奈良県斑鳩町様
今伝えたい、ARアプリを通じて感じてほしい藤ノ木古墳の魅力とは
~奈良県斑鳩町~
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Introduction
奈良県斑鳩町は、奈良県の北西部に位置し、聖徳太子ゆかりの地として知られる歴史豊かな町です。藤ノ木古墳のほかに、法隆寺、中宮寺、法輪寺、法起寺などの古代寺院が点在し、中でも法隆寺、法起寺は「法隆寺地域の仏教建造物」としてユネスコの世界文化遺産に登録されています。
古代日本の仏教文化や仏教建築が現代までながらく継承されてきた地域で、観光や歴史散策の場としても人気です。
また、斑鳩町は自然にも恵まれ、四季折々の美しい風景を楽しむことができます。
今年3月にリリースされた藤ノ木古墳を楽しみながら様々な学び・体験ができる「AR藤ノ木古墳散策」について斑鳩町文化財活用センターにお伺いし、斑鳩町教育委員会事務局 生涯学習課 参事 平田 政彦 氏にお話を伺いました。
アプリを作ろうと思ったきっかけ
――斑鳩町文化財活用センターの役割や仕事内容についてお聞かせいただければと思います。
平田氏(以下、平田):斑鳩町文化財活用センターは、斑鳩町の歴史・文化の調査研究そして情報発信の拠点施設として平成22年3月20日にオープンしました。また斑鳩町役場の分庁舎という位置付けもあり、文化財の行政窓口も同時にこちらに引っ越しをしてきました。斑鳩町の最優先課題の一つであった藤ノ木古墳の整備が進み、その際の認知拡大のガイダンス施設として、初めは古墳の周辺に造りたかったのですが、諸般の事情で実現しませんでした。ちょうど今いる事務所の隣に展示棟と言われている建物があるのですが、そこは元々当町を含めた周辺の4つの町が合同で土地を提供していた法務局の出張所でしたが、国の方針で統合されてなくなりました。それで、その跡地を利用して藤ノ木古墳のガイダンス施設を造ろうという計画が進み、ガイダンス施設を管理する意味で行政の窓口も作って町内の文化財を一括的に管理しようということで文化財活用センターが出来ました。
――主に藤ノ木古墳の管理をされていらっしゃるということでしょうか。
平田:藤ノ木古墳は町内の文化財の一部ですが、藤ノ木古墳がきっかけで文化財の行政がこちらに移って来たとお考え頂ければと思います。行政的な細かい話で言えば、調査研究、遺跡の問い合わせ、発掘の届け出なども全部こちらの施設で担うことになり、職員もそのタイミングで移ってきました。
―今回 「AR藤ノ木古墳散策」の検討に至った背景、課題についてお伺いできますでしょうか?
平田:今回の施策は藤ノ木古墳をすごく愛している町民がおられて、その顕彰に役立ててほしいということで寄付金を頂戴し、それを基にして制作しました。もちろん 「AR藤ノ木古墳散策」以外にも色々と案はありました。例えば馬具を実物大に復元して藤ノ木古墳の近くに置こう、という意見も出ました。ですが、私の中で藤ノ木古墳の立派な石室を特別公開以外でも疑似体験ができないものか、というアイデアが浮かんでいました。町内にある中宮寺跡という寺院遺跡があるのですが、そちらで以前AR で建物を復元できないかというご相談をユーザックシステムさんにしたことがあったのを思い出して、こんなことが出来ないだろうか、と早速連絡を取りました。そこで、私がやりたいことの実現性、費用、納期等の具体的なアドバイスをしていただきました。これにより、出来上がりまでのイメージが自分の中で出来たのがすごくよかったです。
―寄付金をいただいてから弊社へのご相談までどれぐらいの期間ありましたか?
