フードリンク株式会社 様
情報システム部門による開発と徹底したユーザー部門サポート
フードリンクの事例に見るRPAの活用・運用術
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ガートナーが2019年10月に発表した「日本におけるテクノロジのハイプサイクル」によると、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は幻滅期に入ったという。背景には、導入した企業が思うようにRPAを活用・運用できていない現状がある。
RPAはプログラミングなどの知識を持たない非ITエンジニアでも、簡単なロボットであれば開発できる点が強みである。しかし複雑な業務を自動化したり、ロボットを長期的に安定稼働させるためには、ある程度の専門的な知識が必要となってくる。
食肉の専門商社のフードリンク株式会社(東京都港区)では、2019年1月から当社のRPAツール「Autoジョブ名人」を導入。情報システム部門による開発や徹底したユーザー部門のサポートにより、品質の高いロボットの開発や安定したロボットの運用を実現している。「Autoジョブ名人」を実際にどのように活用・運用しているかについて、伊藤和央氏(情報システム部 主任)と吉田和幸氏(情報システム部 マネージャー)に聞いた。
コスト面やメンテナンスの利便性が決め手となりAutoジョブ名人を選択
――RPAを導入しようと思ったきっかけについて教えてください。
伊藤 和央氏(情報システム部 主任):
当社は食肉専門商社として食肉の卸業を行っているのですが、得意先ごとの独自Webサイトから先方発注データを手動でダウンロードする業務があり、効率的に行う方法を探していたところ、2018年4月頃にRPAを知りました。
RPAを導入すれば受注データをダウンロードするような定型業務を自動化できると考えてRPAについての情報を収集し、採用候補となった複数のRPA製品を比較検討した結果、Autoジョブ名人を導入することを決めました。
――多くのRPA製品の中からAutoジョブ名人を選んだ理由について教えてください。
吉田 和幸氏(情報システム部 マネージャー):
他社製品よりもコスト面で優れていたこと、情報システム部門がメンテナンスしやすいと感じたことが理由です。Autoジョブ名人では自動化する処理を作業する順番に一つ一つ書いていくのですが、それぞれの処理についてのコメントを分かりやすい形で入れられるようになっています。他社製品でもコメントを入れることはできるのですが、フローチャート形式などのビジュアル面に特化した製品が多く、コメントを見るためにはそれぞれの処理をいちいち開いて確認しなければなりませんでした。
当社では開発はユーザー部門ではなく情報システム部門で行うことを決めていたため、情報システム部門がメンテナンスしやすいと感じたことは大きな決め手になりました。
RPA製品の選択は、検証用の簡単なシナリオを作り、そのシナリオを複数のRPA製品を使って自動化し、開発のしやすさや動作などの評価項目を設けて採点する方法で行いました。その結果、総合的にAutoジョブ名人が最も優れているという評価になったので導入を決めました。
ユーザー部門に「ロボット化」を浸透させ、開発は情報システム部門で行う
――現在RPAによって自動化している業務とその効果について教えてください。
伊藤:
営業部が行っている、得意先からの受注データを取得する業務を中心に自動化しており、現在約20体のロボットが稼働しています。
RPAを導入してから業務のミスが少なくなったと感じています。例えば受注データを取得する際に、本日の日付で取得しなければならないところを前日の日付で取得してしまったり、勘違いして2回取得してしまうといったミスがなくなりました。これまではミスが起こるたびにユーザー部門側から情報システム部門側に伝えてもらい、データをリカバリーしなければならなかったのですが、その負担が減ったので非常に助かっています。
――RPAを導入する際、ユーザー部門にはどのような働きかけを行ったのでしょうか。
吉田:
最初に資料を使ってRPAについて説明した時には、なかなかイメージが湧かないようでした。RPAのことを自分の代わりに全ての仕事を行ってくれる夢のようなツールだと誤解してしまう人もいたようです。何でもできるわけではなくて、ロボットが人の代わりにパソコンを操作することですと説明しました。イメージしやすいように、自動車工場のロボットと同じですと伝えるようにもしています。RPAのロボットは、自動車工場のロボットが決められた順番に決められた部品を取り付けるのと同じようにPC上の作業を行うのであり、自分で判断して業務を行うのではないことを強調しました。
