朝日インテック株式会社 様
RPA導入活用成功事例
~業務改善プロジェクトの進め方~
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※本記事は、2020年11月16日にビジネス+ITに掲載された記事を転載したものです。 撮影:永井貴之
研究開発型企業として、高い独創性・機能の進化によるオンリーワン製品を供給し、カテーテル治療の普及・発展に貢献している朝日インテック株式会社。約10年間で従業員数が3倍に増え、それに伴い手作業で対処するには処理件数が多すぎる業務の数が増え、業務の効率化・自動化が喫緊の課題となっていた。多くの企業に共通すると考えられる課題に、朝日インテックはどう立ち向かったのか。RPA導入のキーマン3人に話を伺った。
急成長を遂げた朝日インテックが直面した“人手不足”
医療機器の製造販売会社である朝日インテックは、カテーテル治療には欠かせないガイドワイヤーなどの素材加工技術に強みを持つ企業だ。
元々は、工業用の極細ステンレスロープの分野で独自性を発揮していたが、極細ステンレスロープの製造技術を医療機器であるカテーテルに応用することで医療分野に進出し飛躍的な成長を遂げた。現在、同社が現場の医師と協力して作り上げた高品質のガイドワイヤー製品は、世界110カ国に供給されており、日本をはじめヨーロッパでシェア1位を獲得している。
こうして、実績を積み重ねてきた同社の売上は10年間で4倍、従業員数は3倍、グループ会社数は2倍に増え、同時に東証二部から東証一部へ市場変更も果たしている。
拡大基調にある同社だが、会社の成長スピードに業務改革のスピードが追い付かないという課題を抱えていた。規模の拡大に伴い、処理件数が手作業で対処する量を超えている業務の数が増え、人手不足が顕著になってきた。同社は、いかにこの状況を脱したのか。
はじめての業務自動化は、プロジェクトを率いる中心人物が必要?
会社の規模が急拡大したことで人材リソース不足の課題に直面していた朝日インテックが、はじめに取り組んだのが社内業務の自動化の検討だ。そうした社内業務の自動化を率いることとなったのが、同社 資金管理グループの吉村グループマネージャーだ。
「会社の成長スピードが速すぎて、どの部署も人手不足にあえいでいますが、特に管理部門は顕著です。私が率いる資金管理グループでも、なかなか人員を増やせない状況があったため、早い段階から業務の半自動化を積極的に行っていました」(吉村氏)
吉村氏はアイエルアイ総合研究所が開発・販売する「StiLL」(マクロを作成しなくても、視覚的な操作でExcel業務の自動化やDB連携を実現するツール)を導入し、資金管理業務の半自動化を進め、Windows標準のタスクスケジューラなどを活用して無人運転にチャレンジしていたという。
そうした折、管理本部長からRPAについて調査するよう指示が出たのが、2017年のことだった。これを受け、吉村氏はRPAツールの比較検討を進めることになる。その際、選定のポイントとなったのが、「操作対象オブジェクトの指定までの手番の少なさ、オブジェクト発見の信頼性、動作指示方法が難しくないか」という点だ。
こうして、有力な候補として浮上したのが、ユーザックシステムの「Autoジョブ名人」だった。吉村氏は、「2カ月の試用期間で資金管理業務の既存プログラムを置き換えることができ、機能面で不足はないことを確認したほか、直観的に把握できるツールのシンプルさが決め手となりました。そこで、Autoジョブ名人で本格的な社内業務の自動化を進めたいと本部長に提言したのです」と振り返る。
しかし、管理本部長にとって、「全社的に展開するための組織的な実行体制」を構築することが重要だったという。そこで管理本部長は「RPA推進プロジェクト」を組織し、複数のメンバーでRPAツールを把握し、モデルケースを開発するよう改めて吉村氏に指示したのだ。
RPAを導入する業務領域選定のポイント
プロジェクトが立ち上がったのは、2019年の8月下旬だった。この時点で、Autoジョブ名人の開発ライセンスを購入し、実業務に適用しながら評価することになった。
「どの業務を自動化したいか」を各部署から募った結果、「週間業務報告書(以下週報)受付業務」に決まった。RPA導入時に最初にどの業務を選べば良いかは実は難しい。それは、その後の全社展開に大きく影響するからだ。なぜ、同社は「週報受付業務」に決めたのだろうか。