平田:自治体では、前年に頂いた寄付金を翌年何に使うかを決めます。今回は、藤ノ木古墳への寄付でしたので、文化財部署での事業化の話が下りてきました。恐らくそこから1ヶ月も経たないうちにユーザックシステムさんに連絡をしたと思います。とは言うものの、担当者としては、事業化と言っても何に使うのかは担当者が上司に相談しながら考えなければなりません。私の場合は、先ほどお話したように活用したいイメージが出来ていましたのですぐに相談が出来ましたが、アイデアがない場合は大変だったと思います。そうしたなか、私が一番危惧していたのは価格です。
寄付金が決まっているなかで、他の事業との兼ね合いもありますので、AR を作るのに何千万かかりますよ、という話だったらそもそも検討の土台に乗らなかったと思います。そういう理由から費用の感覚を早く掴みたかったので、協力してくださる業者さんと言う意味でユーザックシステムさんにすぐ相談出来たのは良かったです。
ARアプリを選定するのに初めて採用した公募型プロポーザル方式
―ユーザックシステムと事前にお話しいただいてからプロポーザル(※)に至るまでの、具体的なプロセスを時系列で教えていただけますでしょうか?
(※)技術的に高度、または専門的な技術が要求される業務の発注に使われる選定方式
平田:ARのアプリを作ると決めていても、アプリの内容を正確に条件化して入札することが難しいであろうと思い、公募型のプロポーザル方式を取ることにしました。まずこちらでプロポーザルの実施要項、基本方針を策定し、審査会を立ち上げてARアプリについて事前に審議し、ユーザックシステムさんから頂いた企画提案書を審査して、受託候補者としてユーザックシステムさんにプレゼンテーションをしていただきました。但し、公募型プロポーザル方式はノウハウがなかったら結構手間がかかり躊躇される自治体も多いと思います。理由としては事務手続きの作業量が膨大だからです。また、どのように効果測定をしていくかを予め決めないといけないのですが、そうした事項が設定できる担当者でなければ作業が進められないので、そこまでは出来ないということで躊躇されることもあると思われます。
ー平田様が一番苦労されたところはどんなところでしょうか?
平田:作業が大変ということもありますが、一番は年度末に納品して頂くことでしょうか。実際「AR藤ノ木古墳散策」も3月31日納品でした。私も納期については気を付けていましたし、ユーザックシステムさんもしっかりスケジュール管理をして頂いていたので何とか間に合いました。もし間に合わないということになれば、4月1日からの運用ができないという大変なことになっていたと思います。今後も自治体と取り組みをされるときは納期については十分に気を付けられた方がいいと思います。
ーアプリの作成を始めて年度末の完成までどのぐらいかかったのでしょうか?
平田:夏からプロポーザルの事務手続きがあり、秋に契約しましたので、実質10月~3月の半年でした。ですが、私の中で10月からの進捗が遅く、3月はかなり追い込んだイメージがありますね。1つ反省としては作成の時期が秋から冬にかけてでしたので、撮影が冬のシーンばかりで春の桜の季節などの撮影が出来なかったのが残念です。アプリの見栄えにも影響がありますのでそこは気になりました。
ープロポーザルの時の話に少し戻りますが、プレゼンテーションの時に委員の方々から具体的なご質問が出ていたと伺いました。
平田:私は事務局側と委員の両方を兼ねており、既に委員の方に寄付金を藤ノ木古墳を中心とした町内の古墳のARに使いたいという概要は伝えてありましたのである程度理解していただいた上でアプリの活用方法、リスクについての質問があったと記憶しています。リスクとは、歩きスマホ対策です。せっかくアプリを利用してもらっていてもその最中に怪我をされたら町の責任になりますので、その辺りを委員の方はとても気にされていました。
ー怪我があった場合はアプリを提供している自治体に責任がかかるのでそこを心配されていたということですね?
平田:そうです。事務局の方から事前に説明をしていたことで各委員はある程度アプリに対するイメージを持っていただいた上で、こんなことが出来ないのかという前向きな議論も出来ました。
ー公募型プロポーザルのユーザックシステムの提案につきまして平田様なりのご評価いただいたポイントをぜひお聞かせください。
平田:私のやりたいことをしっかり理解し、的確な企画提案をしていただいたところを最も評価しています。一番気になっていた点は、アプリのメンテナンス費用です。斑鳩町も昔 QRコードで観光情報を見られるアプリを提供していた時期がありました。その際、iPhone のバージョンアップ対応に、莫大なメンテナンス費用がかかるという事案がありました。それ以来メンテナンス費用が高額なアプリはNGと言われる可能性があったので、提案いただいた費用は常識的な金額で有難かったです。例えばですが、5~6年後にはアプリ制作費を超えるようなメンテナンス費であれば実現出来なかったと思います。
コアなファンだけなく若い方にも身近に感じて欲しい藤ノ木古墳の魅力
ー「AR藤ノ木古墳散策」の評価を伺いたいのですがいかがでしょうか?