業務が全て自動化されるのではなく、普段人がパソコンを使って行っていることをロボットが代わりに行うというイメージを持ってもらうように工夫しました。例えばあえて自動化という言葉を使わずに、ロボット化という言葉を使うようにしたり、実際に業務を自動化している様子を見せて、RPAでどのようなことができるのかをイメージしてもらうようにしました。
――開発を進める上で工夫していることはありますか。
伊藤:
開発はユーザー部門ではなく情報システム部門で行っています。ユーザー部門から提案された業務の内容を検討し、RPAによる自動化に向いていると判断したものをロボット化します。業務の中にはRPAよりも例えばエクセルのマクロの方が効率的に自動化できるものもあるので、それぞれの業務に適した方法で効率化を行っています。
簡単なロボットであればユーザー部門でも開発できるかもしれませんが、メンテナンスと管理の面から情報システム部門で開発を行うのが望ましいと考えています。
開発は必ずあらかじめルールを決めてから行うようにしています。開発者が異動になったりメンテナンスが必要になった時でも、開発ルールを参考にすることでロボットの品質を一定に保つことができるからです。
情報システム部門によるユーザー部門のサポート
――他に開発・運用で工夫していることはありますか。
伊藤:
RPAで業務をロボット化するに当たり、ユーザー部門に対してあらかじめ想定される懸念事項を説明し、承諾を得てから開発を行うようにしています。
承諾してもらう事項には、例えばエラーで異常停止した場合にはエラーメールを送信し、ロボットが行うはずだった操作をユーザーが再度手作業で行う、などの項目を定めています。
エラーが起こった場合、ロボット側で再実行することもできるのですが、再び失敗した場合のリカバリーが難しくなるため、それは行わないようにしています。
吉田:
ロボットがエラーで止まる場合に備えて、月に1回業務を手動で行う練習日を設けています。ロボット開発時にマニュアルを作成しているので、マニュアルを渡して手順を確認してもらっています。
定期的に手動で行うようにすればロボット化した業務の手順を忘れませんし、異動などで担当者が変更になった場合に業務の引継ぎがスムーズになります。
――エラー時の対応をそこまで丁寧に行っている企業は珍しいのではないでしょうか。
吉田:
エラーが起こった場合、必ずユーザー部門から情報システム部門に問い合わせがくるので、あらかじめきちんと対応できる仕組みを作っておきたいと考えました。また、管理できない野良ロボットが発生するのを防ぎたいという気持ちもあります。仕組みを整えたおかげでエラーが起こっても焦らずに対処できますし、全てのロボットについて把握し、管理することができています。
今後の展望とAutoジョブ名人に期待すること
――今後取り組んでいきたいと思っていることがあれば教えてください。
伊藤:
現在取り組んでいる、営業部の受注データを取得する業務のロボット化にある程度区切りがついたら、管理部や品質保証部といった他の部署の業務もロボット化していきたいですね。
吉田:
当社には1カ月当たり約1万枚の発注書がファックスで送られてくるのですが、これらをAI-OCRで読み取ってデータ化し、RPAを使ってシステムに自動的に登録したいと考えています。2割をデータ化するだけでも2,000枚ですので、相当な効果が期待できると考えています。
――Autoジョブ名人に期待していることはありますか。
吉田:
Autoジョブ名人は、定期的にバージョンアップされて機能が追加されているので、今後もぜひバージョンアップを続けて欲しいですね。機能が増えればロボット化できる業務の種類も増えるので、社内の業務効率化がさらに進むのではないかと期待しています。
伊藤:
ユーザーが参加できるコミュニティに期待をしています。コミュニティがあれば開発時に困ったことやその解決策を共有し、ノウハウとして蓄積することができると思います。分からないことをコミュニティで検索し、解決策にたどり着けるようになれば、さらに開発がしやすくなります。
――これからRPAを導入する企業に対してのアドバイスをお願いします。
吉田:
あらかじめロボットの開発や管理などについてのルールを作っておくとよいと思います。ルールを決めずに導入してしまうと、例えば5年後にロボットを見た時にどのような業務をロボット化しているか分からないといったことになりかねません。面倒でもあらかじめルールを決めておいた方が後々困らないのではないでしょうか。
伊藤:
当社のように開発は情報システム部門で行うと決めてしまうと、統制が取りやすいと思います。複雑な業務をロボット化したり、ロボットを安定稼働させることを考えると、ユーザー部門で開発するのはハードルが高いと感じています。Autoジョブ名人は安定して業務をロボット化することや基幹システムに近い業務をロボット化することを想定したツールです。そういったツールを導入し、開発を情報システム部門のみで行うと決めることは、品質の高いロボットの開発や安定したロボット運用につながると思います。