化
―RPAの導入からおよそ半年が経つ貴社の現況を、まずお聞かせください。
これまで正社員と派遣社員で担当してきた業務の一部を置き換えるロボットを、合計6種類作成しました。
現在、ロボットの開発運用担当者は3人おり、業務部門全体のIT化を担当している私のほかは、第1号のロボットを導入した部署に所属するプログラミング経験のない女性2人です。この2人は、私がツールを実演したのを見て「面白そう」と言っていたので「試しにつくってみたら?」と促したところ、本当に動くものをつくってしまいました。そこで、できたロボットはそのまま実稼働に移し、新たなロボットの開発にも加わってもらっています。
これまでに作成した6種のロボットで、既に人件費換算で年間2,000万円分のリソース創出に成功しており、投資を大きく上回る成果が得られています。
ロボットを導入した業務は、いずれも作業量の増加が著しい一方、そこに関わる人員はほぼ据え置くことができています。「ヒトとロボットが共に働く」ことで、より無理が少ない人員計画を立てられるようになりました。
―「ロボットのおかげで現場の負担を減らしながら、増員も抑制できた」ということですね。具体的にはどのような業務に活用されているのでしょうか。
代表的な活用例としては「取引先審査の事務作業」があります。これは、LIFULL HOME’Sへの加盟を希望する不動産業者様について、国土交通省のウェブサイトから取得した情報と照合し、宅建業免許の有無を確認する業務の一部を自動化したものです。
ロボットの活用により、数人がかりで処理している日次作業の負担が減っただけでなく、団体の一括加盟などで一度に数百件の審査が集中する際の処理スピードが大幅に改善しました。
全社的な“総力戦”ではなく、スピード重視の“ゲリラ戦”に適したツール選択とは
―スモールスタートから、さっそく大きな効果が得られたとのことですが、貴社のように従業員1,000人を超える企業では、多数のロボットをサーバー上で集中管理するタイプのRPAツールが多く検討されています。今回それよりも簡便な、個別のPCにインストールするタイプのツールを選んだ理由を聞かせてください。
ここ数年で急速に事業が拡大した結果、当社では管理職がスタッフを兼ねて多忙を極めている部署も珍しくありません。全社足並みをそろえて業務効率化を進めていくのが現実的に難しい状況で「生産性向上は急務」というトップの意向があり、またマネジメント層から「RPAであれば、できるところから順次展開できるのでは」といった声が寄せられたことから、年度途中でツール選定を始めました。
次年度予算を待たず、とにかく早く着手するということで、今回は導入までの時間的・費用的なコストを重視していました。結果として、PC単体にインストールでき、しかもWebブラウザ上での作業に特化している「Autoブラウザ名人」をまず採用しました。
その後、PC上の作業全般を自動実行できる「Autoジョブ名人」も追加で導入しています。今後はExcelを多用する財務・経理部門への導入が増える見通しのため、こちらを主軸に使うようになっていくと思います。
―「始められる部署から、少しでも早く効率化させる」ためのツール選択だったのですね。
はい。RPAに関する当社のアプローチは現在のところ、会社を挙げた“総力戦”ではなく、各所の実情に合わせた、主体的な導入を促すという“ゲリラ戦”です。
ロボットの開発運用に関しても、当面はロボットの導入現場を部門別にグループ分けし、各部門が独自にロボットを開発運用していく計画になるものと思われます。
―「導入先である現場近くで、ロボットの作成だけでなく維持管理も自己完結できる」ということでしょうか。
はい。Autoブラウザ名人、Autoジョブ名人はいずれも、ロボットの実行機能に限定されたバージョンと、開発機能も搭載したバージョンに分かれています。そこでPCへインストールする際に適切なバージョンを選び、開発版ツールのユーザーがロボットの管理に責任を持つことにしています。それでもポイントを押さえれば、高い水準のガバナンスが求められる上場企業のオペレーションにも十分対応可能だと考えています。
例えば、当社では財務関連の作業をロボット化する際に内部統制の問題に直面し、当初は具体的な解決策が分かりませんでした。しかし、しばらく検討した結果「ロボットの作成時と修正時に、内部監査部門から機能のチェックを受け、監査時はロボットの最終更新日時を確認すれば問題ない」と分かり、この手順に沿ったマニュアル化を進めているところです。
もともと、当社で業務にPCを使用する社員は全員、IT活用の社内試験に合格することが条件となっています。最低限のリテラシーがきちんと共有されていれば、小回りがきくRDAの特長を生かした、スピーディーな展開が期待できると思います。
「今までより30分早く帰れる」。推進担当者自身が実感したロボットの実力
―IT開発未経験の現場スタッフが中心となった取り組みで、ここまで短期間にRPA導入の成果を上げられた“勝因”はどこにあるとお考えですか。
導入推進担当者である私が、まず自身の業務にRPAを導入してみてメリットを実感したことです。
ほぼ毎日発生する決裁に関連して、退勤前に必ず終えなければならない単調な「コピペ」の作業があったのですが、これが自動化できたことで夜30分早く帰宅できるようになりました。自身の業務に対して大きな実感を得たことで、周囲に対する説得力も出たと思います。
開発チームは「つくったものが実際に動く」というRPAの楽しさをそのまま原動力にしたことで、とてもスムーズに立ち上がりました。大人といえども、やはり楽しいものが好きですから、そうした自然な気持ちを生かせたのはよかったと思います。
ロボットを新たな部署にも導入していく上では、業務の見直しに向けたヒアリングや、現状の作業手順の確認などで、その都度現場からの協力を得ることが欠かせません。いつも忙しそうな部署をふらりと訪ねて声をかけるなど、何気ないコミュニケーションから業務効率化のニーズを探るよう心がけているところです。
また今回は、ツールの選択にも成功したと思います。導入したAutoジョブ名人を他のRPAツールと比べると、性能面ではより高価なツールに遜色なく、しかも操作の分かりやすさ、とっつきやすさでは断然上だと感じます。
RPAは一度つくって終わりではなく、接続先の改修などに応じた修正が随時必要となりますが、ツールのマニュアル類や機能のネーミングがこなれた日本語で理解しやすく、解決の糸口がすぐつかめるので助かっています。
開発・販売元が直接提供しているサポートのレスポンスも非常に早く、ツールに関して特に困ったことは今のところありません。この状況がずっと続くことを願っています。
―最後に、今後のロボット化に向けた抱負をお聞かせください。
定量的には、現状で年間2,000万円相当のリソース創出効果を上積みし、2019年9月期末までに倍増させるのが目標です。私を含めてRPA担当者は全員兼任のため、他業務の繁閑が進捗に影響しますが、それでもなんとか達成したいと考えています。
数字を離れたところでは「今後さらに業務量が増えても、ワークライフバランスを保てる会社であってほしい」「恒常的に業務負担が重い部署を、少しでも早く楽にしたい」というのが正直な気持ちです。そのために役立つロボットの導入部署を、さらに広めていけたらと思います。
―現場から小さく始めるRPA導入の成功イメージが、非常によくつかめた気がします。今回は、率直なお話をありがとうございました。