吉村氏は、「自動化による改善効果の大きい、インパクトがある業務を選びました。1つは、多くの人が関わる業務だということ。成功すれば効果が大きい。そして経営者の関心が高いこと。週報の主たる閲覧者は経営陣であり、その自動化に成功すれば経営陣に大きくアピールできます。ただし、パッケージが適用できるならそのほうが効率的です。週報受付業務は経営陣にとって使い勝手が良いかが最重要視されるため、あらゆる点できめ細かな対応が必要となり、パッケージで対処することは不可能でした」と語る。
もう1つ、吉村氏が週報受付業務を選んだ理由がある。それはメールを使う業務だったことだ。ユーザックシステムは、Autoジョブ名人のほかにもAutoメール名人というメールの自動化ツールも販売している。先行導入のタイミングでは、どのベンダーも特に厚いサポートをしてくれる。その機会にAutoジョブ名人とAutoメール名人が連携する案件を選んでノウハウを残そうと考えたのである。
ここで、RPAを適用することになった週報受付業務について簡単に説明したい(下図)。
同社の週報の提出義務者は1000名に上る。このうち、約300名がメール、残り700名が紙の書類で総務グループに提出していた。週報受付業務の担当者は、それらを部署別・役職順に並び替え、提出済みの社員を確認、その後未提出者リストを作成する。なお、週報の閲覧者は14名だが、回覧ルートが複雑で、3部用意する対象者、1部で足りる対象者などがあり、コピーを取るにも頭を使う。こうした業務を通して、毎週2000枚近くの紙の書類が新たに印刷・廃棄される状況があった。さらに、後日の閲覧要請に備えて約1000通の週報をスキャンして保管する業務も発生していた。
自動化にあたって、吉村氏らは業務ルールを設定した。週報を送るためのメールの件名ルールと、添付ファイルは週報1つのみとすること、また週報ファイルの種類は印刷(閲覧)対象の判断が不要なWordかPDFに限定することだった。そうした前提のもと、ロボットを作成し、2019年10月からβテストを開始した。βテストの期間は2カ月。最初の1カ月は管理部門の70名を、次の1カ月間では文字コードによるエラーのリスクが考えられる海外勤務者と提出フローが特殊な子会社を含めて300名でテストを実施した。
「βテストが想定通りに進んでいなければ別ですが、順調に仕上がっておりましたので、2カ月経過したところで全社展開に踏み切りました。βテストが長くなるとその間、業務が2重になり、かえって品質の低下につながるからです。この間、経営陣1人ひとりにβテスト版を使って説明し、新システムではiPadからタイムリーに週報が閲覧できることを実演したことで納得が得られ、従来の紙回覧を完全撤廃する同意が得られたことも本番運用を早めることに寄与しました」(吉村氏)
関連部署から少しずつ適用を進めながら不具合を解消し、予定通り2019年12月から週報受付ロボットの運用が開始された。導入効果としては、毎年約1000万円のコスト削減効果を得られ、また週報の提出日当日に閲覧できる体制となった。
RPAを社内に定着させるために、何をすべきか
RPA推進プロジェクトの中では、週報受付ロボの実運用を視野に入れ、仕様書の作成にも取り組んだという。
それは、全社展開するにあたり、吉村氏に頼らなくてもロボットをメンテナンスできる体制が必要だったからだ。そこでまずは、ほかのメンバーもロボットの動作をトレースできるようになることを目標に仕様書の作成が進められた。ロボットの動作スクリプトを見ながら、プログラム同士のつながりやボタンの意味などを理解して、仕様書にまとめる。吉村氏は、「RPAの教育で最初に重視すべきはトレース力です。トレースのノウハウさえ身に付けておけば、あとは本人にモチベーションが湧いたときに独り立ちすることができます。トレースしやすいツールを選ぶことが重要です」と強調する。
加えて、もう1つのRPAの全社展開のポイントとして、吉村氏は「相対的に安価なStiLLの開発ライセンスを配布し、各自が身の回り業務の効率化を成し遂げられる環境を用意してあげることが最初のステップだと思います。StiLLであれば半自動化止まりなので制御がたやすいですし、トレースが容易なのでブラックボックス化する心配も無用です。半自動化に慣れ、各種業務においてロボット化に向いたデータ構造を用意する習慣が身についたのちであれば、Autoジョブ名人を使って無人化するのはそれほど難しいことではありません」と話す。
そのほか、プロジェクトメンバーの構成や役割分担も、RPA導入の成否を左右するだろう。同社のプロジェクトの場合は、主要メンバーとして吉村氏に加え同社 管理本部 情報システムグループ ITサポートチームの菅卓也氏と、管理本部 法務グループ の鳥山真弓氏が参加している。