平田:個人的な感想としては、こちらがイメージしている通りに作って頂き満足しています。アプリの中でも藤ノ木古墳内360度探検は一番の見どころですね。石室特別公開の際など通常ですと2~3分しか石室内に入れないのですが、アプリだと時間と場所を選ばず好きなだけ見られます。最後まで見て頂くと、石棺の内部が詳細にみられるお楽しみもありますし、明るく映されていますので内部がよく分かるかと思います。また、その体験が春と秋の特別公開の際に現地に行って本物を見ようという動機付けになるのでは、と期待しています。スタンプラリーについては、頑張って1日で巡ったよ、と報告に来て下さる方もおられます。そのようなお声を頂くと嬉しいですね。
ーアプリ内のクイズについてはいかがでしたか?
クイズについては予想に反して反応があまりないです。思い当たる理由としては、観光に来られる方はお忙しいので、短時間に見どころをあちこち回る必要があり、クイズを解いている暇がないのではないかと考えています。クイズを解いて解説を読んで「なるほど」と思って頂きたいのですが現状はそうはなっていません。クイズを映像で流して10秒以内で答えるなど何か仕掛けを考えないといけないかもしれません。また、クイズを答えようとしても位置情報が取りづらい場所もありますので、そこも今後の課題としてあげたいです。
平田:アプリのダウンロード数はまだまだ苦戦していますので、どのようにすれば認知拡大するかを考えていかなければなりません。藤ノ木古墳のコアなファン層である高齢者はスマホの操作に不慣れな方が多いので、アプリインストールの分かりやすい手順書があればすぐに印刷してお渡し出来るので便利だと思います。そもそもGoogle PlayやApp Storeへのログインが出来ず困っている方もおられるので、そうした手順書があると便利だと思います。あと、スタンプラリーでスタンプを集めることに必死になって解説を後で読もうと思っても現地でしか解説が読めなくなっているので、スタンプを集めた方には現地から離れても読めるようにして頂ければと思います。
ー解説や高齢者の方へのサポートはあった方がいいですね。教育的にも有用なアプリだと思いますので、学生の修学旅行や校外学習の材料として使われることはないのでしょうか。
平田:学生はスマートフォン自体を禁止されている学校も多くあり、普及が難しい部分があります。特定の学校にアプローチも出来ないので別のプラットフォームで掲載、認知拡大が出来ないかを考えています。
ー弊社より毎月お届けしておりますレポートについてはいかがでしょうか。
平田:定期的に会議で文化財のことを報告する必要があるので、レポートがあるととても助かります。我々としてもアプリを作っただけではダメで、アクセス数を上げていかないといけませんので、可視化して解説頂けるのは大変嬉しいです。
ー古墳がある自治体へ歴史遺産活用のアドバイスをお願いいたします。
平田:文化財関係に限ったお話になりますが、ARでやりたいことを実現したいと考えておられるならば、そうした専門の業者さんに相談してみることをお勧めします。まずは実現可能なのかの判断をして頂いた方がいいからです。概算金額も分かれば、上司や財政部局にも説明がしやすいと思います。
ーー本日はお忙しいところ取材をお受け頂きありがとうございました。
【AR藤ノ木古墳散策】開発者の声
360度探検は、現地で見るよりもくっきり見られると言われるものを目指して作りました。一通りぐるりと見渡されたら、すぐに画面を閉じられるかもしれません。しかし、しばらく待っていただくと発掘時の石棺内の様子が特典画像としてご覧いただけます。また、スタンプラリーでは町内の様々な古墳を知っていただきたい。マップ画面に表示している古墳アイコンはそれぞれの形状にあわせていますので、そういった違いもチェックしてもらえればと思います。
※2024年7月取材。記載の情報は取材時のものです。