吉村氏を支えた人物の1人である菅氏は、情報システムグループに所属しており、主にiPad閲覧システムの構築やネットワークやファイルサーバの設定など、インフラ環境の構築を担当したほか、RPAツールの選定にも関わった。また、吉村氏の良き相談者となり、経営陣への説明や質問への応対などのサポート役も果たした。
一方、IT知識が豊富でプログラミングの能力を持つ鳥山氏は、吉村氏が作成した週報受付ロボットのプログラムレビューを行い、開発における助言をしていたという。また、手短にインパクトを持たせて理解させる資料作りに長けており、RPA推進プロジェクトの活動成果をまとめる役割も担った。
吉村氏は当時を振り返り、「RPAのプログラムができるというだけでは導入は成功しないことがよく分かりました。プログラムの作り手がいることはもちろん大事ですが、さまざまなインフラ面でのサポート体制や、レビュー体制、広報が得意な人材など、チームワークにとても助けられました」と語る。
こうして、吉村氏が率いたRPAプロジェクトは、グループ全社のボトムアップ型改善活動である「現場力向上プロジェクト」で最優秀賞を受賞したという。そして、最優秀賞の獲得が、RPAを経営層および全社員にアピールし、RPAの全社導入の気運を高めることにつながったようだ。
「Autoジョブ名人」に決めた理由
RPA推進プロジェクトが、Autoジョブ名人を採用した理由は、1ステップで操作するボタンや入力欄などのターゲットを決められることだった。ほかのツールでは、操作するターゲットにたどりつくことが大変なことが多いと吉村氏は指摘する。
操作の自動記録機能は使っていない。自動記録しても結局は、スクリプトを見てチェックすることが必要なので、それならばスクリプトを書くほうが早い。これもAutoジョブ名人を採用した理由の1つで、スクリプトを書くのが簡単なのだという。「私は吉村ほどプログラミングの習熟度が高くありませんが、それでもAutoジョブ名人のスクリプトはシンプルで、プログラミングの経験がない素人でも分かりやすいと言えます」(菅氏)。
スケジュール機能の優秀さも大きな選択理由だ。スケジュール機能が貧弱だと複数のジョブが起動したときに競合して障害が発生するが、Autoジョブ名人は待ち行列を作るので競合しない。そのほかにも休日だと翌営業日に実行を振り替える機能や、カレンダーでの日付指定機能など、実業務をイメージした機能が豊富にある。
RPAツールだけで自動化を実現しようとせず、ほかのツールと連携させるのが秘訣
週報受付業務では、未提出者リスト、未提出者上長リストなど、さまざまなリストの作成が必要だ。また週報メールの受付、催促メールの送信などメールを使う業務も多い。これらの業務をすべて1つのRPAツールで自動化しようと考えてはうまくいかない。
リスト作成、日付管理などの処理はExcelが得意だし、それを自動化する際にはStiLLが便利で簡単だ。メールの自動化はもちろんAutoメール名人が得意である。社員管理システムにログインしてデータを取得したり、StiLLを起動したりするのにはAutoジョブ名人を使えば良い。
このようにそれぞれのツールの強みを組み合わせるのが業務自動化を上手に進めるための秘訣だ。ほかのツールで、ボタン操作で済むところまで準備しておけば、後はAutoジョブ名人を使えば良いという考え方だ。
朝日インテックがRPA導入に成功した理由
最後に朝日インテックがRPA導入に成功した要因をまとめてみた。
・導入効果の大きい業務を自動化の対象として選んだ
・RPAを試験的に利用する段階で、RPAの知見・ノウハウを蓄積できた
・βテストの期間中は業務が二重化することを考慮し、長すぎないテスト期間に設定した
・少数精鋭でそれぞれ強みが違うプロジェクトメンバーが適材適所で活躍できた
・ロボットの動作をトレースできる人材を育成することに注力した
・操作オブジェクト(ボタンや入力欄など)のターゲティングが簡単で、スクリプトが分かりやすいRPAツール(Autoジョブ名人)を選定した
・RPAツールであるAutoジョブ名人だけで自動化するのではなく、メール自動化ツール(Autoメール名人)やExcel自動化ツール(StiLL)を適材適所で組み合わせて実現した
・手厚いサポートをしてくれるベンダーを選定した
RPA導入を考える企業の多くが、全社的な業務の標準化と整流化を一気に実現しようと考えがちだが、それではプロジェクトが大がかりになり過ぎてなかなか進まない。また、吉村氏が指摘する通り、全社業務が一斉に停まってしまうリスクもある。まずは間接業務の中から、自動化することで全社(特に経営者)に大きなインパクトを与える業務を選択し、少数精鋭で自動化することから始めてみてはいかがだろうか。